平成23年地価公示結果について(大阪府内の動向を中心として)


不動産鑑定士 熊澤 一郎


1.はじめに

 国土交通省は平成23年の地価公示結果(価格時点1月1日)を、去る3月17日に公表しました。
 ご承知のとおり地価公示価格は国土交通省土地鑑定委員会が委嘱した評価員である全国の不動産鑑定士の鑑定結果を基に公表する毎年1月1日時点の土地の価格です。この制度は都道府県が実施している地価調査(価格時点:7月1日)とあいまって、土地取引等に対して指標を与えるとともに公共事業の用に供する土地に対する補償金額の算定等に資すること等により、適正な地価の形成に寄与することを目的としています。
 また、この地価公示価格と都道府県地価調査価格は相続税や贈与税の算定基準として国税庁が7月に発表する「路線価」や市町村が課税主体である「固定資産税の評価」を定めるための評価作業の主要な指標となっています。
 平成23年度地価公示における調査地点は全国で26,000地点、大阪府内では1,722地点でした。東日本大震災の発生が3月11日でしたので、被災地域の公示については注目されましたが、国土交通省は「復興の過程で公共事業用地の取引が行われることが考えられ、価格算定の基準が必要となりうる」として例年通り公表しました。

2.全国的な動向

 全国の平均変動率としては、住宅地が対前年比マイナス2.7%(平成22年はマイナス4.2%)、商業地が同マイナス3.8%(平成22年はマイナス6.1%)と3年連続で下落しましたが、下落幅は3大都市圏で前年の半分以下、地方圏でも3年ぶりに縮小し、上昇・横ばい地点も増加するなど、平成20年秋のリーマン・ショック以降続いてきた下落基調に変化が生じてきた結果となっています。


国土交通省地価調査課は今回の特徴を次のとおり整理しています。
【概括】
 平成20年秋のリーマン・ショック以降、地価の下落が継続する中で、初めて東京圏、大阪圏、名古屋圏及び地方圏そろって下落率が縮小し、経済状況の不透明感は残るものの、下落基調からの転換の動きが見られた。この動きは、地方圏よりも大都市圏で、また、商業地よりも住宅地において顕著であるが、商業地においても地価の下落率が縮小し、住宅地の下落率と大差のない状況に近づいている


【住宅地】
◆ 住宅ローン減税・低金利・贈与税非課税枠拡大等の政策効果や住宅の値頃感の醸成により、住宅地への需要が高まり、住宅地の地価は下落基調からの転換の動きが見られた
◆ 大都市圏においては、マンション販売の回復傾向が顕著であり、特に都心部では、マンションの素地取得が活発になっている地域も見られ、開発余力の高い地域では地価上昇につながっている。また、人気の高い住宅地を中心に、値頃感の醸成された地域において、戸建住宅等についての根強い需要から、面的に上昇や横ばい地点が現れたエリアも見られる。
◆ 地方圏においても、選好性の高い住宅地等における需要の顕在化や、医療や福祉などを重視したまちづくり、交通インフラや基盤整備の効果等により、地価下落に歯止めがかかった地域も散見されるものの、人口減少等の構造的な要因により、波及の程度は弱い

【商業地】
◆ 都市部を中心にオフィス賃貸市場の賃料調整、企業収益の回復、資金調達環境の好転、リート株の回復等を背景に、国内外からの投資も見られたこと等から、地価の下落幅が大幅に縮小した地域が見られるようになった。
 経済状況の不透明感も残り、オフィスエリア全般では依然空室率が高止まりの傾向であるが、大型・築浅ビルへの集約移転等により、優良物件が競争力を向上させ、需要が顕在化するケースも見られる。
 都市部の一部の地域では、高度利用のできる商業地域にマンションが立地する傾向が見られ、マンション販売の好調を反映して、地価の上昇につながるケースも見られる。
◆ 地方圏においても、下落率の縮小傾向が見られ、特に、鉄道の開業・延伸に関連する地域等における地価上昇の動きも散見されるが、依然低調な賃貸市場、人口減少等に伴う需要減、地域のキーテナントの撤退、郊外の大型店による中心市街地の衰退等により、下落幅の縮小度合いは小さい
◆ 都市、地方を通じて言えることであるが、オフィス系、店舗系とも、立地、規模等による二極化傾向や個別化傾向が強まっている。


3.大阪府内の動向

 大阪府内の変動率を見ると住宅地がマイナス2.6%(平成22年マイナス4.8%)、商業地が同マイナス4.6%(平成22年マイナス8.9%)とやはり住宅地・商業地ともに3年連続で下落となりましたが、全国平均と同様下落幅は縮小しました。
 前年はすべての調査地点で下落していましたが、今回は1,722地点中、横ばい地点が住宅地29地点、商業地1地点、準工業地1地点、計31地点あり、府内でもやや明るい兆しも見えてきています。

 住宅地で市町村別にみると、大阪市福島区で全地点の変動率がゼロ、池田・豊中・東大阪等でもゼロの地点がありましたが、他方、河南町と千早赤阪村ではいずれもマイナス7%と前年より下落幅が拡大し、豊能町もマイナス6.5%とやや大きな下落となっています。
 商業地で市区町村別にみると、大阪市中央区でマイナス9.4%、大阪市北区でマイナス8.6%とやや大きな下落となっています。



大阪府の標準地の価格・対前年変動率上位1位・対前年下落率上位1位

(1) 価格1位
住宅地:天王寺−2 大阪市天王寺区真法院町 53 万円/平方メートル
商業地:大阪北5−29 大阪市北区梅田1丁目 756 万円/平方メートル

(2)
対前年変動率上位1位
住宅地: 阿倍野−3
  大阪市阿倍野区文の里3 丁目   0.0% など29 地点
商業地:大阪中央5−23
  大阪市中央区心斎橋筋2 丁目    0.0%

(3) 対前年下落率上位1位
住宅地:茨木−24 茨木市山手台3 丁目      −10.1%
商業地:大阪中央5−36 大阪市中央区難波3 丁目 −20.0%

4.大阪府内のトピックス(特徴的なこと)

 前記のとおり住宅地で価格が最も高かったのは53万円/平方メートルの大阪市天王寺区真法院町で、府内では10年連続最高価格地を保っていますが、変動率はマイナス2.8%が出ています。
 一方、下落率が最も大きかったのは、茨木市山手台3丁目のマイナス10.1%でした。北大阪エリアでは横ばいの地点が増えつつあるのに比べ対照的な現象です。
 前述のとおり大阪市福島区内では全地点で下落率が0でしたが、これは利便性が良い場所、また総体的に稀少性が高い地点ほど地価が安定的になる傾向が一層顕著になっていると言えます。

 大阪府内の商業地は3.6%の下落で前年7.4%の下落からは半分以下に縮小しましたが、東京圏(マイナス2.5%)・名古屋圏(マイナス1.2%)に比べて大きいものとなっています。
 全国の商業地の下落率上位10地点のうち、大阪市中央区難波3丁目のマイナス20.0%を筆頭に6地点は大阪市中心部で、いずれも南北わずか3.5kmの間に並ぶ御堂筋エリアでした。
 従来から言われているオフィスの供給過剰等によるものとみられ、全体的に大阪のオフィスビル需要は停滞しているのですが、この中でも難波・本町エリアから新規供給の活発な梅田エリアへオフィス移転が進んだことが主な要因と思われます。
 一方で御堂筋から一本東へ入った心斎橋筋商店街では、ユニクロの大型店等の出店、若年層向けのカジュアルブランド店の増加で客足が増えたこともあり、心斎橋筋商店街の局地的な現象ではありますが、府内の商業地では唯一横ばいの地点が現れています。
 また、衛星都市の駅前商業地においては商環境の低下が進む地域が多く近年下落が顕著でしたが、背後住宅地との価格差が縮まり、住宅マンションへの転用ポテンシャルの見合いや、商業地としての底値圏に到達しつつあることもあり、下落幅が縮小されてきたものと思われます。



(参考資料)

   ・国土交通省 土地水資源局 地価調査課 発表資料
   ・大阪府地価だより 平成23年3月18日発行 第72号



以上