区分所有建物の共用部分に係る不当利得返還請求について(最高裁判例)
 

弁護士 横山耕平

 区分所有建物の共用部分について生ずる不当利得請求は、区分所有者の団体のみがで きる旨の集会の決議又は規約の定めがある場合には、各区分所有者が請求権を行使する ことはできないとした事例(最高判平27・9・18 判時2278-63)
 少し変わった事例ですが、マンションの区分所有者が、共用部分を第三者に賃貸した 他の区分所有者に対して、賃料のうち、共用部分に係る持分割合相当額の支払を求める ことができるのでしょうか。共有部分についての権利は、各区分所有者に共有的に帰属 するとなると、賃料などの金銭債権は、可分債権(分割行使できる債権という意味)と して、相応の額の請求を、各区分所有者が第三者に、あるいは自分の割合を超えて利益 を取得した区分所有者がいれば、返還するよう請求できるような気がします。この点に ついて、最高裁が判断したのが、下記の事例です。
 最高裁は、結論として、本件マンションの管理規約には、管理者が共用部分の管理を 行い、共用部分を特定の区分所有者に無償で使用させることができる旨の定めがあり、 この定めは、区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を含むもの と解すべきとして、その場合には、各区分所有者は、個別に、請求権を行使することは できないとしました(最高裁平成27 年9 月18 日判決上告棄却判例時報2278 号63 頁)。

1 事案の概要

 本件マンションの区分所有者Y(被上告人)は、A との間でY の専有部分並びに共用部分である塔屋及び外壁等を、賃料を月額28 万円余する賃貸借契約を締結した。本件賃貸借契約はA の携帯電話基地局を設置する目的で締結されたものであり、アンテナを制御するための機器等はY の専有部分に、アンテナの支柱、ケーブルの配管部分等は共用部分にそれぞれ設置された。
 区分所有者X(上告人)は、Y に対し、不当利得請求権に基づき、Y が賃貸して得た賃料のうち、共用部分に係るX の持分割合相当額の支払を求めて提訴した。

(管理規約の定め)
@ 各住戸及び事務所に接する共用部分であるバルコニーについては、各バルコニーに接する建物部分の区分所有者に無償で専用させることができる。
A 塔屋、外壁及びパイプシャフトの一部については、事務所所有の区分所有者に対し、事務所用冷却塔及び店舗・事務所用袖看板等の設置のため、Aと同様に無償で使用させることができる。
B 区分所有者が無償で使用する@、Aの部分の修理、保守及び管理の費用は、各使用者が負担し、その他の共用部分の修理及び管理は、管理者において行い、その費用負担は他の条項の定めによる。
X は、原審において請求を棄却されたことから上告受理の申立てを行った。

2 判決の要旨

 裁判所は次のように判示して、上告人X の請求を棄却しました。
(1)  所論(上告人の主張)は、一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た貸料のうち各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権については、各区分所有者による行使が許されるというものである。
(2)  一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た貸料のうち各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権は各区分所有者に帰属するから、各区分所有者は、原則として、上記請求権を行使することができるものと解するのが相当である。
 他方において、建物の区分所有等に関する法律は、区分所有者が、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体(区分所有者の団体)を構成する旨を規定し、この団体の意思決定機関としての集会の招集手続並びに決議の方法及び効力等や、この団体の自治的規範としての規約の設定の手続及び効力等を規定している。
 また、同法18 条1 項本文及び2 項は、区分所有者に建物の区分所有という共同の目的があり、この共同目的達成の手段として共用部分が区分所有者全員の共有に属するものとされているという特殊性に鑑みて、共用部分の管理に関する事項は集会の決議で決するか、又は規約で定めをする旨を規定し、共用部分の管理を団体的規制に服させている。
 そして、共用部分を第三者に賃貸することは共用部分の管理に関する事項に当たるところ、上記請求権は、共用部分の第三者に対する賃貸による収益を得ることができなかったという区分所有者の損失を回復するためのものであるから、共用部分の管理と密接に関連するものであるといえる。そうすると、区分所有者の団体は、区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を集会で決議し、又は規約で定めることができるものと解される。そして、上記の集会の決議又は規約の定めがある場合には、各区分所有者は、上記請求権を行使することができないものと解するのが相当である。そして、共用部分の管理を団体的規制に服させている上記のような建物の区分所有等に関する法律の趣旨に照らすと、区分所有者の団体の執行機関である管理者が共用部分の管理を行い、共用部分を使用させることができる旨の集会の決議又は規約の定めがある揚合には、上記の集会の決議又は規約の定めは、区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を含むものと解される。
 これを本件についてみると、本件マンションの管理規約には、管理者が共用部分の管理を行い、共用部分を特定の区分所有者に無償で使用させることができる旨の定めがあり、この定めは、区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を含むものと解すべきであるから、上告人は、不当利得返還請求権を行使することができない。

3 まとめ

 本判決は、このように、団体において、共有部分の管理を行い、共有部分を使用させることができる旨の総会や規約がある場合、当該団体のみが、不当利得返還請求などの請求権を行使することができるとしました。
 すこし変わった事例ですが、本判決は、共用部分について生ずる不当利得請求権を各区分所有者が個別に行使できない場合があるかという点について、最高裁が初めて判断を示したもので、規約の解釈の点も含め、重要な意義のある判例です。


以上 

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン平成29年4月号執筆分