平成27年第3四半期(H27.7.1〜H27.10.1)
主要都市の高度利用地地価動向報告〜地価LOOKレポート〜の結果



不動産鑑定士  深澤 俊男

1.はじめに

 国土交通省は、平成27年11月27日に、平成27年第3四半期主要都市の高度利用地地価動向報告〜地価LOOKレポート〜の結果を公表しました。
 この主要都市の高度利用地地価動向報告(地価LOOKレポート)とは、主要都市の地価動向を先行的に表しやすい高度利用地等の地区について、四半期毎に地価動向を把握することにより先行的な地価動向を明らかにするもので、平成19年第4四半期から継続して公表されています。調査内容は、鑑定評価員(不動産鑑定士)が調査対象地区の不動産市場の動向に関する情報を収集するとともに、不動産鑑定評価に準じた方法によって地価動向を把握し、その結果を国土交通省において集約します。また、各地区の不動産関連企業、金融機関等の地元不動産関係者にヒアリングを行った結果が掲載されています。
 対象地区は、三大都市圏、地方中心都市等において特に地価動向を把握する必要性の高い地区となっており、平成26年第4四半期までは東京圏65地区、大阪圏39地区、名古屋圏14地区、地方中心都市等32地区の合計150地区でしたが、平成27年第1四半期からは東京圏43地区、大阪圏25地区、名古屋圏9地区、地方中心都市等23地区の合計100地区となりました。これを用途別に分けますと、高層住宅等により高度利用されている住宅系地区が32地区、店舗、事務所等が高度に集積している商業系地区が68地区設定されています。
 なお、従来から実施されている、地価公示や都道府県地価調査に比べ、その対象範囲は限定的で、対象地点は少ないですが、地価動向を先行的に表しやすい高度利用地等のみを抽出・選定し、また速報性を重視したもので、その内容や役割がやや異なっています(【表1】参照)。

【表1】地価公示・都道府県地価調査と地価LOOKレポートの制度比較表(一部)
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2.全国の地価動向

 国土交通省HPによると、以下のようにまとめられています。
 平成27年第3四半期(7/1〜10/1)の主要都市・高度利用地100地区における地価動向は、上昇が87地区(前回87地区)、横ばいが13地区(前回13地区)、下落が0地区(前回0地区)となり、上昇地区は全体の約9割となっています。
 この上昇基調が継続している理由としては、大都市圏を中心に、空室率の改善等によるオフィス市況の回復基調が続いていること、訪日客の増加に伴い店舗・ホテル棟の需要が高まっていること、大規模な再開発事業が進捗していること等を背景に、金融緩和等による良好な資金調達環境と相まって法人投資家等の不動産投資意欲が引き続き強いことなどが考えられます。
 このように、今回の地価動向は、上昇地区数が前回と同程度(全体の約9割)を占めるなど、上昇基調の継続が見られます(【表2】参照)。

【表2】全地区の上昇・横ばい・下落の地区数一覧表
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3.圏域別・用途別の地価動向

 国土交通省HPによると、以下のようにまとめられています。
 まず、圏域別の地価動向については、三大都市圏(77地区)のうち東京圏(43地区)では上昇地区が41地区(前回41地区)、横ばい地区が2地区(前回2地区)、下落地区が0地区(前回0地区)でほぼ全ての地区が上昇となっています。また、大阪圏(25地区)では、上昇地区が22地区(前回22地区)、横ばい地区が3地区(前回3地区)と約9割の地区が上昇となっており、名古屋圏(9地区)では、平成25年第2四半期から10期連続して、全ての地区で上昇を示しています。
 なお、大阪圏の上昇・横ばい・下落の地区数一覧を下記の【表3】に示しております。

【表3】大阪圏の上昇・横ばい・下落の地区数一覧表
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 次に、用途別の地価動向については、住宅系地区(32地区)では、上昇地区が26地区(前回26地区)、横ばい地区が6地区(前回6地区)、下落地区が前回に続き0地区です。また、商業系地区(68地区)では、上昇地区が61地区(前回61地区)、横ばい地区が7地区(前回7地区)、下落地区が前回に続き0地区です。

4.大阪府内の地価動向

 大阪府内には平成26年第4四半期までは以下の19地区が設定されていました(【表4−1】参照)が、平成27年第1四半期からは13地区になりました(【表4−2】参照。

【表4−1】各地区の位置、利用状況等(平成26年第4四半期以前:19地区)
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 これら大阪府内の13地区における最近の傾向は、平成27第1四半期において上昇地区が全13地区と上昇傾向が顕著にみられ、直近の平成27年第3四半期までその傾向が継続しています。(【表5】参照)。

【表5】地区毎の総合評価(変動率)推移 ※画像をクリックすると拡大します。

 大阪府内の13地区における取引価格等の市況のトレンドを示したものが下記の【表6】です。ここでは、A.取引価格:対象地区の不動産(土地又は土地・建物の複合不動産の土地に相当する部分)の取引価格、B.取引利回り:対象地区の不動産(土地又は土地・建物の複合不動産)の取引に関する利回り(純収益を取引価格で除した値)、C.取引件数:対象地区の不動産(土地又は土地建物の複合不動産)の取引件数、D.投資用不動産の供給:投資用不動産(賃貸収益を目的とする貸しオフィスや貸しマンションなど)の供給件数、E.オフィス賃料:商業系地区におけるオフィス賃料、F.店舗賃料:商業系地区における店舗賃料、G.マンション分譲価格:住宅系地区における新築マンションの分譲価格、H.マンション賃料:住宅系地区における賃貸マンションの賃料の8項目がその対象です。A.取引価格は全ての地区で上昇傾向を、B.取引利回りは2地区を除いて低下傾向を、C.取引件数は2地区を除いて横ばい傾向を示しています。なお、D.投資用不動産の供給については、1地区で減少、12地区で横ばいとなっています。次に、オフィス賃料については、3地区を除いた10地区が対象で、そのうち横ばいが8地区、下落が2地区、店舗賃料についても対象は10地区で、そのうち横ばいが8地区、上昇が2地区で、オフィス賃料と店舗賃料の違いが表れています。一方、G.マンション分譲価格は対象3地区のうち全ての地区で上昇を、H.マンション賃料は対象の3地区全てで横ばいを示しています。

【表6】大阪府内における地価動向報告(H27.7.1〜H27.10.1) ※画像をクリックすると拡大します。

5.その他の地価LOOKレポートの特長

 この主要都市の高度利用地地価動向報告(地価LOOKレポート)には、これを評価した鑑定評価員のコメント及び主な項目の概要が追記されていることや、ヒアリングに応じて頂いた地元不動産業者の声の一例も一部掲載されていることから、既存の公的評価との違いとして、取引現場のさらに詳細な状況を反映した定性的な観点での動向が分かり易くなっていることが特長として挙げられます。なお、これらはインターネットで公開されており、不動産事業に関わる方々のみならず、広く一般の人々も閲覧可能です。また、限定された地区ではあるものの特に高度利用地に焦点を絞っていること、地価公示や地価調査等に比べて発表までの期間が短いこと、四半期毎という頻度で公表されることなどから、これまで以上に高度利用地に関しての地価動向をいち早く把握することが可能です。

 (参考資料)国土交通省HP 土地水資源局 地価調査課 発表資料より

                                   以上

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン平成28年1月号執筆分