相続税・贈与税の税率構造の見直しと相続時精算課税の適用要件について



税理士 松田 昭久

 
1. はじめに

 平成 23 年度税制改正法案には、相続税の基礎控除の引下げ等を通じた課税ベースの見直し、最高税率の引上げを含む税率構造の見直し等を盛り込む一方で、高齢者が保有する資産の現役世代への早期移転を促し、消費拡大や経済活性化を図る観点から、直系卑属への贈与に係る贈与税の税率構造の緩和及び相続時精算課税制度の拡充措置を盛り込みましたが、国会での審議の結果見送られることとなりました。
 しかし、上記の内容を盛り込んだ社会保障・税一体改革大綱が、平成 24 年2月に閣議決定され、さらに平成 25 年 1 月に自由民主党・公明党による「平成 25 年度税制改正大綱」が閣議決定されました。そしてこの法案の審議が行われ、平成 25 年 3 月に、「平成 25 年度税制改正」が成立し、平成27年1月1日以後の相続又は贈与については、以下の規定が適用されます。

2. 相続税・贈与税の税率構造の見直し

 相続税の税率構造については、昭和62年頃から地価の高騰もあり、昭和63年、平成4年、平成6年と基礎控除の引上げともに、大幅な緩和が行われてきました。
 しかし、地価が下落した現在においては、こうした税率構造の緩和が相続税の有する資産再分配機能を低下させている一因となっているという意見が多数ありました。そこで、平成25年度税制改正においては、相続税が所得税の補完税であることに照らし合わせて、住民税と合わせて55%に引き上げられる所得税の最高税率を踏まえ、最高税率を55%に引き上げること、また、各法定相続人の取得金額が高額な40%、50%の税率区分について、その一部を一割程度引き上げることで、より高い遺産額の場合を中心に再分配機能の回復を図るとの考え方に基づいて相続税の税率構造の見直しを行うこととされました。


 
相続税の税率


 また、贈与税の税率構造についても、贈与税は相続税の補完税であることを踏まえ、相続税の見直しに準じて、その税率構造の見直しを行うこととされました。
 わが国の家計資産の多くを高齢者が保有している状況は、近年、特に進んできており、平成元年時点では、約 3 割であった高齢者世帯(世帯主が60歳以上の家計)が保有する金融資産の全家計の金融資産に占める割合は、平成21年では、約 6 割に上昇しています。これは、金融資産に限らず、資産総額でみても同様であり、資産の多くを高齢者が保有している状況にあります。
 贈与税の暦年課税の税率は、相続税の補完税というその性質から、相続税に比べて、相対的に税負担が重くなるような税率構造とされています。相続税、贈与税ともに最高税率は50%ですが、50%の税率を適用する金額が相続税は 3 億円超であるのに対し、贈与税は1,000万円超と贈与税はかなり急な累進構造となっています。
 今回の改正では課税強化の見直しを行うこととされていますから、相続時まで資産を保有すると現行制度に比べて相続税の負担が増加することになりますので、相続税の課税強化によって、生前贈与を促す効果があると考えられています。

贈与税の税率



 相続税の見直しに加えて、若年世代への早期の資産移転のより一層の促進を図る観点から、別の制度として子や孫などの若年世代を受贈者とする贈与税の税率構造を緩和することとされました。
 具体的には、20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合の税率構造について、現行の最高税率50%を適用する金額(相続税: 3 億円と贈与税:1,000万円)の比率(30: 1 )に着目し、過去の改正時の比率(昭和63年度改正12.5:1、平成 4 年度改正20: 1 )を参考に、改正後のこの比率は、10:1 (相続税 3 億円、贈与税3,000万円)とすることとされ、これに併せて、全体的に税率の適用区分が拡げられました。

直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税の特例税率(租税特別措置法)



3. 相続時精算課税の適用要件の拡大

 現在、わが国の家計資産の 6 割は世帯主が60歳以上の家計が保有しており、資産の多くを高齢者が保有している状況にあります。そうした中、被相続人の高齢化が進み、相続又は遺贈による若年世代への資産移転が進みにくい状況ともなっています。このような状況を踏まえ、平成25年度税制改正においては、高齢者層が保有する資産をより早期に現役世代に移転させ、消費拡大や経済活性化を図る観点から、相続税の見直しと併せて贈与税について見直しを行うこととされました。
 相続時精算課税制度の見直しについては、被相続人が行った生前贈与について、最終的に相続時に相続税として精算するものであり、これにより、@資産移転の時期をより柔軟に選択できることとなること、A相続税の課税対象とならない層(相続発生件数の96%程度)にとっては、実質的に税負担なく生前贈与が行えることといった意義があり、もともと世代間の資産移転を促進することに寄与する制度ではありますが、本制度について、制度導入後の運用状況を踏まえ、若年世代への資産の早期移転を促進する観点から、@贈与者の対象年齢を65歳から60歳に引下げ、A受贈者に孫を追加といった制度の対象範囲の拡大を行うこととされました。
4. おわりに

 平成27年1月1日以後の相続開始より、相続税の基礎控除が引き下げられ、最高税率が引き上げられる結果、地価の高い都市部に土地を有する者の負担がより増します。さらにいままで相続税の課税対象でなかった人も課税対象となることが想定されますので、より一層の事前対策が重要となります。

(一財)大阪府宅地建物取引主任者センターメールマガジン平成26年7月号執筆分