平成24年の地価調査結果について

不動産鑑定士 西川 和孝

1.はじめに
 『地価調査』とは、国土交通省及び都道府県が毎年7月1日時点の地価について不動産鑑定士の評価を踏まえて判定し、9月中旬に発表する地価です。住宅地、商業地など用途地域別に1平方メートルごとの価格で示されています。今年の調査は全国の22,264地点が対象となっております。一方、毎年3月に発表する「公示地価」は国交省が毎年1月1日時点の地価を調べ、売買を行う時の基準としているものです。

2.全国の地価動向
 平成23年7月以降の1年間は、全国的には依然として下落していましたが、下落率は縮小し、上昇、横這いの地点も増加しました。また、地価公示との共通地点で半年ごとの地価を見ると、東日本大震災のあった平成23年1〜6月は全国で下落率がやや拡大しましたが、以降下落率は縮小しています。
 全国平均で過去1年間の変動率は、住宅地が▲2.5%、商業地は▲3.1%の下落を示し、全国の全用途平均は21年連続下落となりました。しかし全国の全用途平均の下げ幅は▲2.7%で昨年の▲3.4%から縮小し、三大都市圏(東京・大阪・名古屋)の全用途の変動率においては、▲1.0%と、昨年の▲1.7%からほぼ半減となっています。

圏別 地価変動率の推移

 

 

住 宅 地 商 業 地
20年 21年 22年 23年 24年 20年 21年 22年 23年 24年
全   国 ▲1.2 ▲4.0 ▲3.4 ▲3.2 ▲2.5 ▲0.8 ▲5.9 ▲4.6 ▲4.0 ▲3.1
三大都市圏 1.4 ▲5.6 ▲2.9 ▲1.7 ▲0.9 3.3 ▲8.2 ▲4.2 ▲2.2 ▲0.8
 

 

 

東 京 圏 1.6 ▲6.5 ▲3.0 ▲1.9 ▲1.0 4.0 ▲8.9 ▲4.1 ▲2.3 ▲0.9
大 阪 圏 1.0 ▲4.5 ▲3.6 ▲1.8 ▲1.0 2.8 ▲7.1 ▲5.3 ▲2.6 ▲1.0
名古屋圏 1.5 ▲4.2 ▲1.3 ▲0.7 ▲0.2 1.9 ▲7.3 ▲2.9 ▲1.1 ▲0.5
地 方 圏 ▲1.2 ▲3.4 ▲3.6 ▲3.7 ▲3.2 ▲2.5 ▲4.9 ▲4.8 ▲4.8 ▲4.1

3.大阪府における地価調査地点
 大阪府の対象基準地点は795地点(内訳 住宅地が510地点、商業地が174地点、準工業地が73地点、工業地が12地点、宅地見込地が1地点、市街化調整区域宅地が24地点、林地が1地点)であり、土地の取引価格の指標となるものです。

 ◆大阪府の1年間の地価動向をみると

(1) 全体においては
 ・住宅地、商業地ともに、4年連続の下落となりましたが、住宅地は▲1.1%、商業地は▲0.9%と下落幅は住宅地、商業地ともに3年連続で縮小しました。

 

21年 22年 23年 24年
住宅地 ▲4.5 ▲3.6 ▲2.0 ▲1.1
商業地 ▲8.6 ▲6.5 ▲3.0 ▲0.9

・上昇地点〜45地点(住宅地18地点、商業地25地点、準工業地2地点)横這い地点、前回の43地点より大幅に増加し138地点。

(2) 住宅においては
 ・大阪市天王寺区がプラス1.3%、大阪市福島区がプラス0.7%、大阪市阿倍野区がプラス0.3%に変動率がプラスとなっています。また他方、千早赤阪村では▲4.4%、豊能町が▲4.1%とやや大きな下落が出ています。
 ・上昇地点が出てきているのは、住環境が良く、利便性が高い地域となっています。
(3) 商業地においては
 ・大阪市天王寺区がプラス1.3%、大阪市福島区がプラス1.2%、大阪市北区と西区がプラス0.5%と変動率がプラスとなっています。また他方、大阪市此花区が▲4.3%、大阪市鶴見区が▲4.0%の下落となりました。
 ・マンション用地としての需要が強い地域では,上昇ないし横這い地点が目立っています。



大阪圏での用途別変動率

  住宅地 商業地 準工業地 工業地 宅地見込地 調整区域内宅地
23年 24年 23年 24年 23年 24年 23年 24年 23年 24年 23年 24年
大阪市地域 ▲2.0 ▲1.0 ▲3.4 ▲0.6 ▲2.3 ▲1.2 ▲4.2 ▲3.7
北大阪地域 ▲1.4 ▲0.5 ▲1.4 ▲0.6 ▲2.0 ▲1.1 ▲2.2 ▲2.2 ▲2.6 ▲2.4
東部大阪地域 ▲2.3 ▲1.4 ▲3.0 ▲1.4 ▲2.5 ▲2.2 ▲3.0 ▲2.3 ▲2.4 ▲2.2
南大阪地域 ▲2.3 ▲1.3 ▲2.9 ▲1.5 ▲2.6 ▲1.7 ▲3.7 ▲2.5 ▲2.1 ▲1.1 ▲4.4 ▲3.0
 南河内地域 ▲3.0 ▲1.9 ▲1.7 ▲1.4 ▲3.5 ▲1.7 ▲6.1 ▲4.1
  泉州地域 ▲1.9 ▲1.0 ▲3.2 ▲1.6 ▲2.4 ▲1.7 ▲3.7 ▲2.5 ▲2.1 ▲1.1 ▲3.5 ▲2.5
 

堺市域 ▲2.2 ▲0.9 ▲4.4 ▲2.1 ▲3.0 ▲1.4 ▲3.5 ▲2.3 ▲3.9 ▲1.6
大阪市を除く大阪府域 ▲2.0 ▲1.1 ▲2.5 ▲1.3 ▲2.4 ▲1.7 ▲3.4 ▲2.4 ▲2.1 ▲1.1 ▲3.5 ▲2.7
大阪府全域 ▲2.0 ▲1.1 ▲3.0 ▲0.9 ▲2.4 ▲1.5 ▲3.7 ▲2.8 ▲2.1 ▲1.1 ▲3.5 ▲2.7


4.大阪府の基準地の価格の1位等

(1) 価格1位
  ・住宅地:大阪市天王寺区真法院町 54万4千円/u
   ・商業地:大阪市北区梅田1丁目     755万円/u

(2) 対前年上昇率上位1位
    ・住宅地:大阪市天王寺区真法院町 プラス1.7%
    ・商業地:大阪市北区同心2丁目   プラス2.1%

(3) 対前年下落率上位1位
    ・住宅地:豊能郡豊能町希望ヶ丘5丁目 ▲5.7%
    ・商業地:大阪市此花区春日出北2丁目 ▲4.3%
         大阪市中央区高麗橋1丁目 ▲4.3%



5.平成24年大阪府地価調査市区町村別対前年平均変動率表 [住宅地・商業地]




6.[参考資料]
平成24年9月 国土交通省の平成24年度の地価調査結果の概要

○ 平成23年7月以降の1年間の地価は、全国的に依然として下落を示したが、下落率は縮小し、上昇・横這いの地点も増加した。

○ 地価公示(1月1日時点の調査)との共通地点で半年毎の地価動向をみると、東日本大震災のあった平成23年1月〜6月に拡大した下落率は、平成23年7月〜12月以降縮小しており平成24年1月〜6月は下落率が更に縮小した。

○ 不動産市場は回復傾向を示しているが、円高、欧州債務危機等の先行き不透明感による地価への影響も見られる。

【住宅地】
◆ 低金利や住宅ローン減税等の施策による住宅需要の下支えもあって下落率は縮小した。人口の増加した地域で下落率の小さい傾向が見られ、また住環境良好あるいは交通利便性の高い地点で地価の上昇が見られる。
◆ 圏域別にみると
・東京圏は、大震災の影響からの回復傾向が見られ、半年毎の地価動向を見ると、特に平成24年1月〜6月は回復の程度が加速した。特に神奈川県では横浜市及び川崎市を中心として上昇地点が増加した。
・大阪圏は、1年間を通じて下落率が縮小しており、上昇地点も兵庫県を中心として増加した。
・名古屋圏は、平成23年7月〜12月は圏域として横這いとなり、更に平成24年1月〜6月は上昇となった。
・地方圏は、前年度より下落が縮小し、上昇地点が増加した。特徴的な地域をみると、宮城県が東京都と同率(▲0.6%)となり、全国でも愛知県に次ぐ下落率の低さを示したほか、福岡県で上昇地点が増加した。

【商業地】
◆ 前年より下落率が縮小した。オフィス系は依然高い空室率となっているものの、新規供給の一服感から低下傾向にあり改善傾向が見られる地域も多い。また、店舗系は大型店舗との競合で中小店舗の商況は厳しく商業地への需要は弱いものとなっている。一方、主要都市の中心部において、賃料調整が進んだこともあって、BCP(事業継続計画)やコスト削減等の観点から、耐震性に優れる新築・大規模オフィス業務機能を集約させる動きが見られ、こうしたオフィスが集積している地域の地点の地価は下げ止まってきている。また三大都市圏と一部の地方圏においては、J-REITによる積極的な不動産取得が見られた。その他、堅調な住宅需要を背景に商業地をマンション用地として利用する動きが全国的に見られた。
◆ 圏域別にみると
・東京圏は、大震災の影響からの回復傾向が見られ、特に平成24年1月〜6月は回復の程度が加速した。特に神奈川県では横浜市及び川崎市を中心として上昇地点が増加した。
・大阪圏は、1年間を通じて下落率が縮小し、平成24年1月〜6月は回復の程度が加速した。特に大阪府を中心として上昇地点が増加した。
・名古屋圏は、圏域として1年間でほぼ横這いとなった。
・地方圏は、前年より下落率が縮小した。特徴的な地域をみると、マンション用地等の需要により滋賀県草津市、大津市及び福岡県福岡市の早良区では全体で上昇となった。

【東日本大震災の被災地】
◆ 福島県では、平成24年7月1日現在で、原子力災害対策特別措置法により設定された警戒区域等に存する基準地についての調査を休止した(休止は警戒区域、計画的避難区域及び避難指示解除準備区域内の31地点)。
◆ 被災地における土地への需要は被災の程度により差が見られ、特に宮城県では浸水を免れた高台の住宅地等に対する移転需要が高まり地価の上昇地点が見られ、石巻市、東松島市等では住宅地及び商業地の全体で上昇した。岩手県でも宮古市、釜石市等では住宅地の全体で上昇した。福島県では全般的に前年より下落率が縮小した。

7.[今後の動向について]
 今回の地価調査の結果をみると、一部には上昇した地点もあり、地価の下落に歯止めがかかりつつ、地価を取りまく環境が良くなっていくきざしも見受けられます。
 しかし、東日本大震災の影響や経済状況、雇用等様々な問題もあり、予断は許されない状況にあります。
 特に、今回上昇した理由として、利便性、快適性等が指摘されていることは、逆にこれらの要因において弱い地域については、今後も厳しい状況が続くものと予測されます。