平成23年地価調査
〜調査結果と大阪都心部の高度商業地について〜

不動産鑑定士 深澤 俊男


1.はじめに

 国土交通省及び都道府県は、平成23年9月21日に、平成23年の都道府県地価調査(価格時点:7月1日)の結果を公表しました。
 都道府県地価調査は、国土利用計画法施行令第9条に基づき、都道府県知事が毎年7月1日における調査地点の正常価格を不動産鑑定士の鑑定評価を求めた上で判定するものです。これは、地価公示(価格時点:1月1日)とともに、一般の土地取引等に指標を与えるとともに、国土利用計画法に基づく届出価格に対する審査の基準となること等により、適正な地価の形成に寄与することを目的としています。
 今回の調査地点数は22,460地点(宅地:21,888地点、林地:572地点)です。都市計画区域内だけではなく都市計画区域外の土地も調査対象としていることから、調査時点及び対象区域において、主に都市計画区域内を調査対象とする地価公示と相互に補完関係にあります。


2.全国の地価動向

 国土交通省HPによると、以下のようにまとめられています。

 平成22年7月以降の一年間の地価は、全国的に依然として下落を示していましたが、下落率は縮小し、上昇・横ばいの地点も増加しました。地価公示との共通地点で半年ごとの地価を見ると、東日本大震災のあった平成23年1〜6月は、全国で下落率がやや拡大しました。東京圏及び名古屋圏は下落率が拡大し、大阪圏は縮小しました。

 全国の対前年平均変動率を用途別にみると、住宅地 △3.2%、宅地見込地 △5.1%、商業地 △4.0%、準工業地 △3.5%、工業地 △3.9%、市街化調整区域内宅地 △3.2%となっています。

【住宅地】
東日本大震災以前の住宅の地価動向は、低金利や住宅ローン減税等の施策等により住宅需要が堅調で、下落率の縮小傾向を示す地域が多くみられました。
震災後、東京圏は弱い動きを見せており、名古屋圏もやや弱い動きとなっています。一方、大阪圏では、住環境は良好で交通利便性の高い住宅地において需要が底堅く、下落率が縮小しました。
地方圏は、人口減少等の構造的な要因により全体としては下落が継続しています。

【商業地】
オフィス系の商業地は、空室率の高止まり・賃料下落等により下落を示し、店舗系の商業地は、震災後の売上減少等もあって下落を示しました。
東京都心部では、オフィスの賃料調整(値下げ)が進んだこともあって、コスト削減目的の事務所再編のための移転や災害時の対応性の高いビルへの移転等の動きにより空室率が改善したエリアが見られ、これらエリアにおいては下落率が縮小しました。また、大阪圏、名古屋圏等において、利便性が高く高度利用が可能な商業地でマンション用地を取得する動きが見られました。
地方圏では、人口減少等に伴う需要減、中心市街地の衰退等により全体としては下落が継続していますが、九州新幹線の全線開業等の効果が見られる地域において地価上昇の動きが現れました。





3.大阪府内の動向

 大阪府内の変動率を見ると住宅地がマイナス2.0%(平成22年マイナス3.6%)、商業地が同マイナス3.0%(平成22年マイナス6.5%)とやはり住宅地・商業地ともに3年連続で下落となりましたが、全国平均と同様下落幅は縮小しました。
 前回、前々回は全地点で下落しましたが、今回、個別の地点においては、上昇地点はないものの、3年ぶりに横ばい地点が出現しました。横ばい地点の内訳は795地点中、住宅地32地点、商業地9地点、準工業地2地点、計43地点あり、府内においては、東日本大震災による地価への特段の影響は認められず、やや明るい兆しが見えてきています。
 住宅地を市町村別にみると、千早赤阪村のマイナス7.0%、豊能町のマイナス5.7%などが大きい下落となりましたが、大阪市北区及び大阪市福島区では変動率がゼロとなっています。
 商業地を市区町村別にみると、大阪市此花区のマイナス8.6%、大阪市中央区のマイナス6.2%が大きな下落となっています。

平成23年大阪府地価調査市区町村別対前年平均変動率[住宅地・商業地]


 参考までに、大阪府の基準地の価格・対前年変動率上位1位・対前年下落率上位1位は以下の通りです。


価格1位

住宅地:天王寺(府)−4  ⇒ 大阪市天王寺区真法院町  535,000円/u

商業地:北(府)5−1   ⇒ 大阪市北区梅田1丁目 7,400,000円/u


対前年変動率上位1位

住宅地:阿倍野(府)−4

 ⇒ 大阪市阿倍野区文の里3 丁目など他31 地点 0.0%

商業地:北(府)5−11  

 ⇒ 大阪市北区大淀南1丁目など他8地点  0.0%

対前年下落率上位1位 

住宅地:千早赤坂村(府)−1 ⇒ 南河内郡千早赤阪村大字森屋  −7.0%

商業地:中央(府)5−12 ⇒  大阪市中央区南久宝寺3 丁目  −14.3%



4.大阪都心部の高度商業地について

 ここでは大阪都心部の高度商業地、特にオフィスビル市場と地価動向について記します。
 前記の通り、大阪都心部の高度商業地においてマイナス14.3%の下落を示す基準地があるなど、全国的にみても商業地の下落幅は大きい傾向を示しています。これは、以前から懸念されていたオフィスビルの供給過剰などによる空室率の上昇とこれに伴う賃料水準の下落などによることが考えられます。特に、ここ数年、中央区エリアなどから新築ビルが多く供給されつつある梅田エリアへ事務所移転が進んだことなどにより、中央区エリアなど既成オフィスエリアにおける入居状況が芳しくないなどの影響によるところが大きいと考えられます。
 シービー・リチャードエリス(CBRE)社によれば、大阪の賃貸オフィスビルの新規供給面積は2008年:約39,000坪、2009年:約73,000坪、2010年:約51,000坪とバブル崩壊後において非常に多い新規供給水準が続きましたが、2011年と2012年は例年並みのほぼ標準的な供給量であると見込まれています。
 一方、直近においては梅田エリアをはじめとした新築・築浅ビルの稼働率は徐々に回復しているビルも見られ、以前のような閉塞感はやや薄らいできています。また、賃料の底打ち感が出てきたことによる既存オフィスエリアでの需要の持ち直し状況が出てきたことや、その他統合需要、他都市からのバックオフィスとしての需要、オフィス以外の用途などへの転換需要など今後期待できる兆しが感じられることも見逃せません。
 今後、2013年には大規模オフィスビルである「グランフロント大阪」A・Bブロックの竣工が控えており、再度、都心部の高度商業地におけるオフィスビル供給増大という懸念材料はありますが、上記の需要回復の動きなどを踏まえて、これらが地価に影響を与える潮目の変化を見逃すことなく、都心部の高度商業地の地価動向を見極めることが重要だと考えられます。


(参考資料)
   国土交通省HP 土地水資源局 地価調査課 発表資料より
   大阪府HP 平成23年大阪府基準地価格調査(地価調査)の結果について
   大阪府「大阪府地価だより」平成23年9月21日発行 第73号
   シービー・リチャードエリス「View Point」2011年9月13日

以 上