『平成29年度税制改正のポイント』
 

税理士 近藤 雅人

1.はじめに

 平成29年度税制改正法案(所得税法等の一部を改正する等の法律)は、平成29年3月27日に国会で可決・成立しました。本稿は、今年度改正された住宅及び不動産税制の中から、

 @ 広大地の評価方法の見直し
 A いわゆるタワーマンションに係る固定資産税等の見直し

について詳細に解説することとします。
 また、不動産税制に直接は関連しませんが、全国で380万者とされる 中小企業・小規模事業者の事業承継税制に関しても、重要な改正がありましたので、この点も併せて解説します。

2.広大地の評価方法の見直し

(1)現行の評価方法

 広大地とは、1,000u以上(三大都市圏では500u以上)の宅地のことをいいます。一般に広大な宅地を戸建分譲地として開発する際には、道路や公園等を整備しなければならず、実際に分譲できる有効面積は少なくなります。税務上の広大地の評価は、この点を考慮して、面積が広くなるほど評価額を減額することとしています。

現行広大地の相続税評価 = 路線価 × 面積 × 広大地補正率
※広大地補正率 = 0.6−0.05× 広大地の面積/1,000u(下限値0.35)

 ところで、現行の評価は、面積に応じて比例的に減額する方法です。広大地といっても、その形状は様々です。例えば次の図のように、同じ面積であっても、土地の形状によっては有効利用面積が異なり、実際の取引価格が異なることもあります。


中小企業庁ホームページ(http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chu_kigyocnt/2016/160129chukigyocnt.html)参照。

 この例では、左の広大地に比べて、右の広大地の分譲地の数が1つ少なくなっています。ところが、現行の評価方法では、その形状を考慮しないため、左右の相続税評価額は同じとなります。このように、取引価格と相続税評価額が大きく乖離するといった事例が多数発生し、中には富裕層の節税策に利用されている事例もありました。

 (2)改正後の評価方法
この問題に対応するために、各土地の個性に応じて、面積・形状に基づき評価する方法に改正されました。これにより、実際の取引価格と相続税評価額との乖離が解消されることになりそうです。

見直し後の広大地の評価=路線価×補正率※1×規模格差補正率※2
※1 形状(不整形・奥行)を考慮した補正率
※2 面積を考慮した補正率

 この改正は、平成30年1月1日以後の相続、遺贈又は贈与から適用されます。

3 タワーマンションに係る固定資産税等の見直し

(1)現行の課税方法
 これまでの、マンション建物に係る固定資産税・都市計画税(以下「固定資産税等」といいます。)は、マンションの階層に関わらず、所有者ごとの床面積によって、単純に按分計算されていました。

区分所有者  =  一棟全体の   ×   所有者ごとの専有床面積 
ごとの税額     固定資産税         専有床面積の合計

 しかし、マンションの販売価格は、高階層になればなるほど高額になるのが実情です。それにも関わらず、床面積だけで税額を算出するのは、不公平だともいえます。そこで、実際の取引価格の傾向等を踏まえ、高さが60mを超える、いわゆるタワーマンションについては、その算出方法が変更されることとなりました。


改正後の課税方法を、まとめると以下のとおりとなります。
@ 対象の建物とは
  高さが60mを超える居住用超高層建築物
A 課税方法は
区分所有者= 一棟全体の× 区分所有者ごとの専有面積×階層別専有床面積補正率 
ごとの税額  固定資産税        補正後の専有床面積の合計


B 階層別専有床面積補正率とは

   居住用超高層建築物1階を100とし、階層が1階増すごとに、これに10を39で除した数を加えた数値 「N階の階層別専有床面積補正率=100+10/39×(N−1)」
※(例)40階の補正率  100+10/39×(40−1)=110.0

C その他

   その他、居住用以外の専有部分を含む場合の階層別専有床面積補正率の適用方法、天井の高さ・附属設備の程度等の際に応じた補正、タワーマンションの区分所有者全員が申し出た場合による固定資産税等の按分についても、それぞれ定めがあります。
(3)注意点
 この改正は、平成30年度から新たに課税されることとなるタワーマンションについて適用されます。ただし、平成29年4月1日前に売買契約が締結された住戸を含むタワーマンションについては適用されません。また、不動産取得税についても、同様の仕組みによる改正が行われます。
 なお、この改正は、タワーマンション一棟の固定資産税を、各住戸に按分する計算方法を変更するものであって、各住戸の評価額、つまり相続税評価額を変更する改正ではありませんので注意してください。

4 事業承継税制の見直し

 中小企業経営者の高齢化の進行等を踏まえ、早期かつ計画的な事業承継の更なる促進のため、非上場株式等に係る相続税等の納税猶予制度、いわゆる事業承継税制が使いやすい制度に改正されました。この改正は、平成29年1月1日以後の相続又は贈与について適用されます。
 なお、事業承継税制とは、後継者が経済産業大臣の認定を受けた非上場会社の株式等を先代経営者から相続又は贈与により取得した場合において、一定の要件を満たすと相続税・贈与税の納税が猶予される特例制度です。具体的な制度は以下のとおりです。

@ 相続税の納税猶予制度
 後継者が納付すべき相続税のうち、相続等により取得した非上場株式等に係る課税価額の80%に対応する額が納税猶予される制度(相続前から後継者が既に保有していた議決権株式等を含め、発行済議決権株式総数の2/3に達するまでの部分に限ります)。
A 贈与税の納税猶予制度
 後継者が納付すべき贈与税のうち、贈与税により取得した非上場株式等に係る課税価額の全額に対応する額が納税猶予される制度(贈与前から後継者がすでに保有していた議決権株式等を含め、発行済議決権総数の2/3に達するまでの部分に限ります)。

 今回の改正はこの要件を緩和し、より使いやすい制度にしようとするもので、端的には、要件を満たさなくなった場合等のリスクの軽減を図る改正ということができます。
(1)雇用確保要件等の緩和
 雇用確保要件とは、5年間(経営承継期間)の平均で、贈与又は相続開始時の常時使用従業員数の8割以上を確保することをいいます。ただ、これまでは、震災で被災した場合等であっても、この要件は緩和されませんでした。また、維持すべき従業員数の計算は、その端数が切り上げで計算されるため、従業員が4人以下の会社の場合には、

   4人×80%=3.2人 → 4人
   3人×80%=2.4人 → 3人
   2人×80%=1.6人 → 2人

となり、従業員が1人減れば納税猶予は取り消されてしまいました。今回は、この点につき以下のとおり改正されています。

@ 災害時等の雇用確保要件の緩和
 災害による資産の被害が大きい会社、従業員の多くが属する事務所が被災した会社、災害や主要取引先等の倒産等により売上高が大幅に減少した一定の会社については、雇用確保要件が免除あるいは緩和されます。
A 計算方法の見直し
 従業員の少ない小規模事業者への配慮から、維持すべき従業員数の計算上の端数計算は、切り捨てとされました。これにより、従業員数2〜4人以下の会社の場合、従業員が1人減った場合でも納税猶予が受けられることとなりました。

(2)贈与税納税猶予取消時の負担軽減措置(相続時精算課税制度との併用)
 非上場株式等に係る贈与税の納税猶予制度は、これまでは、相続時精算課税制度の適用対象外とされていました。そのため、贈与税の納税猶予制度を使った場合で、後にその猶予が取り消されると、高額な贈与税の負担が発生するというリスクが存在し、そのことが同制度の活用を妨げる、大きな要因の一つと考えられてきました。
 今回の改正では、相続時精算課税制度に係る贈与が、贈与税の納税猶予制度の適用対象に加えられました。これにより、仮に何らかの事由によって、贈与税の納税猶予制度が取り消された場合であっても、贈与税の負担が軽減される可能性が高くなりました。


5 おわりに

ここまで、平成29年度税制改正から、特に重要と考えられる項目を解説してきました。解説した改正の他にも、

長期優良住宅化リフォームに係る所得税の減税制度の創設(固定資産税の減額特例の創設)
サービス付き高齢者向け住宅普及促進税制の見直し、延長
居住用家屋に係る登録免許税の軽減税率の延長

など、重要な改正があります。これらの改正の内容についても、是非ご確認ください。

 税制改正には、なぜその改正に至ったのか、という理由があります。それぞれの制度の適用を考えるときには、適用要件だけではなく、その制度の趣旨を意識されることをお勧めします。


(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン平成29年6月号執筆分