平成28年度税制改正のポイント(住宅・不動産税制について)


税理士 近藤 雅人

1.はじめに

 平成28年度税制改正法案(所得税法等の一部を改正する法律案)は、平成28年3月29日参議院で可決され、成立しました。本稿は、今年度改正された住宅及び不動産税制のうち、特に重要な、
 @ 既存住宅に係る三世代同居改修工事をした場合の特例
 A 空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例
 B 減価償却方法の見直し
について詳細に解説することとします。

2.既存住宅に係る三世代同居改修工事をした場合の特例

(1)概要
 この制度は、若年者の出産・子育ての不安の軽減を図る、あるいは高齢者の孤立化を防ぐ、さらには世代間の助け合いによる子育てを支援する等の目的から導入されるものです。
 具体的には、自己の有する家屋に三世代同居改修工事を行った場合において、平成28年4月1日から平成31年6月30日までの間に、その者の居住の用に供したときは、次の【A】または【B】の特例を受けることができるというものです。
【A】ローン控除特例
 三世代同居改修工事を含む増改築工事に係る住宅借入金等(償還期間5年以上)の年末残高1,000万円以下の部分について、一定割合を乗じた金額を5年間の各年において所得税額から控除(詳細は下記計算方法を参照ください)
【B】税額控除特例
 三世代同居改修工事の標準的な費用の額の10%相当額をその年分の所得税額から控除(詳細は下記計算方法を参照ください)

(2)対象工事及び要件
 対象工事は、キッチン、浴室、トイレ、玄関の4つの工事で、その要件は、次のとおりです。

● 上記4つの工事のいずれかを増設すること
● 改修後、上記4つのいずれか2つ以上の設備が複数となること
● 対象工事の費用が50万円を超えること(補助金がある場合には補助金控除後)

なお、名称は三世代同居改修工事となっていますが、三世代が同居することは要件とはされていません。
(3)計算方法
【A】ローン控除特例
   控除額 = ローンの年末残高 × 控除率

各年の最高控除額 (5年合計で最高62.5万円)

  1年目 2年目 3年目 4年目 5年目
@ 7.5万円 7.5万円 7.5万円 7.5万円 7.5万円
A 5万円 5万円 5万円 5万円 5万円

【B】税額控除特例
控除額(限度額250万円)=( 標準的な費用 − 補助金等の額 )×10%
                 
※改修部位ごとに標準的な工事費用の額として定められた金額×改修箇所の数

なお、税額控除特例には次の条件がありますので、注意が必要です。
● その年の前年以前3年内の各年分において本税額控除の適用を受けていないこと
● その年分の合計所得金額が3,000万円を超えないこと


3.空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例

(1)概要
 この制度は、適切な管理が行われていない空き家が、地域住民の生活環境に悪影響を及ぼしていることに鑑み、空き家対策として導入されるものです。これまで居住用家屋の譲渡所得には、3,000万円の特別控除が認められてきましたが、空き家にはこの特例は適用できませんでした。そこで、空き家対策の一環としてこの特例が導入されることとなったのです。
 具体的には、被相続人がお亡くなりになるまで一人で居住されていた家屋を相続によって取得した相続人が、相続時から3年を経過する日の属する年の12月31日までに、耐震リフォームをする等の一定の要件を満たしたうえで譲渡した場合には、その譲渡益から3,000万円を控除することができるという特例です。
 なお、平成27年度税制改正では、空き家対策の一環として、固定資産税において、空家等対策推進法による必要な措置の勧告を受けた特定空家等の敷地を住宅用地の特例措置の対象から除外する、つまり住宅用地ではなく更地として課税する措置が講じられています。空き家対策税制は、今後も検討されていくでしょう。

(2)主な適用要件等

@ その家屋は昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
ただし、区分所有建築物(マンション等)は除きます。
A 相続発生時に被相続人以外に居住者がいなかったこと
つまり、一人暮らしに限られるということです。
B 相続時から譲渡時点まで空き家であったこと
一度でも居住、貸付け、事業用に使用されたことがあれば本特例の適用はできません。
C 譲渡価額が1億円を超えないこと
建物と土地の合計譲渡価額が1億円を超えるものについては、本特例の適用はできません。
D 耐震リフォームあるいは建物を除却すること
空き家のままで譲渡をしても、本特例の適用はありません。建物の耐震リフォームあるいは建物の除却が必要となります。ただし、その建物が既に耐震性ある建物である場合には適用することができます。
E 平成28年4月1日から平成31年3月31日までの間の譲渡であること
所得税は暦年課税(1月1日〜12月31日まで)ですが、この特例の適用期限は暦年ではないので、注意が必要です。特に平成31年中の譲渡については、4月1日以後はこの特例の適用がないことに注意してください。

4.減価償却方法の見直し

 この改正は、法人税率の引下げに伴い財源が減少する分を補てんするために行われました。建物附属設備と構築物の減価償却方法については、これまで定率法と定額法の選択適用が認められてきましたが、平成28年4月1日以後取得分については、定額法に一本化されました。この改正は、法人税だけではなく所得税も同様です。
 どのくらいの影響が出るのかを以下に試算してみます。
【例】
1,000万円の電気設備を取得した場合(耐用年数15年)の初年度減価償却費
     平成28年3月31日まで(200%定率法) 133万円
     平成28年4月1日以後(定額法)     67万円

 この試算では、初年度の減価償却費はこれまでの約1/2となります。減価償却費が少なくなるということは、それだけ費用が少なくなる、つまりそれだけ利益が増えることになり、この限りにおいては、法人税や所得税の負担が増えることになります。
 特に、マンションや工場といった建物と一体的に取得される建物附属設備や構築物は高額な取得価額となることがあり、この改正の影響を大きく受けると考えられますので、注意が必要です。
 参考までに、減価償却資産の区分とその取得時期毎に適用可能な減価償却方法を示します。

 なお、複数の償却方法がある場合で、納税者が税務署に償却方法の届出を提出しなかったときは、所得税においては定額法が、法人税においては定率法が、それぞれ法定償却方法となります。


5.その他の改正

その他注意すべき改正項目を以下に列挙します。
(1)適用期限の2年延長
 @ 所得税

    特定の居住用財産の買換え・交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例
  居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除等
  特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除等

 A 登録免許税

  特定認定長期優良住宅の所有権の保存登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置
  認定低炭素住宅の所有権の保存登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置
  特定の増改築等がされた住宅用家屋の所有権の移転登記に対する登録免許税の税率の軽減措置
 B 固定資産税
  新築住宅に係る固定資産税の税額の減額措置
  新築の認定長期優良住宅に係る固定資産税の税額の減額措置
 C 不動産取得税
  新築住宅を宅地建物取引業者等が取得したものとみなす日を住宅新築の日から1年を経過した日に緩和する特例措置
  新築住宅特例適用住宅用土地に係る不動産取得税の減額措置について、土地取得後の住宅新築までの経過年数を緩和する特例措置
  新築の認定長期優良住宅に係る不動産取得税の課税標準の特例措置
(2)縮減のうえ適用期限の延長
 @ 法人税及び所得税
  サービス付き高齢者向け賃貸住宅の割増償却制度について、割増償却率を現行の14%から10%に引下げ(耐用年数35年以上は現行20%から14%に引下げ)たうえで1年延長

6.おわりに

 ここまで、平成28年度税制改正から、住宅及び不動産税制のうち特に重要と考えられる項目を解説してきました。税制改正には、なぜその改正に至ったのか、という制度の趣旨があります。それぞれの制度の適用を考えるときには、適用要件だけではなく、その制度の趣旨にも目を通されることをお勧めします。

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン平成28年6月号執筆分