中古マンションのリフォーム方法に関する説明義務(判例解説)



弁護士  入 江  寛

 
1.  中古マンションを内装工事後引き渡す売買契約において、媒介業者に、内装工事方法についての説明義務違反があったとして損害賠償義務が認められた事例(東京地判平成25年3月18日ウエストロージャパン RETIO 2014.1 NO.92)を紹介します。

2.

事案の概要
(1)  宅建業者Y1は、平成21年7月27日、昭和54年11月に建築されたマンション(以下「本件マンション」と言います。)の501号室(以下「本件建物」と言います。)を、宅建業者Y2の媒介で、転売目的で買い受けました。
 Y1は、同年8月20日から本件建物の内装工事(リフォーム工事)に着手しました。内装工事仕様書に基づいて、間取りは、その一部(書斎と台所の部分等)を変更する以外は概ねそのままとして、利用できる既存の壁、天井等を利用して行う内容でした(以下「本件内装工事」と言います。)。Y1は、当初から、いわゆるスケルトン状態(住戸内を全て解体・撤去し、間取りを自由自在に変更することができ、台所・浴室・壁や床・給排水管や電気配線などが新築マンションと同様に設置されること。)からの内装工事は予定していませんでした。
 ところが、Y2が販売のために作成したチラシには、「スケルトンから内装リノベーション予定≪デザイナー監修≫※平成21年10月上旬完成予定」等と記載されていました。
 買主Xは、このチラシを見て、8月23日、本件建物の内覧会に行き、Y2の担当者に案内された際、二種類のパンフレットを示され、「売主がスケルトン状態から内装工事を行い、物件価格1億3800万円」のAパターンと、「スケルトン状態で物件価格1億2800万円で引渡し、買主が内装工事を行う」Bパターンの説明を受けました。Xは、Aパターンで、300万円を値引きした1億3500万円で本件建物を購入することを申し入れ、8月28日、Xは、Y2の仲介で、Y1との間で、代金1億3500万円(税込)で本件建物の売買契約を締結しました。Y1は、Xに対し、本件内装工事の仕様内容を記載した内装工事仕様書を交付し、特約には、Y1は、本契約締結後、速やかに内装工事に着手し、内装工事が完了した状態にして本件建物を引き渡す等とされていました。
 同年9月2日、内装工事業者は、前日の大雨によって本件建物の書斎の窓サッシの下に雨水の浸入を発見し、本件マンションの管理会社及びY1に伝えました。9月14日、管理会社から依頼された補修会社は、修繕工事をしたが浸水は完全に止まりませんでした。10月8日、X側は、本件建物を訪れ、本件内装工事の仕上がりを見た際、数日前の雨が書斎の窓サッシ下から浸水したため、書斎の畳が上げられている状況を確認しました。
 10月9日、Xは、残代金全てを支払って、本件内装工事が完成した本件建物の引き渡しを受けました。その後、本件建物内で、X側はY1から、書斎の雨漏りの修繕が予定されていることの説明を受けました。11月15日、Xの家族は、本件建物に転居しました。書斎の雨漏りの修繕が2度行われましたが、平成22年1月28日時点でも微量ながら水漏れが確認されました。

(2) そこで、Xは訴訟提起し、買受けた本件建物に瑕疵等の問題があったことや、本件内装工事をスケルトン状態から行わないこと等について、Y1には、本件売買ないしは信義則上の附随義務としての説明義務違反があり、Y2には、仲介契約ないしは信義則上の附随義務としての調査・説明義務違反があったとして、Y1Y2に対して、連帯して、債務不履行ないし不法行為に基づいて、3000万円の支払いを求める損害賠償請求をしました。さらに、Xは、予備的に、Y1に対し、内装工事に関する債務不履行ないし瑕疵担保責任による損害賠償請求権に基づき約2597万円を請求しました。

3. 判決の結果は、以下の通りでした。

(1) Y1,Y2の調査・説明義務違反
不動産仲介業者は、不動産の購入者の利益保護のために、取引関係者に対して信義誠実を旨として業務を行う責務を負っているものであるから、宅地建物取引業法35条に定められた重要事項はもとより、信義則上、買主が売買契約を締結するかどうかを決定づけるような重要な事項について知り得た事実については、これを買主に説明、告知すべき義務があるものと解される。もっとも、売買当時、その目的物に瑕疵の存在を疑わせるような特段の事情のない限りは、瑕疵の存否を積極的に調査すべき義務を負うものではない。

ア Y1について
@  本件建物の瑕疵等の問題については、Y1は、本件建物を転売目的で購入していた業者であり、本件建物を使用していないこと等から、調査・説明義務はない。

A  Y1は、当初から本件内装工事をスケルトン状態から行うことを予定しておらず、Y2担当者が内覧の際にXに対してY1がスケルトン状態から内装工事を行う旨の説明をしていたことを知らなかったのであり、Y1がXに対して、本件内装工事をスケルトン状態から行わないことを説明すべき義務はない。

イ Y2について
   Y2は、Y1から説明を受けた際に、スケルトン状態から内装工事を行うものと軽信して、チラシを作成し、チラシから本件建物に関心を抱いたXに対して、改めて本件内装工事がスケルトン状態から行われる旨の説明をして、Xから購入申し込みを受けている。Y2は、Xが内装工事をスケルトン状態から行われることを考慮要素の一つとして申し込みをしたことを認識しており、その後本件売買がされるまでの間に、本件内装工事が実際にスケルトン状態から行われるものであるか否かを調査し、自らが説明した内容が事実と異なることについてXに対して説明すべき信義則上の義務を負っていた。しかし、Y2は、調査説明義務を怠り、本件売買を成立させたものであるから、同義務違反として、不法行為に基づきXに生じた損害を賠償すべき義務を負う。
 そこで、損害について検討する。Xは、Y1が交付した内装工事仕様書記載の内装工事を行うことを了解しており、本件内装工事がスケルトン状態から行われなかったことによってXに財産的損害を生じたものとは認められない。しかし、Xは、Y2において前記調査説明義務を果たしていれば、それを踏まえて本件売買ないし本件内装工事の内容に関する交渉を行うことができたもので、そのような機会を失ったことによって生じた損害を慰謝料として評価するのが相当であり、慰謝料100万円及び弁護士費用10万円の合計110万円の損害賠償責任を負う。

(2) Y1の債務不履行責任、瑕疵担保責任
ア 債務不履行責任
   Y1は、本件売買(内装工事仕様書)に基づき、物置の扉の設置に関する義務を負っていたがこれを怠っており、物置の扉の設置に要する4万7181円の損害賠償義務を負う。

イ 瑕疵担保責任
   民法570条にいう瑕疵とは、売買契約の目的物が契約の趣旨に照らして通常有すべき品質性能を欠いていることをいうが、本件建物は、本件売買時点で建築後約30年が経過していた中古マンションの区分所有建物であったのであるから、その通常有すべき品質性能を欠いていたか否かについては、このような中古マンションであることを前提に判断される。もっとも、本件売買は、本件仕様書等に従ってY1が内装工事を行った後の本件建物を引き渡すことを内容とする契約であったから、内装工事部分に関しては、新築建物と同様に通常有すべき品質性能を欠くものであるか否かが判断される。
 本件売買時点において、降雨があった場合に、本件建物のうち書斎及び居間にルーフバルコニー側から浸水する状態にあり、書斎及び居間のサッシの隙間から細かい落ち葉が室内に入る状態にあった。当該サッシの老朽化の程度は、その経年(約30年)劣化を考慮しても、通常有する品質性能を欠くものであり、本件建物の瑕疵であると言うべきである(なお、当該サッシは本件マンションの共用部分に属するが、当該サッシの瑕疵が本件建物の使用収益に直接影響を与えることからY1が責任を負う。)。
 当該サッシ交換について、Xは、管理組合からサッシ改修工事費用を受領しており、この点について、Y1には損害賠償義務は認められないが、居間の絨毯や畳の交換に要する費用については損害を賠償すべきであり、絨毯については31万2400円、畳については14万1625円について交換に要する損害と認める。
 Y1は、Xに対し、当該サッシの瑕疵に基づく損害賠償として、合計45万4025円の範囲で支払う義務を負う。

(3) 結論
売主Y1 50万1206円の損害賠償義務
媒介業者Y2 110万円の損害賠償義務

4. まとめ

 中古建物の売買を媒介する場合には、リニューアル内装工事について、売主側・買主側のいずれが行うかを確認し、売主側が内装工事を行う場合にはどのような内容の内装工事を行うかについて、売主側に十分確認をし、これを買主側に説明し、内装工事について、売主と買主との意思が合致するよう注意すべきです。媒介業者としては、チラシ広告を出す前に売主に内装工事の内容について確認し、さらに、売買契約を締結する前にも、再度、売主に確認すべきです。
 また、瑕疵については、約30年経過した中古建物であっても、当該部位の程度によっては瑕疵担保責任を負う場合があること、また、引き渡し前に売主側が行った内装工事部分については、新築建物と同様に通常有すべき品質性能を欠くものかどうかが判断されることも、注意すべきです。


(一財)大阪府宅地建物取引主任者センターメールマガジン平成26年9月5日号執筆分