空家等対策特別措置法とそのガイドラインについて



弁護士  横 山  耕 平

第1 現状(法律の背景)

 近年、人口減少や既存住宅の老朽化、住宅についての社会的ニーズの変容(例えば、戸建てからマンションへの需要の変化)等に伴い、空家、とくに管理が不十分な空家が年々増加していっています。総務省統計局が行った土地統計調査によると、平成25年10月1日時点における、全国の住宅総数は6,063万戸、うち、空家は820万戸と、全体の13.5%にものぼっています。10件に1件以上が空家というのは、驚くべき数字ですよね。もちろん、この中には、別荘等の「二次的住宅」、「賃貸用の住宅」、「売却用の住宅」もありますが、これらを除く「その他の住宅」の数においても、318万戸で、それでも大きな数字です。
 適切な管理がなされていないと、空家は、倒壊等の安全性の問題、不審者が住み出すような防犯性の問題、ごみの不法投棄先にされてしまうような衛生環境の悪化の問題、住宅景観を破壊するという問題など、良好な生活環境を脅かす要因となります。
 このような状況を踏まえ、第187回(臨時)国会において、議員立法により、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(平成26年法律第127号 以下、「法」といいます。)が成立し、同年11月27日に公布、本年5月26日に全面施行となりました。
 では、どのような場合、どのような対策が考えられているのでしょうか。また、宅地建物取引士としては、どのような関わり方が考えられるのでしょうか。

第2 法律の概要

 1 定義
 空家について、「空家等」と「特定空家」の2つが定義されています(法第2条)。「空家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地とされています(法第2条第1項)。「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等を言うとされています(法第2条第2項)。

 2 空家等の所有者等の責務
 空家等の所有者又は管理者(以下、「所有者等」という。)は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めることとされました(法第3条)

 3 市町村の責務
 市町村は、空家等対策計画の作成及びこれに基づく空家等に関する対策の実施等を適切に講ずるよう努めることとされました(法第4条)

 4 基本方針、空家等対策計画、協議会
 国土交通大臣及び総務大臣は、空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本指針を定め、基本指針においては、空家等に関する施策の実施に関する基本的な事項等を定めることとされました(法第5条)。
 市町村は、基本指針に即して、空家等対策計画を定めることができることとし、空家等対策計画においては、空家等に関する対策の対象とする地区及び対象とする空家等の種類その他の空家等に関する対策に関する基本的な方針等を定めることとされました(法第6条)
 また、市町村は、空家等対策計画の作成及び変更並びに実施に関する協議を行うための協議会を組織することができることとし、協議会は、市町村長のほか、地域住民、市町村の議会の議員、法務、不動産、建築、福祉、文化等に関する学識経験者等をもって構成するとされました(法第8条)。
 宅地建物取引士の皆さんも、この学識経験者として、参加の機会を打診されるかもしれません。

 5 空家等に関するデータベースの整備等
 市町村は、空家等(建築物を販売し、又は賃貸する事業を行う者が販売し、又は賃貸するために所有し、又は管理するものを除く。)に関するデータベースの整備等を講じるよう努めることとされました(法第11条)。

 6 所有者等による空家等の適切な管理の促進
 市町村は、所有者等による空家等の適切な管理を促進するため、これらの者に対し、情報の提供、助言等を行うよう努めるものとされました(法第12条)。

 7 空家等及び空家等の跡地の活用等
 市町村は、空家等及び空家等の跡地に関する情報の提供その他これらの活用のために必要な対策を講じるよう努めるものとされました(法第13条)
 跡地の利用の例については、後述第4をご参照下さい。

 8 特定空家等に対する措置
 これがもっとも耳目を引くことかもしれませんが、市町村長は、特定空家等の所有者に対し、当該特定空家等に関し、除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置を取るよう助言又は指導をすることができることとし、改善されない場合は相当の猶予期間を付けて勧告し、なお正当な理由なく所有者等が措置を取らない場合、特に必要があると認めるときは相当の猶予期間を付けて命令することができることとし、所有者等が命令を履行しないとき又は過失なくして命ずべき所有者等が不明のときは、行政代執行ができるとされました(法第14条第1項ないし13項、同第9条第2ないし5項)。
 平成27年10月26日、神奈川県横須賀市において、この法に基づき、行政代執行による取り壊しが全国で初めて行われましたが、これは、「屋根が落ちてきそうで危険だ。」などの苦情が平成24年10月より寄せられていた空家に、このような措置が取られたようです。


第3 必要な指針(ガイドラインの概要)

 この上記第2の8の「特定空家等に対する措置」に関する第14条に基づいて、平成27年5月26日、国土交通大臣及び総務大臣は、「『特定空家等に対する措置』に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」を策定しました。
 このガイドラインは、特定空家等の判断の参考となる基準を示すとともに(ガイドラインの別紙1ないし4)、措置に係る手続について、参考となる考え方を示し、市町村は、このガイドラインを参考にしつつ手続を進めることになります。具体的に、市町村は、立入調査、助言・指導、勧告、命令等の「特定空家等に対する措置」について、手続を進めていくことになります。

第4 活用例

 このような対策を支援するため、国土交通省としては、社会資本整備総合交付金等の基幹事業である「空き家再生等推進事業」により、空き家住宅等の除却や活用を推進する地方公共団体の取り組みを支援しています。
 除却事業タイプは、老朽化した空き家等を除却して地域のポケットパーク(小さな公園のようなもの)として活用するなどの取り組みです。活用事業タイプは、空家等を改修して、滞在体験施設や交流・展示施設等の地域活性化に資する用途として活用する取り組みです。
 また、民間においても、古民家の空き家を再利用し、古民家再生プロジェクトとして、おしゃれなレストランや民宿に改修して再利用するような例もあります。
 そのような用途に移行する際、建物について所有者間の橋渡しとして、宅地建物取引士のみなさんの経験と知識、あるいは人的ネットワークが重要となることがでてくるかも知れません。

第5 むすびに

 人口減少に伴う空家問題は、これからの高齢化社会の不可避な問題と思われます。
 快適な住環境のため、あるいは大事な文化施設としての空家を有効に次の世代に引き継ぐためにも、みなさんの創意工夫が求められると思います。
 是非、この法律について、興味をもって、勉強頂ければと思います。

以 上

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン平成27年12月号執筆分