平成28年地価公示結果について(大阪府内の動向を中心として)


不動産鑑定士  北井 孝彦

1 はじめに

 国土交通省は平成28年の地価公示結果(価格時点1月1日)を、去る3月22日に公表しました。
 ご承知のとおり地価公示価格は国土交通省土地鑑定委員会が委嘱した評価員である全国の不動産鑑定士の鑑定結果を基に公表する毎年1月1日時点の土地の価格です。この制度は都道府県が実施している地価調査(価格時点:7月1日)とあいまって、土地取引等に対して指標を与えるとともに公共事業の用に供する土地に対する補償金額の算定等に資すること等により、適正な地価の形成に寄与することを目的としています。
 また、この地価公示価格と都道府県地価調査価格は相続税や贈与税の算定基準として国税庁が7月に発表する「路線価」や市町村が課税主体である「固定資産税の評価」を定めるための評価作業の主要な指標となっています。平成28年度地価公示における調査地点は全国で市街化区域20,031地点、市街化調整区域1,331地点、その他の都市計画区域3,888地点、都市計画区域外の公示区域20地点計25,270地点となっています(うち東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示区域内の15地点については調査を休止しています)。なお、平成26年地価公示において、2,620地点の標準地を削減していますが、そのうち都市計画区域内宅地における2,405地点の削減により重大な影響が見られる地域において1,890地点を復活設定されました。大阪府内では1,670地点でした。

2 全国的な動向

全国平均では、全用途平均で昨年までの下落から上昇に転じました。用途別では、住宅地はわずかに下落しているものの下落幅の縮小傾向が継続しています。また、商業地は昨年の横ばいから上昇に転じ、工業地は昨年の下落から横ばいに転じました。

三大都市圏をみると、住宅地はほぼ前年なみの小幅な上昇を示し、商業地は総じて上昇基調を強めています。また、工業地は東京圏で上昇基調を強め、大阪圏及び名古屋圏では昨年の下落から上昇に転じました。

地方圏をみると、地方中枢都市では全ての用途で三大都市圏を上回る上昇を示しています。地方圏のその他の地域においても全ての用途で下落幅が縮小しています。

【住宅地】

全国的に雇用情勢の改善が続く中、住宅ローン減税等の施策による住宅需要の下支え効果もあって、住宅地の地価は総じて底堅く推移しており、上昇ないし下落幅の縮小が見られます。

圏域別に見ると、
・東京圏の平均変動率は3年連続して小幅な上昇となりました。なお、半年毎の地価動向は、前半(H27.1〜H27.6)、後半(H27.7〜H27.12)ともに0.5%の上昇となりました。
・大阪圏の平均変動率は昨年の横ばいからわずかながら上昇に転じました。なお、半年毎の地価動向は、前半・後半ともに0.2%の上昇となりました。
・名古屋圏の平均変動率は3年連続して上昇となり上昇幅は昨年と同じでありました。なお、半年毎の地価動向は、前半が0.9%の上昇、後半が0.7%の上昇となりました。
・地方圏の平均変動率は下落を続けていますが、下落幅は縮小傾向を継続しています。なお、半年毎の地価動向は、前半、後半ともに0.3%の上昇となりました。地方中枢都市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)では、平均変動率は3年連続上昇となり、上昇幅も昨年より拡大しています。なお、半年毎の地価動向は、前半が1.4%の上昇、後半が1.7%の上昇となりました。

【商業地】

外国人観光客をはじめ国内外からの来街者の増加等を背景に、主要都市の中心部などでは店舗、ホテル等の需要が旺盛であり、また、オフィスについても空室率は概ね低下傾向が続き、一部地域では賃料の改善が見られるなど、総じて商業地としての収益性の高まりが見られる。こうした中、金融緩和による法人投資家等の資金調達環境が良好なこと等もあって、不動産投資意欲旺盛であり、商業地の地価は総じて堅調に推移しています。

圏域別に見ると、
・東京圏の平均変動率は3年連続の上昇となり、上昇幅も昨年より拡大しています。なお、半年毎の地価動向は、前半が1.8%の上昇、後半が1.6%の上昇となりました。
・大阪圏の平均変動率は3年連続の上昇となり、上昇幅も昨年より拡大しています。なお、半年毎の地価動向は、前半が2.2%の上昇、後半が1.9%の上昇となりました。
・名古屋圏の平均変動率は3年連続の上昇となり、上昇幅も昨年より拡大しています。なお、半年毎の地価動向は、前半、後半ともに1.5%の上昇となりました。
・地方圏では、平均変動率は下落を続けていますが、下落幅は縮小傾向を継続しています。こうした中、地方中枢都市における平均変動率は3年連続の上昇となり、上昇幅も昨年より拡大し、三大都市圏平均を大きく上回っています。なお、地方中枢都市における半年毎の地価動向は、前半が2.6%の上昇、後半が4.3%の上昇となりました。

【工業地】

全国的な需要の回復に伴い昨年までの下落から横ばいに転じた。インターネット通販の普及等もあり、一定の需要が見込める地域では大型物流施設に対する需要が旺盛であり、高速道路IC周辺等の物流適地では地価は総じて上昇基調で推移しています。
圏域別に見ると、
・東京圏の平均変動率は3年連続の上昇となったほか、大阪圏及び名古屋圏の平均変動率は昨年までの下落から上昇に転じました。
・地方圏の平均変動率は下落を続けていますが、下落幅は縮小傾向を継続しています。地方中枢都市の平均変動率は3年連続上昇となり、上昇幅も昨年より拡大しています。
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3 大阪府内の動向

大阪府内の変動率を見ると住宅地は、平成21年以降7年連続のマイナスから0.0%(前年はマイナス0.1%)の横ばいとなりました。商業地は、プラス4.2%(前年はプラス2.0%)と3年連続の上昇となり、上昇幅は拡大しました。
個別の地点で見ると住宅地は、継続地点1,017地点のうち上昇地点245地点(24.1%)、横ばい地点413地点(40.6%)、下落地点359地点(35.3%)となり、商業地は、継続地点336地点のうち上昇地点212地点(63.1%)、横ばい地点90地点(26.8%)、下落地点34地点(10.1%)となりました。

住宅地で市区町村別にみると、上昇率上位が、大阪市浪速区5.0%、大阪市北区4.1%、大阪市中央区3.1%、大阪市天王寺区2.8%、大阪市福島区1.8%となりました。他方、下落率上位が、千早赤阪村マイナス3.2%、豊能町マイナス1.9%、河南町マイナス1.6%となりました。
また、「利便性に優れる徒歩圏内の住宅地」で地価が上昇傾向にある一方で、「利便性に劣る徒歩圏外の住宅地」で引き続き下落傾向が続いており、住宅地の二極化傾向が見られます。

商業地で市区町村別にみると、上昇率上位が、大阪市中央区12.8%、大阪市北区10.7%、大阪市西区10.6%、大阪市福島区9.4%、大阪市浪速区7.1%となっています。他方、下落率上位が、松原市・羽曳野市マイナス0.8%、門真市マイナス0.7%となりました。
また、都心部を中心に、商業性に優れた地域や、利便性に優れたマンション用地の需要がある地域で、地価が上昇しています。

大阪府内の標準地の価格1位等
 
(1)

価格1位
住宅地:天王寺−6   大阪市天王寺区上汐4丁目598千円/u
商業地:大阪北5−28  大阪市北区大深町11,800千円/u

(2)

対前年上昇率上位1位
住宅地:天王寺−6   大阪市天王寺区上汐4丁目 10.1%
商業地:大阪中央5−23 大阪市中央区心斎橋筋2丁目45.1%
                        (全国1位)

(3)

対前年下落率上位1位
住宅地:東大阪−49   東大阪市五条町△4.5%
商業地:門真5−4   門真市北巣本町△1.6%


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4 大阪府内のトピックス(特徴的なこと)

【住宅地】

大阪市は0.5%上昇(0.3%上昇)。市内中心部への交通利便性に優れた地域においては、マンション素地需要を中心に需要が堅調で、上昇を続けています。前記のとおり浪速区は5.0%上昇(1.4%上昇)。北区は4.1%上昇(2.2%上昇)。中央区は3.1%上昇(3.3%上昇)。交通利便性が高い地域では、マンション素地需要が堅調であり、賃貸マンションに係る投資用不動産としての需要も見られ、概ね上昇幅が昨年より拡大しました。

堺市は0.3%上昇(0.2%上昇)。交通利便性が高く住環境が良好な地域で上昇地点が見られ、南区、美原区を除き上昇を続けています。

その他大阪市中心部への交通利便性が高い北摂地域では、駅徒歩圏で住環境が良好な地区の需要が堅調であり、上昇を続けている市町が見られます。

【商業地】

大阪市は7.8%上昇(3.5%上昇)。大阪市の中心部では、外国人観光客の増加も寄与して店舗・ホテルの需要が旺盛で、オフィスについても空室率の低下や賃料水準の底打ち感が見られるとともにマンション素地としての需要も堅調で、上昇幅が昨年より拡大しました。
中央区は12.8%上昇(4.9%上昇)。外国人観光客の増加等により日本橋、心斎橋、なんばエリアでは店舗・ホテルの需要が特に旺盛で、高い上昇率となった地点も見られ、上昇幅が昨年より拡大しました。
北区は10.7%上昇(6.0%上昇)。梅田地区等におけるオフィス需要が堅調であることに加え、大規模再開発ビルの竣工や店舗・ホテル需要の拡大等も寄与して、上昇幅が昨年より拡大しました。
福島区は9.4%上昇(4.2%上昇)。西区は10.6%上昇(4.7%上昇)。両区とも大阪駅に近く、マンション素地としての需要が堅調で、上昇幅が昨年より拡大しました。
その他の市では、繁華性を維持する商業地では相応の店舗需要が見られ、また、マンション素地としての需要も堅調なことから上昇を続けている市が見られます。

  (参考資料)
・国土交通省 土地・建設産業局 地価調査課 地価公示室 発表資料
・大阪府地価だより 平成28年3月22日発行 第82号

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン平成28年5月号執筆分