不動産取引における瑕疵担保責任B−物理的瑕疵−


弁護士 鍋 本 裕 之

1.はじめに

 不動産取引において、取引対象である不動産(土地・建物)に「隠れた瑕疵」があった場合、買主は売主に対して、損害賠償を請求し、瑕疵の存在により契約の目的を達成できない場合には契約を解除することができます(いわゆる瑕疵担保責任 民法570条、同566条)。
 ここでいう「瑕疵」とは、契約上予定されていた品質・性能を欠いていることをいいます。


2.「瑕疵」の種類

 まず、「瑕疵」にはどのような種類があるのでしょうか。法律及び過去の裁判例において「瑕疵」と認められた内容を分類すると、物理的瑕疵、法律的瑕疵、心理的瑕疵、環境瑕疵に概ね整理することができます。
 物理的瑕疵とは、例えば、建物については雨漏り・シロアリ・耐震強度の不足など、土地については土壌汚染、地中障害物の存在など、取引物件自体に物理的な不都合が存在する場合です。
 法律的瑕疵とは、例えば、取引する土地に法令上の建築制限が課されている場合など、法令等により取引物件の自由な使用収益が阻害されているような場合です。
 心理的瑕疵とは、例えば、取引物件で過去に自殺や殺人事件などがあり、心理的な面において住み心地の良さを欠く場合などです。
 環境瑕疵とは、例えば、近隣からの騒音・振動・異臭・日照障害や、近くに暴力団事務所があって安全で快適な生活が害されるおそれが高いような場合など、取引物件自体には問題はないが、取引物件を取り巻く環境に問題がある場合です。


3.民法等の原則

 まず、瑕疵担保責任の対象となるためには、「隠れた瑕疵」でなければなりません。「隠れた」とは、相当の注意を払っても発見できないという意味です。したがって、外形上明らかなものや買主に対して説明済みの瑕疵は瑕疵担保責任の対象にはなりません。
 では、以上のような「隠れた瑕疵」が存在する場合、買主は売主にどのような請求ができるのでしょうか。
 まず、買主は売主に対し、損害賠償請求をすることができます。また、瑕疵の度合いが大きく、契約をした目的が達せられない場合には、買主は売買契約を解除することができます。 
 次に、買主は、購入後いつまで瑕疵担保責任の請求ができるかという点については、買主が瑕疵を知った時から1年というのが、民法上の原則です(民法566条3項、同570条)。もっとも、不動産取引に関しては、宅地建物取引業法40条1項により、業者が売主になる場合にも、物件の引渡しから2年以上とすることが許されることになっており、実際の不動産売買契約書では引渡しから2年という内容になっている場合が多いと思います。
 以上が物理的瑕疵、法律的瑕疵、心理的瑕疵、環境瑕疵の全てに通用する瑕疵担保責任の原則的内容ですが、今回のテーマである物理的瑕疵に関しては、さらに、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(以下「住宅品質確保法」といいます。)「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」(以下「瑕疵担保履行法」といいます。)によって、新築住宅の買主について、より手厚い保護がされておりますので、以下、その概要について、ご説明いたします。


4.住宅品質確保法

 住宅品質確保法は、平成12年4月より施行されています。住宅品質確保法が適用されるのは「新築住宅」に限定されます。したがって、土地の売買や中古物件の取引には適用されません。もちろん、新築住宅であれば、一戸建てのみならず集合住宅・マンションにも適用があります。
 同法の対象となる瑕疵の内容は、新築住宅の物理的瑕疵のうち、構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防止する部分に限定されています(同法94条1項)。構造耐力上主要な部分とは、基礎、壁、柱等の重要部分です。雨水の浸入を防止する部分とは、屋根、外壁等のことです。
 また、売主等が、同法による瑕疵担保責任を負う期間は、原則として、物件の引渡しから10年間ですが(同法95条)、売主と買主の特約により、その期間を20年以内まで延長することができます(同法96条)。
 買主が請求できる権利としては、瑕疵修補請求及び損害賠償請求です。瑕疵修補請求というのは瑕疵の部分を直せという請求です。民法上は売買契約について瑕疵修補請求は認められていませんが、住宅品質確保法では認められています。
 要するに、住宅品質確保法は、新築住宅の建物の主要部分について、売主に10年間以上の長期的な瑕疵担保責任を負わせることで、瑕疵担保責任を充実させているのです。
 なお、同法の「新築住宅」とは、未入居の住宅で、かつ、建築完了から1年以内の住宅を意味します。また、同法は新築住宅の売買のみならず、請負契約(注文住宅など)にも適用されるということも、この機会に確認しておいてください。


5.瑕疵担保履行法

 最後に、瑕疵担保履行法について説明いたします。瑕疵担保履行法は、平成21年10月から施行されています。
 先に述べた住宅品質確保法により、新築住宅について、買主は、その重要部分について、引渡しから10年間以上の長期にわたり、瑕疵担保責任を追及できることになりました。しかし、その10年間の間に、売主である販売業者等が倒産してしまったらどうなるでしょう。また、マンション販売業者が販売した複数の大規模マンションについて耐震強度が不足しており、販売業者には、マンションの建て替えや多数の購入者に対する損害賠償に対応できるだけの資力がないような場合はどうなるでしょう。このような場合には、買主は、瑕疵担保責任を請求する権利はあっても現実には救済されない、という事態が起こり得ます。このような事態をできるだけ避けるために瑕疵担保履行法が制定されました。すなわち、瑕疵担保履行法は、新築住宅の売主等が倒産や資力不足で瑕疵担保責任を履行できない状況であっても、瑕疵担保責任を履行するための財源を別途確保するための法律です。
 まず、瑕疵担保履行法が適用されるのは、この法律が施行された平成21年10月1日以降に引き渡された「新築住宅」に限られます。新築住宅に限られるのは住宅品質確保法と同じです。また、同法の適用される瑕疵も住宅品質確保法の「瑕疵」に限定されています。すなわち、新築住宅の構造耐力上主要な部分及び雨水の浸入を防ぐ部分の瑕疵です。
 ではどのような形で瑕疵担保責任履行のための財源を確保するのか、瑕疵担保履行法は2つの方法を定めています。
 1つ目の方法は、供託制度です。これは、販売業者等において、同業者の新築住宅販売実績に応じて決められた金額を、瑕疵担保保証金として、法務局に供託させる方法です。供託というのは、国の機関である法務局にお金や有価証券を預けておく制度です。これによって、瑕疵担保責任が生じた場合に、買主は供託金から補償を受けることができるようになります。
 2つ目の方法は、販売業者等において、国土交通大臣が指定する住宅瑕疵担保責任保険法人との間で保険契約を締結する方法です。要するに、販売業者等に損害保険に入る義務を負わせて、もし、瑕疵担保責任が発生した場合には、買主に対して瑕疵担保責任に相当する保険金が支払われるという仕組みです。
 このどちらかを販売業者等に義務として負わせて万一の場合の資力を確保するというものです。
 なお、両制度により、購入者に補償される額は幾らくらいまでかという点ですが、供託の場合と保険の場合で若干違いがありますが、供託の場合も保険の場合も1件あたり2000万円程度以上の補償がなされるような制度設計になっています。


6.まとめ

 以上のとおり、不動産取引における瑕疵担保責任には様々な内容・種類のものがありますので、売主または媒介業者として取引に関与するときは、十分な物件調査を心がけていただく必要があると思います。また、瑕疵が存在する物件については、買主に対し、明確な説明をしていただくことで、「隠れた瑕疵」ではなくなり、瑕疵担保責任を請求される事態は避けられるはずです。また、十分な調査・説明がされていない場合には、重要事項の説明義務(宅地建物取引業法35条)、重要な事実の説明義務(同法47条1項、罰則同法80条)に違反することにもなりかねませんので、その点でも注意が必要です。
 また、新築住宅の取引においては、物理的瑕疵に関し、住宅品質確保法及び瑕疵担保履行法に基づき、売主の責任・義務が加重されておりますので、その点もご確認いただきたいと思います。

以上