消費税率の引上げと住宅関連税制について

税理士 堤  昌彦

1. 消費税率の引上げについて

 社会保障と税の一体改革の一環として、平成24年8月10日に「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案」が成立しました。この法律は7つの条文と附則で構成されていますが、何といっても目玉は消費税率の引上げです。
 消費税率は2段階で引上げられます。まず、平成26年4月1日から8%に、平成27年10月1日からは10%になります。
 消費税率の引上げに伴い経過規定が定められました(附則第2条から第17条)。住宅取得については附則第5条第3項で、平成25年9月30日までに建築請負契約を締結した場合には、建物の引き渡しが平成26年4月1日以降になった場合においても、消費税率は引上げ前の5%が適用されます。
 また、附則第16条において、平成26年3月31日までに建築請負契約を締結した場合には、建物の引き渡しが平成27年10月1日以降になった場合においても、消費税率は10%ではなく8%が適用されます。
 消費税率の引上げについては、附則第18条で、この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、上記の消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずることとなっています。
 これを「景気弾力条項」といいます。この規定により消費税率の引上げ前に経済状況によっては引上げの停止を含めて所要の措置を講ずることになります。

2. 平成25年度税制改正大綱

 しかしながら、景気弾力条項はあるものの、一方で消費税率引上げを前提として、平成25年1月24日に公表した平成25年度税制改正大綱では、消費税引上げに伴う対応として、@住宅取得等に係る措置、A車体課税の見直し、Bその他消費税引上げに係る措置の3つを掲げています。
 このなかで、住宅の取得については、取引価額が高額であること等から、消費税率の引上げの前後における駆け込み需要及びその反動等による影響が大きいことを踏まえ、一時の税負担の増加による影響を平準化し、及び緩和する観点から、住宅の取得に係る必要な措置について財源も含め総合的に検討することとしています。

3. 住宅関連税制の改正

 平成25年3月29日に「所得税法等の一部を改正する法律案」が成立し、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除について、適用期限を平成29年12月31日まで4年延長するとともに、住宅の取得等をして平成26年4月1日から平成29年までの間に居住の用に供した場合の住宅借入金等の年末残高の限度額(借入限度額)、控除率及び控除期間を次のとおりとすることとなりました。

イ 一般の住宅の場合
居住年 借入限度額 控除率

控除期間

平成26年1月〜
3月(現行どおり)
2,000万円 1% 10年間

平成26年4月〜
平成29年12月

4,000万円 1% 10年間

ロ 認定住宅(認定長期優良住宅、認定低炭素住宅)の場合
居住年 借入限度額 控除率

控除期間

平成26年1月〜
3月(現行どおり)
3,000万円 1% 10年間

平成26年4月〜
平成29年12月

5,000万円 1% 10年間

上記の改正により、住宅ローン控除額は一般住宅の場合で、年間最大控除額が、20万円から40万円に、認定住宅では30万円から50万円に拡大されました。但し、この改正規定の適用があるのは取得した住宅に係る消費税等の税率が8%又は10%である場合に限ります。
 1に記載した経過規定の適用を受けて、消費税等の税率が5%の場合には適用はありません。
 そこで、消費税の経過規定の適用を受けて消費税率の低い方を選択した方が有利か、住宅ローン控除額の高い方を選択した方が有利かについては、借入金の金額や今後10年間の所得の状況等を考慮する必要があります。その際注意を要することは、経過措置の適用は選択適用ではなく強制適用であるということです。つまり、平成25年9月30日までに建築請負契約を締結し、建物の引き渡しが平成26年4月1日以降になった場合には必ず経過措置が適用となり消費税率は5%となります。
すなわち、住宅ローン控除を選択したいのであれば、請負契約は平成25年10月以降に締結する必要があるということです。
 
(2) その他の改正項目
 住宅税制のその他の改正項目は以下の4項目で、いずれも優遇措置を拡充して適用期限を平成29年12月31日まで延長することとしています。

@ 特定の増改築等に係る住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の控除額に係る特例
A 既存住宅の耐震改修をした場合の所得税額の特別控除
B 既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の所得税額の特別控除
C 認定住宅の新築等をした場合の所得税額の特別控除

この改正規定の減税額の拡大の適用があるのは(1)と同様に、住宅に係る消費税等の税率が8%又は10%である場合に限ります。

4. 印紙税の改正

 消費税率の引上げの対応して、不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の税率の特例措置について、その適用期限を5年延長した上、平成26年4月1日以後に作成される文書に係る税率を次のとおり引き下げることとなりました。

不動産の譲渡に関する契約書
契約金額 現 行 改正案
10万円超  50万円以下 400円 200円
50万円超 100万円以下 1,000円 500円
100万円超 500万円以下 2,000円 1,000円
500万円超 1万円 5,000円
1,000万円超 1万5千円 1万円
5,000万円超 4万5千円 3万円
1億円超 8万円 6万円
5億円超 18万円 16万円
10億円超 36万円 32万円
50億円超 54万円 48万円

建設工事の請負に関する契約書
契約金額 現 行 改正案
100万円超 200万円以下 400円 200円

200万円超 300万円以下

1,000円 500円
300万円超 500万円以下 2,000円 1,000円
1,000万円以下 1万円 5,000円
5,000万円以下 1万5千円 1万円
1億円以下 4万5千円 3万円
5億円以下 8万円 6万円
10億円以下 18万円 16万円
50億円以下 36万円 32万円
50億円超 54万円 48万円

5. 消費税の使途の明確化

 消費税率の引上げと同時に、消費税法第1条に第2項を設け、消費税の収入については、地方交付税法に定めるところによるほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとするとの規定が追加されました。
 消費税率の引上げは国民生活に大きな影響を与えるものですので、消費税の増税分の使途を法律において明らかにしたものです。
 私たち国民は今後とも消費税の使われ方に関心を持って見ていく必要があると思います。

以上

(一財)大阪府宅地建物取引主任者センターメールマガジン平成25年8月号執筆記事