不動産取引における瑕疵担保責任C−土地の瑕疵責任−

弁護士 辰 田 昌 弘

 今回は,不動産取引における瑕疵担保責任の中から,土地の瑕疵(隠れた物の瑕疵)をとりあげます。

 土地の瑕疵は地表を見ただけではわからないので事前確認が困難であり,契約履行後に問題が発生することになりがちです。そのため紛争になりやすく,同じ類型の裁判例が数多く現れています。そこで,売買契約の当事者となるにしても,媒介業者として関与する場合でも,先例から学ぶことが効果的な紛争予防法になりますので十分に検討しておきましょう。


2 土地の瑕疵担保責任を巡る紛争事例

 まず,実際の裁判において争われている土地の隠れた瑕疵にはどのようなものがあるのかを概観しておきます。
 土地の物質的欠陥の紛争事例としては,地中にコンクリート塊,地中梁,建築廃材などの埋設物が存在した場合があります。もう一つの典型例は,土壌汚染となる有害物質が地中に含まれていた場合です。どちらも繰り返し訴訟になっている問題ですので,今回はこの二つの類型について最近の判例を解説していきます。その他にも分譲地の地盤が軟弱であった事例,地中に井戸が存在した事例や高濃度の油分が含まれていた事例等があります。
 土地の環境瑕疵や心理的瑕疵は,住み心地の良さを欠くこと等を欠陥だと考えるものです。以前にこのメールマガジンでも解説をしました(106号・108号)。環境瑕疵としては隣地の騒音や振動,日照の事例が,心理的瑕疵としては土地上の建物で自殺,殺人事件,火災による焼死が発生した事例があります。また,判例は法令上の制限も物の瑕疵に含めて考えています。これらの類型も,地中の瑕疵同様,土地を見ただけでは瑕疵の存在を確認できない難しさがあります。


3 瑕疵の意味

 売買の目的物である土地に「隠れた」瑕疵がある場合には,民法570条により民法566条が準用され,瑕疵のために契約をした目的を達することができない買主は契約を解除でき,損害賠償請求もできることになります。
 ここでいう「瑕疵」の意味について,法律や判例が明確に定義しているわけではなく,瑕疵担保責任の性質をどのように考えるか等により説明の仕方が異なります。「その種類の物として通常有すべき性質を欠いていること」とする考え方もありますが,ここでは「その契約において予定された性質を欠いていること」という理解を前提にします。土地に問題点が存在していても,買主に十分に説明することができれば,その問題点を含む土地の性質が「契約において予定された性質」になります。そうすると,そのままの状態で引き渡しても何ら欠ける点はなく瑕疵は存在しないことになります。
 また「隠れた」瑕疵というのは,通常人が買主になった場合に普通の注意を用いても発見できない瑕疵という意味です。買主が瑕疵のことを知っていたり,普通の注意をしていればわかったはずである場合には,瑕疵担保責任を主張できないことになります。
 以上の意味を考えれば,何らかの方法で買主にマイナスの情報が伝わるようにできれば「隠れた」瑕疵でなくなることがわかります。


4 地中埋設物が存在した事例

 それでは最近の裁判例(東京地方裁判所平成22年4月8日判決)を題材に地中埋設物の瑕疵について考えてみます。
 この事案は,売主(宅建業者)が建売住宅を売却したところ,土地にコンクリート製のブロックフェンス基礎部分が埋設されていたため,買主が瑕疵担保責任等を理由に売主に損害賠償請求をしたものです。埋まっていたのは,境界によく設置されているブロックフェンスの基礎です。10pから65pの深さに,幅12p程度,厚み25p程度で存在し,その下には捨てコンクリートと採石層がありました。ブロックフェンスの基礎ですから,隣地との境界に接して内側に存在していました。売主もその存在を知らず,通常人の普通の注意では発見できない状況でした。
 紛争で多い地中埋設物は,かつて存在した建築物の基礎部分です。買主がその土地に建物を建てて利用する際にこれが支障となります。契約当事者はそのような性質を予定して土地を売買していないため,「予定された性質を欠いている」として瑕疵に該当するというのはわかりやすい話です。
 本事例のブロックフェンスの基礎部分についても,買主は売買契約の時にそのようなものが地中に含まれている性質の土地だとは予定していなかったと思われます。そうすると本件事例の土地も「売買契約において予定された性質」ではないと言えそうです。
 しかし,裁判所は次のような理由で瑕疵にはあたらないとしました。まず,本事例の埋設物があるのは境界沿いのわずかな幅にすぎず,買主が購入した建物と境界との間の狭い隙間であること,その場所にはエアコン室外機や雨樋などしかないことを確認しました。その状況では,居住用建物の敷地としての一般的な利用が大きく妨げられることはないとしたのです。また,将来の増改築や建替の際の支障は不確定であり,土壌や現在の建物の安全性に悪影響を及ぼすこともないとしました。以上の点からして,本件土地は当事者が通常予定している品質,性能を欠くものということはできない,すなわち瑕疵ではないと判断したのです。
 売買契約において,予想外の問題点があればただちに「予定された土地の性質を欠く」ことになるわけではありません。土地は過去から繰り返し利用されてきたものですから地中には様々なものが含まれている可能性があります。その前提で両当事者がどの程度の性質を予定したか(あるいは通常予定するか)が重要です。裁判所はこの点について,本事例の土地は「居住用建物(建売住宅)の敷地としての性質をもつべきだと合意された」と認定しました。その上で,実際にその性質に欠けるところはなかったと判断したのです。同じ性質の土地でも,例えば更地売却で境界付近の埋設物が支障になるようなことを当事者が予定していれば瑕疵に該当したかもしれません。
 契約の段階で当事者が予定する土地の性質を明確にしておけば,後で問題が生じても瑕疵に該当するかどうかをはっきりさせることができます。明確な契約を締結しておくことが紛争予防策につながるのです。


5 土壌汚染と商法526条が問題になった事例

 もう一つの事例として東京高等裁判所平成23年1月20日の判決を紹介します。ここでは瑕疵と共に商法526条の適用が問題になりました。
 事案は,買主(宅建業者)がマンション用地を購入し,引き渡しから10か月後に土壌汚染調査をしたところ六価クロムと鉛が検出されたため,売主(会社)に対して調査費等の損害賠償を求めたというものです。この土地では長年製缶工場が操業しており,売主は契約前と契約後引渡前の2回にわたり土壌汚染対策法に基づく調査をしましたが,その時は基準値以上の有害物質は確認されませんでした。また,この契約には特約があり,本件土地引渡後といえども土壌汚染等が発見され買主が損害を被った場合には売主が責任を負うことが合意されました。責任の存続期間についての制限はありません。
 判決は,隠れた瑕疵について,本件土地には指定基準を超えた有害物質が含まれており人の健康被害を生ずるおそれがあること,売主の調査でも発見できなかったことから認めました。瑕疵は土地の性質について考えますので,売主の事前調査で判明しなかった点は影響を与えませんでした。
 また,判決は本件特約が商法526条の適用を排除するかについても検討しました。同条は,商人間売買において,買主は目的物を受領したときは遅滞なく検査し,瑕疵を発見したときは直ちに通知しなければ売主の責任を問えなくなると規定します。また,土壌汚染のように直ちに発見することのできない瑕疵の場合には,6か月以内に発見して直ちに売主に通知しなければ責任を問えなくなります。本事案では土地引き渡しから10か月が経過していました。しかし,裁判所は,売主が引き渡し前に2回も土壌調査をしたことからするとその上さらに買主が遅滞なく商法526条の検査をすることは想定されていなかったとして,前述の特約が商法526条を排除したと判断しました。
 商人間の売買契約であるときは商法526条の適用があることを忘れないでください。また,瑕疵担保責任免除特約を活用する場合には明確に規定すると共に,売主が瑕疵を知りながら告げなかったときには認められないこと(民法572条)の他,消費者契約法8条1項5号,宅建業法40条の制限にも注意を要します。


6 土地の瑕疵を把握する方法

 地中の瑕疵を契約前に把握し,買主に情報を伝えることができれば紛争の予防になることを述べました。しかし,そもそも表面上何の問題もない土地について地中の情報を把握することは可能なのでしょうか。
 そのための簡易で効果的な方法は土地の来歴を調べるというものです。現況調査の他,前所有者や近隣の人からの事情聴取,登記簿確認,過去の地図,行政機関の資料などにより過去の土地の利用方法がわかれば,瑕疵を予測できます。かつて大きな建物が存在していたなら地中梁等の基礎部分の残存が予測できます。前述の判例のようにかつて製缶工場が存在していたことがわかれば,金属関係の有害物質が地中に含まれている危険を考えなければなりません。必要があればそこからさらに詳しく調査をします。
 売主や媒介業者として取引に関与する場合,地中のことですから無理な調査をする義務はありませんが,このような簡易な調査を怠って事実に反する説明をすると責任を問われることになりかねません。

 契約当事者が対象土地の性質を正確に把握して契約をしたり,正しい瑕疵担保責任免除特約を設定すれば,瑕疵担保責任の問題は発生しません。このような点にも一層理解を深めていただくようお願いします。


以上