マンションの媒介業務に伴う留意点@

不動産鑑定士 金子 賢一郎


1.はじめに

 マンション(区分所有建物)の媒介(売買)に当り、買主に説明すべき事項は、ご存知の通り一般の戸建て住宅とは異なった固有のものがあります。ここではそのうち、管理費・修繕積立金・専用使用権について取り上げます。なお文中、「業法」は宅地建物取引業法を、「規則」は宅地建物取引業法施行規則を、「解釈」は「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(国土交通省)」を指します。


2.管理費

 買主に説明すべき管理費は「解釈」によると、「通常の管理費用とは共用部分に係る共益費等に充当するため区分所有者が月々負担する経常的経費をいい、修繕積立金等に充当する経費は含まれないもの」とされる。管理費は物件の購入後、毎月支払わなければならないものであり、マンションごと、部屋ごとに通常異なるものである。また、管理費は管理の状態や質を反映しているともいえる。このことから、説明を要するのは当然で「業法」及び「規則」でも説明を義務付けている。
 まれに管理費用が滞納された状態で売却されるケースがあるが、このような場合、告知していないと当該滞納金の支払いをめぐり紛糾することは必至である。従って通常の管理費用の滞納がある場合はその額を告げることとされている(「解釈」)。


3.修繕積立金(大規模修繕積立金・計画修繕積立金)


 修繕積立金は一般の管理費による通常の維持修繕とは別途徴収するもので、「一般の管理費でまかなわれる通常の維持修繕はその対象とされない」ものである(「解釈」)。長期の維持修繕計画のもと、各戸に割り振りした金額をその所有者が負担するもので管理費と同様、各月に請求されるのが通常である。「規則」第16条の2第6号では「当該一棟の建物の計画的な維持修繕のための費用の積立てを行う旨の規約の定めがあるときは、その内容及び既に積み立てられている額」の説明を義務付けている。
 従って、各区分所有についての毎月の修繕積立金額だけでなく、一棟についての積立金額についても説明する必要がある。これを読まれて、各区分所有の積立金額はともかく、なぜ、一棟の積立金額まで説明しなければならないのか疑問に思われる方がおられるかもしれない。しかし、購入者からすれば、例えば中古マンションで、外見上老朽化しており、維持補修がかなり必要と思われるにもかかわらず、一棟全体の積立金額が非常に低い場合など、将来のマンションの維持に関し不安を感じるケースもありうる。このことは、各区分所有についてその購入を検討する場合の判断材料になりうる。このように購入者の立場からすると、説明の必要性は理解できるものである。


4.修繕積立金の滞納をめぐる紛争事例

 上記に関連し、修繕積立金の滞納をめぐる紛争事例をご紹介したい。これは、中古マンション1戸(室)の媒介で、修繕積立金の額につき、一棟では多額の滞納修繕積立金があることを調査・説明しなかったとして、媒介手数料を返還した事例(和解)である。
 売買対象の住居部分については滞納の管理費や修繕積立金はないとの説明はしていたが、一棟の滞納修繕積立金については説明していなかったのである。実態は一棟全体では多額の滞納があり、目前に追っている大規模修繕に間に合わない場合には、他の区分所有者が立て替えて負担するか、今回の修繕工事を見送るしか方法はない状態であった。買主の言い分は、説明通り対象の住居部分についての滞納はないが、一棟全体では多額の滞納があり、このことは状況からすると、実際には資産価値の少ないマンションを買わされたことになり、損害を賠償してほしいということであった。結末は媒介業者が瑕疵のある媒介であることを認め和解により媒介手数料を返還した。
 「解釈」によると「当該区分所有建物に関し修繕積立金等についての滞納があるときはその額を告げることとする」とされ、当該一棟については、上記3.で述べたように積立て済みの金額についても説明する必要がある。この事案のように一棟の多額の滞納は、マンションの管理の状態・質に重大な影響を及ぼすことから考えると説明すべきであろう。


5.大規模修繕工事計画の調査漏れをめぐる紛争事例

 これも、中古マンション1戸(室)の媒介で、入居後、給配水管の大規模修繕工事計画が管理組合の総会において決定されていたことがわかり、特別負担金(特別徴収金)を支払うことになったため、媒介業者が和解金として特別負担金130万円の8割を支払うことになった事例である。なお、特別負担金を求める大規模修繕工事計画が管理組合で決議されたのは重要事項説明後、契約締結までの間であり、媒介業者からはこの説明は受けていなかった。
 業者に同情的に言えば、きわめてタイミングが悪いケースであり、重要事項説明前に管理組合の決議がなされていたら、あるいは防げたかもしれない。しかし、現実におこったケースであり、今後も起こりうる可能性はある。また、売主本人や管理組合に詳細に問い合わせれば、直近に入居者に対し負担を求めるような事案の有無につき確認できた可能性は強い。
 本件では、総会に対し、事前に審議事項として管理組合あるいは管理会社が議案を作成し所有者にも告知していたはずであり、可決されれば、各戸当り130万円の負担が発生する事はわかっていたのではないだろうか。当該媒介業者も本件では調査・説明が不十分であったことを認め和解金を支払っており、管理組合等への調査不足は否めない。


6.紛争事例から思うこと

 上記紛争事例から言えることは、慎重かつ十分な調査を欠いていた点にある。また、最新(直近)の事項につき調査しておくことが必要であり、たとえば、古い管理規約に基づく説明なども、変更されている可能性があり、誤った説明を行うことになる。特に金銭的負担が付きまとう管理費や修繕積立金は直近の金額を把握していないと、入居後に請求される金額との差額につき、クレームの対象になる。また、売買対象となる区分所有部分の滞納についての説明は当然としても、一棟全体の滞納についても、上記紛争からみてもわかるように、管理のレベルや資産価値につながることから、説明すべきであろう。そのほか、将来に管理費や修繕積立金以外に各戸の負担が決定しているものや、予定されるものもあれば、説明しておかないと紛糾する可能性がある。
 買主は入居後、説明を受けた以外の金銭の支払いには心情的に納得がいきにくいものであり、「業法」等で説明を義務付けているかいないかに関わらずそのようなものについては出来るかぎりの調査を行い、告知することが大事で、これが、ひいてはトラブルや紛争を回避することになるであろう。
 これらのことは「業法」第47条のいわゆる「重要な事項」や民法による業者としての善管注意義務とも密接な関連を有していることにも留意する必要がある。


7.専用使用権・駐車場の使用

 一般に、専用使用権とは共用部分及び敷地の一部を特定の区分所有者あるいは区分所有者以外の第三者が、一定の目的のために専ら使用する権利を有する場合、このような権利を専用使用権と言う。
 専用使用権の対象となるものとしては専有部分に付随するものとして、専用庭、バルコニー、倉庫等がある。専有部分の範囲は、区分所有法等の法律で定められているわけではないので、各マンションによってそれぞれの規約・使用細則等で定めることになる。
 敷地内の駐車場も専用使用権であるが、かつて一部で行われていた駐車場専用使用権の売買のケースと混同されることなどから、駐車場は共有敷地であって、管理組合と特定の区分所有者間での賃貸借契約であることを明確にするため、マンション標準管理規約でも平成9年2月以降、駐車場に関しては「専用使用権」ではなく「駐車場の使用」とされている。
 これら、特定の者のみ使用を許す旨の規約がある場合、その内容の説明が義務付けられている(「規則」)。また、「解釈」では専用使用権の項目を記載すると共に専用使用料を徴収している場合にあってはその旨及びその帰属先を説明、さらに駐車場については使用し得る者の範囲、使用料の有無、使用料を徴収している場合にはその帰属先について説明することとしている。


8.駐車場の使用をめぐる紛争

 中古マンションの媒介で「駐車場あり」との説明を受けて購入したが、管理組合から「前所有者は確かに駐車場の使用権を持っていたが、管理規約では、区分所有権を譲渡した場合には、その使用権は消滅し、その譲受人が必ずしも区分所有権を承継できるものではない。実態は順番待ちになる」といわれたため、この買主が媒介業者の調査不十分を理由として、敷地外の駐車場使用料相当額の損害賠償を求めるという紛争が多い。
 駐車場の使用については、上記7.でその説明義務について述べたが、形式的な調査・説明だけでなく、運用等の実態を把握する必要があり、例えばハイルーフ車や大型車不可であるとか、車の大きさにより料金が異なるようなケースもある。また、すでに車を所有している買主は、入居時にすぐに駐車場が必要なことから、紛争事例のような場合、トラブルになるので、このことも留意すべきであろう。

以 上