不動産関連税制B〜相続時精算課税制度について〜
 

税理士 土 師 秀 作

1.はじめに

 贈与税は個人から財産をもらった時にかかる税金です。贈与税の課税方法には、一年ごとに贈与された財産の価額を合計し、そこから基礎控除の110万円を引いた残額に税率を乗じて税額を計算する「暦年課税」と一定の要件に該当する場合に選択することができる「相続時精算課税」の二つがあります。

 第3回目の今回は、後者の「相続時精算課税制度」について解説します。

2.相続時精算課税制度の概要

 相続税精算課税制度は、生前贈与を進めることにより、高齢者の保有する資産を次世代以降へ円滑に移転し、その資産の有効活用してもらうことにより経済社会を活性化することを目的として、平成15年度税制改正により創設された制度です。
 相続時精算課税制度には、通常の制度に加えて、住宅投資を促進する観点から設けられた特例(住宅取得資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税の特例)があります。

3.相続時精算課税制度の内容

 相続時精算課税制度は、その名のとおり、制度の適用を選択した贈与についての税金の精算を相続の発生時に行うという制度です。特別控除額2,500万円を超える贈与をした場合には贈与税がかかりますのが、この贈与税は相続時に精算されるものですので、概算払いの性格のものといえます。

(1)適用対象者

  @贈与者
     その年の1月1日において60歳以上の父母又は祖父母
  A受贈者
     その年の1月1日において20歳以上のその贈与をした者の直系卑属である推定相続人である子、又は孫
(2)適用手続
     本制度を選択する受贈者(子又は孫)は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に所轄の税務署に対して「相続時精算課税制度選択届出書」を受贈者の戸籍の謄本等の一定の書類とともに贈与税の申告書に添付して提出する必要があります。
 本制度は、受贈者(子又は孫)が贈与者(父母又は祖父母)ごとに選択できますが、いったん選択すると選択した贈与者からの贈与についてはその贈与者が亡くなるまで継続して適用され、暦年課税の贈与に戻すことはできませんので、注意が必要です。
(3)適用対象財産等
     財産の種類、金額、贈与回数に制限はありません。
(4)贈与税額の計算
   

 受贈者(子又は孫)は、本制度を選択した年以後は、本制度に係る贈与者からの贈与(相続時精算課税制度の適用)とそれ以外の者からの贈与(暦年課税の適用)を区分して贈与税額を計算することになります。
 相続時精算課税制度の適用を受ける贈与税額は、贈与財産の価額の合計額から、特別控除額2,500万円(複数年にわたり利用可能、累積限度額)を控除した後の残額に一律20%の税率を乗じて算出します。特別控除額は累積の限度額ですので、過去に適用した金額があれば、適用後の残額がその年の限度額となります。

贈与財産の価額特別控除額2,500万円) × 20% = 贈与税額

計算例
 前年に父からの1,000万円の贈与を受け、相続時精算課税制度を選択し(前年度の贈与税額は0)、本年度に父からさらに2,000万円の贈与を受けた場合。

  贈与財産    特別控除額     税率   贈与税額
( 2,000万円 − 1,500万円 ) × 20% = 100万円

 特別控除額は2,500万円から前年度に適用を受けた1,000万円を控除した残額の1,500万円が限度となります。
(5)相続税額の計算
     相続時精算課税制度の適用を受けている贈与者に相続があった場合には、通常の相続財産にそれまでに相続時精算課税制度の適用を受けたその贈与者からの贈与財産も加算して相続税の課税価格を計算することになります。このときに加算する贈与財産の価額は、相続時の価額ではなく、贈与時の価額となります。
 また、その贈与者からの贈与につき、本制度に係る贈与税額がある場合には、計算した相続税額から控除します。相続税額から控除しきれない本制度に係る贈与税額は還付を受けることができます。


計算例
 父が死亡し、相続人は子3人、相続財産は3,000万円、相続財産の遺産分割は各人1/3ずつとし、子の1人に対して生前に3,000万円の相続時精算課税制度を選択した贈与をしている場合(本制度に係る贈与税100万円)。

通常の相続財産    贈与財産(制度適用分)     相続税課税価格
 3,000万円  +   3,000万円       =  6,000万円
 
相続税基礎控除額
 3,000万円  +  600万円  ×  3人   =  4,800万円

 課税遺産総額(相続税課税価格−相続税基礎控除額)

 6,000万円    −    4,800万円    =  1,200万円

相続税の総額
 相続税の総額は、法定相続分で財産を分割したと仮定して相続人ごとに税額を計算し、それらを合計して求められます。本事例の場合は相続人が子3人ですので、それぞれの法定相続分は1/3ずつで同じとなり、下記記算式となります(相続税の具体的な計算方法は本メールマガジン平成29年8月号参照)。

( 1,200万円 ÷ 3人 × 10% ) × 3人 = 120万円


相続時精算課税制度を適用している相続人の税負担額
 相続人それぞれの相続税の負担額は、相続税の総額に各相続人の課税価格の合計額に占めるその相続人の課税価格の割合を乗じて求められます。

           相続財産      贈与財産
 相続税総額    3,000万円÷3 + 3,000万円     相続税額
 120万円 ×                    =   80万円

               6,000万円
              課税価格の合計額


 相続税額       本制度による贈与税額
 80万円     −     100万円        =  △20万円

 以上のように、相続税額は80万円となりますが、既に相続時精算課税制度の適用時に100万円の贈与税を支払っておりますので、相続税の申告時にはそれが精算されて、20万円の還付を受けることができることになります。

その他の相続人の税負担額

              相続財産
             3,000万円÷3        相続税額
     120万円 ×             =    20万円

              6,000万円
            課税価格の合計額

 その他の相続人には贈与財産はありませんので、各人20万円の相続税の負担となります。

4.住宅取得資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税の特例の内容

 本特例は、平成33年12月31日までに、父母又は祖父母からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための金銭を取得した場合で、一定の要件を満たす場合に適用できる特例です。
 この特例では贈与者に年齢制限は設けられておりませんので、贈与者が贈与をした年の1月1日現在において、60歳未満であっても相続時精算課税制度を選択することができます。
 ただし、贈与者が直系尊属であることは通常の制度と変わりはありません。また、贈与者ごとに選択ができますが、いったん選択すると撤回することができないということも同じですので、注意が必要です。
 また、受贈者の要件も通常の制度と同様ですが、特例の場合は適用財産が住宅の取得資金に限定されているため、住宅用の家屋の新築等の要件、取引の相手方の要件、居住の時期についての要件等、様々な要件がありますので、特例の適用については十分な検討が必要になります。
 住宅取得資金の贈与につきましては、相続時精算課税制度の特例とは別に、「住宅取得資金の贈与税の非課税」の制度があります。この制度は相続時精算課税制度の特例との併用も可能ですので、本特例の適用を検討される際には一緒にご検討ください。相続時精算課税の特例と贈与税の非課税の制度とでは、適用要件などが異なる部分もありますので、しっかりとご確認ください。


5.ポイント

 相続時精算課税制度の主要なポイントとしましては、以下が挙げられます。
(1) 相続時精算課税制度における税金の精算は相続時に行われること
(2) いったん相続時精算課税制度を選択するとその贈与者からの贈与については暦年課税には戻せないこと
(3) 相続時に加算される財産の価額は贈与時の価額であること


6.おわりに
 以上が基本的な相続時精算課税制度の仕組みとなります。
 相続時精算課税制度の適用を受けた贈与財産がある場合には、相続税が課税されるかどうかの判定は、その贈与財産を含めて行うことになりますので、制度の選択の判断には相続税の試算が必要な場合もあります。また、特に相続時精算課税制度の特例を受ける場合においては、その適用の要件は複雑かつ多岐に及びます。したがいまして、制度の適用を検討される場合には専門家へ相談されることをお勧めします。


以上




(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン平成29年10月号執筆分