売買物件の付帯設備に関する説明義務について 2

弁護士 増 田 勝 洋

1.売買物件の付帯設備に関する説明義務

 前回のメールマガジンでは、売買物件の付帯設備の状況に関する調査、説明義務についての判例を紹介しましたが、今回も引き続き売買物件の付帯設備に関する説明(告知)義務についての判例を紹介しながら解説させていただきます。
 前回でも説明したとおり、売買物件そのものではなくその付帯設備に関しても、売主には説明義務があり、また、媒介業者は調査・説明義務を負っています。
 問題は、売主や媒介業者がどのような事項について、どの程度の調査・説明義務を負うと考えられるかということですが、それについては新築か中古かなど物件の状況によって義務の存否や程度が変わってきますので、個々の事例を具体的に見ていくことが重要になってきます。今回はそのなかで、第三者に賃貸中の中古物件についての売買事例をみていきます。
 なお、特に売主については、上記の説明(告知)義務違反と裏腹の問題として、実際の裁判では付帯設備の不具合につき瑕疵担保責任を負担すべきか否かという点が問題になることが大半です。

2.中古マンションの設備故障につき、売買時にその存在を認識しえたとして、買主の瑕
  疵担保請求が否定された事例

<東京地判平27年1月23日判決(RETIO NO.103 108頁)の事案>

 事案の概要:平成25年3月、買主Xは、売主YがAに対し賃貸中である、築40年超の中古マンション(本件建物)につき、下記経緯等のもと、仲介業者を介して本件売買契約を締結し、本件建物の引渡しを受け、Aへの賃貸人の地位を承継しました。

(経緯等)
 Xは、Aが居住中で本件建物の内覧ができなかったため、「過去に本件建物の部屋のリフォームがされたか否か、本件建物の設備の修繕がされたか否か」を問い合わせましたが、仲介業者より「本件建物の中は見ていないので把握していない」旨の回答がなされました。
 仲介業者はXに対し、重要事項説明において、「本件建物の設備等について、経年変化及び使用に伴う性能低下・キズ・汚れ等があるが、本件建物が賃貸中であるため、その内部を実査、点検することができず、室内部の現状及び建物付帯設備の状況は不明であり、引渡し後修理・交換が必要となった際には、買主の費用負担が発生する場合がある」旨の説明をしました。
 本件売買契約の特約として、「買主は賃貸人の地位を継承した後は、自己の責任と負担において賃借人との関係を処理するものとする。ただし、賃貸人の地位の移転前に起因して生じた売主又は賃借人の債務不履行については、売主の責任と費用負担により解決する。」という特約(本件特約)が付されました。
 本件建物引渡し後、Xは「エアコンの室外機の故障及び本体の頻繁な不作動、トイレの流水ボタンからの水漏れ、洗面台の蛇口からの水漏れ、シャワーからの水漏れ、浴室の壁、その入り口の床及び扉の腐食、洋室の電気スイッチプレートの破損、コンセントの故障」(本件不具合)が本件建物にあったとして、Yに対し「@瑕疵担保責任、A告知義務違反、B本件特約による修繕義務違反」を理由として、修繕費用相当額等83万円余を求める本件訴訟を提起しました。
 しかし、原審(簡裁)は、Xの請求を棄却したため、Xはこれを不服として控訴しました。

 判決の要旨

 裁判所は、次のとおり判示し、原審同様Xの請求を棄却しました。

(1)まず判決は、瑕疵担保責任について、「『隠れた瑕疵』とは、通常人の普通の注意によっても発見できない瑕疵をいうところ、本件建物は建築されてから既に40年以上が経過し相応の老朽化をしていることが懸念されること、重要事項説明書においても本件居室には経年変化及び使用に伴う性能低下・キズ・汚れ等があることが明示されていたことを併せ考えれば、本件建物の購入を希望するXとしては、その付帯設備等に本件不具合が存在することは容易に想定することができたと考えられる。
 また、Xは内覧の方法を採らなくとも、本件建物に居住するAに尋ねれば付帯設備等の状況を容易に確認することができたのであり、Y又は仲介業者からは本件部屋の状況について明確な回答が得られなかったのであれば、なおさらそのような追加調査を行うのが通常と解されるところ、Xはこれを行わなかったのであるから、「隠れた暇庇」があるとするXの主張には理由がない。」としてXの瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求を否定しました。
 また、売主Yの告知義務違反の点について、「本件不具合は通常人の普通の注意によって発見することができたものである以上、YがXに対してそのような現庇の存在を告げる義務は生じないから、告知義務違反に基づく損害賠償請求も理由がない。」として、Yに告知義務違反はないとしました。

(2)次に、Xは、本件特約において「賃貸人の地位の移転前に生じた債務不履行は、Yの責任と費用負担により解決する」としていることから、本件不具合についてYは修繕義務を負うと主張します。
 しかし、この点について、判決は「本件特約は、賃借人が居住中である本件建物を対象とする本件売買契約において、X及びYにおいて本件建物内部の客観的状況の直接確認が困難であることを踏まえ、実際に不具合が生じた時点を問わず、賃借人からの申出等により本件建物の付帯設備等に修理や交換等の必要が生じた時点が本件売買契約締結時よりも前であれば売主であるYが、本件売買契約締結時よりも後であれば買主であるXが、それぞれ賃借人に対する責任を負うべきことを定めたものと解するのが相当であり、本件売買契約締結時よりも前に生じた不具合の修繕又はこれに係る費用を、Yに全て負担させる趣旨とまでは解されない。以上によれば、Xの請求には理由がない。」として、Xの当該請求も否定しました。

 コメント

 本件は、内覧ができなかった賃貸中の中古マンションの売買において、築後、既に40年以上が経過していること、重要事項説明書においても経年劣化等に伴う性能低下・キズ・汚れ等があることが明示されていたこと、Xは本件建物に居住するAに尋ねれば付帯設備等の状況を容易に確認することができたことなどから、買主主張の瑕疵は契約締結時に買主において想定された不具合であるから売主は瑕疵担保責任を負わず、また、当該不具合がある可能性を承知のうえで本件売買契約を締結したのだから売主に告知義務はないとしたものですが、これについては、裁判所が瑕疵担保責任や説明(告知)義務を認めるか否か判断するにあたり、発生した損害を売主あるいは買主のどちらに負担させるべきかという実質的公平の観点から、本件の事情の下では買主に負担させるのが公平であると考えた結果だと思われます。
 なお、本件では問題になっていませんが、本件のように建物の付帯設備に瑕疵が存する場合、当然、媒介業者に対し損害賠償請求がなされる事例も数多くあります。
 そこで、本件のように内覧が不可能な賃貸中の物件の仲介において、媒介業者は、想定される不具合につき売主・買主どちらの負担になるのかの合意を、売買契約前に双方から取り付けておく必要があります。
 その際、後日その取引に疑義が生じた場合に備え、売買契約書や重要事項説明書、媒介業者の営業記録に、売主・買主の売買契約締結の経緯や合意の条件等を詳細に記載しておくことが重要であることは言うまでもありません。

以上 

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン平成28年12月号執筆分