平成29年地価公示結果について(大阪府内の動向を中心として)
 

不動産鑑定士  北 井 孝 彦

1.はじめに

 国土交通省は平成29年の地価公示結果(価格時点1月1日)を、去る3月21日に公表しました。
 ご承知のとおり地価公示価格は国土交通省土地鑑定委員会が委嘱した評価員である全国の不動産鑑定士の鑑定結果を基に公表する毎年1月1日時点の土地の価格です。この制度は都道府県が実施している地価調査(価格時点:7月1日)とあいまって、土地取引等に対して指標を与えるとともに公共事業の用に供する土地に対する補償金額の算定等に資すること等により、適正な地価の形成に寄与することを目的としています。
 また、この地価公示価格と都道府県地価調査価格は相続税や贈与税の算定基準として国税庁が7月に発表する「路線価」や市町村が課税主体である「固定資産税の評価」を定めるための評価作業の主要な指標となっています。
 平成29年地価公示における調査地点は全国で市街化区域20,571地点、市街化調整区域1,403地点、その他の都市計画区域4,007地点、都市計画区域外の公示区域19地点計26,000地点となっています(うち東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示区域内の12地点については調査を休止しています)。なお、平成26年地価公示において、2,620地点の標準地を削減していますが、そのうち宅地見込地、市街化区域内の現況林地131地点を復活設定するほか、交通インフラ整備や災害等様々な不動産市場のニーズに対応するため599地点を増設設定し、合計730地点の地点増となっています。大阪府内では1,715地点(45地点増)でした。

2.全国的な動向
全国平均では、全用途平均は2年連続の上昇となりました。用途別では、住宅地は昨年の下落から横ばいに転じました。商業地は2年連続の上昇となり、上昇基調を強めています。工業地は昨年の横ばいから上昇に転じました。
三大都市圏をみると、住宅地は大阪圏が昨年の上昇から横ばいとなった以外、ほぼ前年並みの小幅な上昇を示しています。商業地は名古屋圏を除き上昇基調を強めています。工業地は総じて上昇基調を継続しています。

地方圏をみると、地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)では全ての用途で三大都市圏を上回る上昇を示しています。地方圏のその他の地域においては全ての用途で下落幅が縮小しています。



【住宅地】

全国的に雇用情勢の改善が続く中、住宅ローン減税等の施策による住宅需要の下支え効果もあって、住宅地の地価は総じて底堅く推移しており、上昇の継続又は下落幅の縮小が見られます。

圏域別に見ると
 

東京圏の平均変動率は4年連続して小幅な上昇となりました。なお、 半年毎の地価動向としては、前半(H28.1〜H28.6)、後半(H28.7〜H28.12)ともに0.5%の上昇となりました。

  大阪圏の平均変動率は昨年の小幅な上昇から横ばいとなりました。なお、半年ごとの地価動向としては、前半が0.1%の上昇、後半が0.2%の上昇となりました。
  名古屋圏の平均変動率は4年連続して小幅な上昇となりました。なお、半年ごとの地価動向としては、前半が0.5%の上昇、後半が0.6%の上昇となりました。
 

地方圏の平均変動率は下落を続けていますが、下落幅は縮小傾向を継続しています。なお、半年ごとの地価動向としては、前半が0.4%の上昇、後半が0.3%の上昇となりました。地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)では、平均変動率は4年連続の上昇となり、上昇幅も昨年より拡大しました。なお、半年ごとの地価動向としては、前半が2.2 %の上昇、後半が1.7%の上昇となりました。


【商業地】

再開発事業等の進展による繁華性の向上や外国人観光客を始めとする国内外からの来街者の増加等を背景に、主要都市の中心部などでは店舗、ホテル等の進出意欲が旺盛です。また、オフィスについても空室率は概ね低下傾向が続き、一部地域では賃料の改善が見られるなど、総じて商業地としての収益性の高まりが見られます。こうした中、金融緩和による法人投資家等の資金調達環境が良好なこと等もあって、不動産投資意欲は旺盛であり、商業地の地価は総じて堅調に推移しています。

圏域別に見ると
 

東京圏の平均変動率は4年連続の上昇となり、上昇幅も昨年より拡大しています。なお、半年ごとの地価動向としては、前半・後半ともに2.0%の上昇となりました。

 

大阪圏の平均変動率は4年連続の上昇となり、上昇幅も昨年より拡大しています。なお、半年ごとの地価動向としては、前半が2.5%の上昇、後半が2.7%の上昇となりました。

 

名古屋圏の平均変動率は4年連続の上昇となりましたが、上昇幅は昨年より縮小しています。なお、半年ごとの地価動向としては、前半が1.5%の上昇、後半が1.1%の上昇となりました。

 

地方圏では、平均変動率は下落を続けていますが、下落幅は縮小傾向を継続しています。こうした中、地方四市における平均変動率は4年連続の上昇となり、上昇幅も昨年より拡大し、三大都市圏平均を大きく上回っています。なお、地方四市における半年ごとの地価動向としては、前半が3.5%の上昇、後半が4.6 %の上昇となりました。


【工業地】

三大都市圏を中心に工業地への需要の回復が見られ、特に、インターネット通販の普及等もあり、高速道路IC周辺等の物流施設の建設適地では大型物流施設建設に対する需要が旺盛であり、工業地の地価は総じて底堅く推移しています。

圏域別に見ると
 

東京圏の平均変動率は4年連続の上昇となり、大阪圏及び名古屋圏の平均変動率は2年連続の上昇となりました。

 

地方圏の平均変動率は下落を続けていますが、下落幅は引き続き縮小傾向です。地方圏のうち地方四市の平均変動率については4年連続の上昇となり、上昇幅も昨年より拡大しました。


第3表 圏域別・用途別対前年平均変動率

(注)
市町村合併が発生した市区の平成28年変動率は、合併前の旧市町村の平成28年公示の拠点から再集計したものである。
三大都市圏とは、東京圏、大阪圏、名古屋圏をいう。
地方圏とは、三大都市圏を除く地域をいう。
地方圏(地方四市)とは、北海道札幌市、宮城県仙台市、広島県広島市、福岡県福岡市をいう。
地方圏(その他)とは、地方圏の地方四市を除いた地町村の区域をいう。
拠点数は、継続標準値の数である。
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3 大阪府内の動向

大阪府内の変動率を見ると住宅地は、変動率が0.0%と2年連続の横ばいとなりました。 商業地は、プラス5.0%(前年はプラス4.2%)と4年連続の上昇となり、上昇幅は拡大しました。
個別の地点で見ると住宅地は、継続地点1,212地点のうち上昇地点279地点(23.0%)、横ばい地点503地点(41.5%)、下落地点430地点(35.5%)となり、商業地は、継続地点346地点のうち上昇地点 235地点(67.9%)、横ばい地点80地点(23.1%)、下落地点31地点(9.0%)となりました。

住宅地で市区町村別にみると、上昇率上位が、大阪市浪速区7.5%、大阪市北区4.9%、大阪市福島区3.2%、大阪市中央区3.1%、堺市北区2.7%。他方、下落率上位が、千早赤阪村マイナス3.9%、豊能町マイナス2.0%、河南町マイナス2.0%となりました。
また、「利便性に優れる徒歩圏内の住宅地」で地価が上昇傾向にある一方で、「利便性に劣る徒歩圏外の住宅地」で下落傾向が続いており、住宅地の二極化が鮮明となっています。

商業地で市区町村別にみると、上昇率上位が、大阪市中央区14.4%、大阪市北区12.9%、大阪市浪速区12.4%、大阪市西区11.4%、堺市北区10.6%となりました。 他方、下落率上位が、松原市マイナス0.9%、羽曳野市マイナス0.8%となりました。
また、好調なインバウンドによる店舗・ホテル需要や、都心部での好調なマンション及びオフィス需要を背景に、大阪市では7.8%から9.0%と上昇率が拡大しました。また、地下鉄御堂筋線沿線で利便性に優れる中百舌鳥地区を有する堺市北区では、マンション需要等を背景に大きく上昇率が拡大しました。

〇大阪府内の標準地の価格1位等

(1)

価格1位
  住宅地:

大阪市福島区福島3丁目 782千円/u

  商業地: 大阪市北区大深町(グランフロント大阪南館)14,000千円/u
(2) 対前年上昇率上位1位
  住宅地: 大阪市北区紅梅町 9.9%
  商業地: 大阪市中央区道頓堀1丁目(づぼらや)41.3%(全国1位)
(3) 対前年下落率上位1位
  住宅地: 東大阪市五条町△7.1%
  商業地: 松原市天美南2丁目△1.4%

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4 大阪府内のトピックス(特徴的なこと)

大阪府の商業地の上昇率は5.0%と4年連続で上昇し、平成28年に続き都道府県で1位でした。訪日外国人の増加による商業施設の需要増が地価を押し上げ、地点別でも全国の上昇率5位内を大阪が独占しました。
国人観光客の旺盛な飲食需要の影響もあり上昇率全国1位となった大阪市中央区道頓堀1丁目(フグ料理店「づぼらや道頓堀店」4,000千円、41.3%)をはじめ、5地点が30%超と全国上位を占めました。平成28年前半は中国人観光客らの「爆買い」が減ってホテル需要に陰りがみられましたが、後半から商業施設の需要は底堅さを増しました。
最高価格は大阪市北区大深町の「グランフロント大阪南館」で1平方メートルあたり14,000千円と18.6%上昇しました。
上昇率全国2位の大阪市中央区宗右衛門町(ミナミの戎橋北詰のビル「クリサス心斎橋」12,900千円、35.1%)地点は昨年時点でキタの「グランフロント大阪南館」がある地点より約20%低かったものの今回、価格差は1割弱に縮まったことに象徴されるようにミナミの急伸が目立ちキタに迫っています。
地価の上昇を支えるのはホテルの新設ラッシュとともに顕著であるのが家電製品や宝飾品の爆買いが一服した後も底堅い医薬品や化粧品の買い物需要を見込むツルハ、コクミン、ダイコク、マツモトキヨシ等のドラッグストアの出店攻勢が見られました。付近にドラッグストアが多く見られる上昇率全国4位の大阪市心斎橋筋2丁目(旧ヤマハ楽器店、11,000千円、33.0%)地点は昨年に東急不動産に売却され、商業施設の建設が進んでいます。
では大阪の商業地の地価上昇は今後も続くのでしょうか。ホテルはまだ開発機運があり、ミナミの一等地等はなお上昇余地があるとの見方が根強い一方、過熱感を警戒する声も聞かれます。何れにしても地価上昇を宿泊料や賃料にどこまで転嫁できるのかが鍵となるものと思われます。

(参考資料)
・国土交通省 土地・建設産業局 地価調査課 地価公示室 発表資料
・大阪府地価だより 平成29年3月21日発行 第84号


(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン平成29年5月号執筆分