『土地建物の譲渡所得にかかる税金@〜譲渡所得にかかる税金のしくみ〜』


税理士  國 田 修 平

1.はじめに

 個人が所有している土地等又は建物等を譲渡したことに伴い生じた譲渡益は、所得税法上、譲渡所得に該当し、他の所得とは別個に税額を計算します。この譲渡は、有償か無償かを問わず、売買のほか、交換、競売、公売、収用、物納、現物出資も含みます。所得税法は、資産の譲渡によって実現したキャピタル・ゲインに課税するのが原則ですが、法人に対する贈与などの場合には、時価による譲渡があったものとみなして所得税を課税する規定が置かれるなど、例外的な取り扱いもあります。
 第1回目となる今回は、「譲渡所得にかかる税金のしくみ」について解説します。

2.土地等又は建物等の譲渡所得の概要

 土地等又は建物等の売却益は、長期間に渡って徐々に蓄積されてきたキャピタル・ゲインが、一時に実現することが多いと思われます。そのため、この売却益については、税金負担を緩和するための措置が設けられています。他方で、バブル期には、不動産を所有するだけで価値が上がり、短期間で不動産の売買を繰り返す投機的な取引が横行しました。このような不動産取引を防ぎ、地価の高騰を抑えるため、短期間で不動産を売却する場合には重い税金が課されます。これらから、土地等又は建物等に対する課税は、他の所得に対する課税と比べると、大きな特徴として以下の2つが挙げられます。

(1)申告分離課税
 所得税法では、個人が稼得した所得を利子、不動産、事業、給与等10種類に区分します。一口に所得といっても、資産を所有するだけで稼得できる利子や配当のような所得や、勤労することで稼得できる給与所得など、所得の源泉は様々です。所得税法では、その所得の性格の異なるごとに区分して、一旦それぞれの所得を計算します。そのうえで、すべての所得を合算し、基礎控除等の所得控除額を控除し、所得税が課税される課税所得金額が計算されます。このような課税の仕組みを「総合課税」といいます。
 しかし、土地等又は建物等に係る譲渡所得は、他の所得と区分して、別個に所得税を計算し、納税者自らが申告・納付します。これを「申告分離課税」といいます。


(2)比例税率

 「総合課税」となる所得については、現行の所得税法上、課税所得金額の多寡に従って7つの階層が設けられています。適用される税率は階層ごとに異なり、階層が上がるに従い5%から45%の税率が適用されます。階層が上がると課税所得金額全体に高い税率が課されるのではなく、低い所得部分には低い税率を、高い所得部分には高い税率を適用する「超過累進税率」が採用されています。
 他方、土地等又は建物等の譲渡所得に適用される税率は「超過累進税率」ではありません。譲渡所得の金額の多寡に関わらず、一定の税率を課す「比例税率」が採用されています。摘要される税率は、譲渡した資産の所有期間で異なります。長期間所有していた場合には低い税率が、短期間しか所有していなかった場合には高い税率が課されます。


3.土地等又は建物等の譲渡所得の内容(原則)

(1)申告分離課税の対象となる土地等又は建物等の範囲
 申告分離課税の対象となる資産は、土地、借地権などの土地の上に存する権利、建物、建物の付属設備、構築物です。したがって、これらに該当しない鉱業権、鉱泉権、借家権、土石などは、申告分離課税の対象には含まれません。

(2)譲渡所得の計算方法
 譲渡所得の金額は、土地等又は建物等を売却した収入金額から、取得費、譲渡費用、特別控除を控除して計算します。計算式で示すと、次のようになります。

 なお、居住用の不動産を売却した場合の特別控除額などについては、次回以降をご参照ください。

(3)取得費
 譲渡所得を計算要素である取得費は、土地や建物などを購入した金額と、造成費や改良費、取得に要した仲介手数料、建物付土地を購入した後に要した立退き料や建物の解体費用、土地や建物を購入するための借入金の利子のうち、その土地や建物を使用開始するまでにかかった部分などを加算して算出します。また、マイホームなどの業務に使用しない不動産については、印紙税や登録免許税、不動産取得税など取得に際して課された租税も取得費となります。
 また、建物などの取得費は、土地などと異なり経年劣化するため、取得日から譲渡時までの価値の減少額である減価償却費を算出し、これを差引きます。

@概算取得費の特例
 取得金額や取得時期も不明な場合には、取得費の実額算定ができません。しかし、これをもって、収入金額から譲渡に要した費用のみを差し引き課税することは、必ずしも適正とはいえません。この場合には、その土地や建物の譲渡による収入金額の5%を概算取得費として、譲渡所得の算定の際に差引くことができます。

A取得費加算の特例
 相続により取得した土地や建物等に相続税が課税された場合に、これらを譲渡したときも、譲渡所得に対して所得税等が課税されると、税負担が加重になることがあります。そのため、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合には、支払った相続税額のうち、次の算式で計算した金額を、取得費に加算することができます。これにより、譲渡所得に係る税負担が軽減されます。

 ただし、この特例は譲渡資産ごとに計算し、譲渡所得の計算をした場合に、損失となるときは適用できません。

(4)譲渡費用
 譲渡所得の計算の際に、収入金額から差し引く譲渡費用は、その土地や建物などを譲渡するために直接かかった費用のことをいい、次のようなものが該当します。

@土地や建物を売るために支払った仲介手数料、広告料、印紙税で売主が負担したもの

A貸家を売るために、借家人に家屋を明け渡してもらうために支払った立退料

B土地を売るために、その上の建物を取り壊したときの取壊し費用とその建物の損失額

C売買契約を締結している資産を更に有利な条件で売るために、既契約者との契約解除に伴い支払った違約金

D借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など

 このように、譲渡費用は売るために直接かかった費用に限るため、修繕費や固定資産税など、その資産の維持管理のための費用などは譲渡費用になりません。

(5)損益通算
 事業所得、不動産所得、山林所得及び総合課税となる譲渡所得を計算して損失が生じた場合は、給与所得など、他の「総合課税」の対象となる所得と相殺することができます。これを損益通算といいます。
 他方、土地や建物などの譲渡所得は「申告分離課税」となり、「総合課税」とは別個に計算されます。所得が生じた場合のみ「申告分離課税」とし、損失が生じた場合は「総合課税」に取り込み、他の所得との損益通算を認めるのでは整合性が保てません。そのため、土地や建物などの譲渡で生じた損失は、マイホームを譲渡した場合に生じた一定の損失を除き、申告分離課税となる他の土地や建物などの譲渡所得に限り損益通算が認められ、その他の所得との損益通算は認められません。

(6)所有期間と税率
土地や建物などの譲渡所得にかかる税額は、譲渡年1月1日時点の所有期間が5年を超えるか否かで大幅に異なります。5年を超えている場合は「長期譲渡所得」となり、譲渡所得に対して所得税15%、住民税5%の税率を乗じます。5年以下の場合は「短期譲渡所得」となり、国や地方公共団体などへの一定の譲渡を除いて、譲渡所得に対して所得税30%、住民税9%の税率を乗じます。なお、平成25年から平成49年までの譲渡所得については、上記で計算した所得税額に対して2.1%の復興特別所得税が課されます。

(7)取得日
 「長期譲渡所得」に該当するか否かを判定する場合の所有期間は、土地等又は建物等を取得した日の翌日から引き続き所有していた期間です。計算の始期となる取得の日は、その土地等又は建物等の取得の形態により、それぞれ次のとおりです。

@売買等によって取得した場合は、その土地等又は建物等を相手方から引渡しを受けた日が取得日とされます。ただし、売買契約等の効力発生日を取得日とすることも認められます。

A自ら建設等をして取得した場合は、その建設等が完了した日が取得日となります。

B建設等を他に請負わせることで取得した場合は、その土地等又は建物等の引渡しを受けた日が取得日となります。


4.みなし譲渡

(1)法人に対する贈与等
 他の個人への贈与も「所有権の移転」ですが、収入金額がないため、譲渡所得としての課税は生じません。しかし、法人へ贈与した場合にも課税しないこととすると、含み益に対する譲渡所得は永久に課税できません。そこで、土地や建物などを法人へ贈与、遺贈した場合は、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得課税が行われます。
 法人へ贈与すると時価で譲渡したものとみなして課税されるとなると、僅少な金額で譲渡し、時価課税を避けることも想定されます。そのため、時価より著しく低い価額で法人へ譲渡された場合も、時価で譲渡したものとみなして、譲渡所得課税が行われます。
 なお、相続に際して土地や建物などを限定承認した場合は、その相続に係る被相続人が、その土地や建物などを時価で譲渡したものとみなして、譲渡所得課税が行われます。

(2)個人に対する負担付贈与
 資産を贈与する替わりに贈与者の債務が消滅するような負担付贈与の場合は、贈与者は債務の消滅という経済的利益を得ます。この経済的利益は、譲渡による収入金額と考えられます。そのため、負担付贈与は個人に対するものであっても、単純贈与とは異なり、その贈与により消滅する債務の金額を収入金額として譲渡所得課税が行われます。ただし、消滅する債務の金額が、贈与する資産の時価の概ね2分の1未満で、かつ損失が生じるときは、譲渡はないものとみなされます。なお、法人に対する負担付贈与の課税関係は、収入金額を贈与により消滅する債務の金額として、上記(1)と同様に整理されます。

(3)取得費及び取得日
 贈与、相続(限定承認を除く)、遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く)、著しく低い対価の額で取得した場合で、取得した時の譲渡者に譲渡損が生じた場合には、その取得した者が、引き続きその資産を所有していたものとみなされます。そのため、取得者は、贈与者又は被相続人等の取得費及び取得日を引き継ぎます。この場合の贈与には、贈与者に経済的利益が生じる負担付贈与は含まれません。つまり、資産の譲渡があった場合に、譲渡所得課税がされないときに限り、以前からの取得者の取得費及び取得日が引き継がれます。これにより、譲渡による課税が繰延べられることになります。

5.おわりに

 不動産の譲渡所得に対する課税は、基本的な取り扱いだけでも注意点が多数あり、一つの判断誤りで税負担も大きく変わり得ます。実際の不動産の譲渡にともなう課税関係については、次回以降に確認する各種特例制度の要件も合わせて、慎重に検討することが求められます。そのため、少しでも懸念されるところや不明なことがある場合には、早目に専門家へ相談されることをお勧めいたします。


(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン平成30年8月号執筆分