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大規模修繕工事についてのYの認識 |
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本件では、契約書や重要事項説明書に大規模修繕工事に関する記述はありませんでした。そのため、Yは、Xが大規模修繕工事により居住者の生活被害等が発生することを秘してYを欺罔し契約を締結させたと主張しました。 しかし、Yは本件契約に先立ち本件建物の内見をしていました。当時、本件マンションには、大規模修繕工事の工程掲示板が存在し、全体工程表、週間工程表、本日の作業、明日の作業予定、洗濯物情報、お知らせなどが掲示されており、大規模修繕工事の概要が周知されていました。 裁判所は、本件建物の内見をしたYは、契約締結時に大規模修繕工事の存在及びその内容は十分に認識していたはずであるから、Yの主張には理由がないと判示しました。
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(2) |
大規模修繕工事についての説明義務 |
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本件裁判例は、大規模修繕工事についての説明義務について直接言及していません。 そこで、大規模修繕工事についての説明義務について言及した裁判例(東京地裁判決H31.2.6)を紹介しておきます。 この事案は、借主が入居後すぐにマンションの大規模修繕工事が始まることを知らされ、貸主との間でトラブルとなったものです。 |
A |
裁判所は、次のように述べて貸主の説明義務を認めました。 「マンションの一室の賃貸借契約を締結しようとする者は、賃貸借期間中に大規模修繕工事が行われることを知った場合には、その賃借目的によっては、契約の締結を断念して他物件を選択することもあり得るし、仮に契約を締結する意思そのものは失われないとしても、賃料の減額交渉をしたり、入居時期を調整するなど、締結しようとする賃貸借契約の内容に影響する意思決定を行うことがあり得るのであって、大規模修繕工事が行われるという事実は、賃貸借契約を締結しようとする者の意思決定に関わる重要な情報であるということができる。したがって、マンションの一室の賃貸借契約の締結に当たっては、賃貸人になろうとする者は、賃借人になろうとする者に対し、大規模修繕工事の施工が具体的に計画されている場合には、その旨を説明すべき信義則上の義務を負うと解するのが相当である。」 |
B |
大規模修繕工事の実施の有無が重要事項説明の対象となっていないこととの関係については、裁判所は次のように述べています。 「宅地建物取引業法上定められている重要事項説明義務は、消費者保護という政策的見地から定められている業法上の義務であって、その対象とされていないからといって、直ちに信義則上の義務まで否定されるものではない。また、マンションの一室を賃借しようとする者は、これを購入しようとする者と異なり、通常は、当該マンションの資産価値には関心がなく、住環境や利便性等を重んじるものであり、複数の選択肢の中から、自らの希望に最も適合する物件を選ぶのが通常であるから、賃貸期間内に住環境に影響を与えるような大規模修繕工事が行われるか否かは、物件の選択に際し重要な情報になり得るというべきである。」 |
C |
裁判所は、貸主の説明義務違反を認めた上で、借主に慰謝料30万円を支払うよう命じました。この件では、借主からの申し入れにより大規模修繕工事の実施が中止となり、実際に借主が大規模修繕工事中の居室に居住することがなかったため、慰謝料が低額となったと思われます。
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(3) |
売買の場合の説明義務 |
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これまで賃貸借の場合の裁判例を紹介してきましたが、売買の場合の裁判例(東京地裁判決H28.5.24)も紹介しておきます。 この事案は、マンションの1室を購入した買主が、売主と媒介業者に対し、今後建替や耐震改修の工事が行われて費用負担が生じる状況にあったのに、耐震診断はない、大規模修繕工事は予定されていないなどと説明して本件マンションを購入させたことが説明義務に違反するとして、耐震改修のための大規模修繕工事費用等相当額の損害賠償を求めた事案です。 |
A |
この件では、重要事項説明書に「昭和56年5月31日以前に新築の工事に着手した建物に該当する」「耐震診断は無」「現在、大規模修繕工事の予定はありません。・・・現在管理組合にて大規模修繕工事の実施、建替、耐震補強等に関する議題が上がっており、平成26年4月の管理組合総会にて、建替を視野にいれたマンションの将来的な維持管理方法を検討するための委員会の結成を予定しています。」と記載されていました。 |
B |
裁判所は、これらの記載を読むことにより、本件マンションを購入した後に建替ないし耐震改修の工事がされ、区分所有者となる買主がその工事費用を負担する事態が生じる可能性があることを認識することができたというべきであると判示しました。 そのうえで、重要事項説明書には、本件マンションの建て替えや耐震改修に向けた動きが正確に記載されており、買主から具体的な事情の説明が求められていないことからすれば、さらに詳細な事情を売主が告知・説明し、媒介業者が調査・説明すべき法的義務があるとは認められないと結論付けました。
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まとめ |
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上記の複数の裁判例からすると、宅建業者としては、できる限り紛争を避けるため、借主や買主が不測の不利益を被らないよう、契約時に把握している情報については借主や買主に説明しておくことが望ましいといえます。 借主や買主本人に現地・物件の確認をしてもらうということも、借主や買主に情報を得る機会を与えるという点で重要だといえるでしょう。 また、借主や買主から更なる情報提供を求められた場合には、可能な限り調査・説明することが紛争防止に有用です。 |