『平成30年度税制改正のポイント』


税理士 近藤 雅人

1. はじめに

 平成30年度税制改正関連法(所得税法等の一部を改正する等の法律)が成立しました。本稿では、今年度改正された主に不動産に関する税制の中から、
@ 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)の改正
A 登録免許税等の改正
について解説します。
 また、不動産税制ではありませんが、中小企業経営者の次世代経営者への引継ぎを支援する税制、いわゆる事業承継税制につき、今後10年に限っての特例措置が創設されましたので、この点についても併せて解説します。

U.
小規模宅地等の特例の見直し

1.制度の概要

 小規模宅地等の特例は、被相続人等の事業の用に供されていた宅地又は被相続人等の居住の用に供されていた宅地につき、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額するものです。

2.改正内容と改正理由

(1)貸付事業用宅地等の範囲の見直し

 現行制度では、貸付事業用宅地等に該当する宅地等であれば、200uまで課税価格の50%を減額することができました。そのため、相続の直前に宅地を購入しこれを貸付事業の用に供し、相続後に売却するといった、いわゆる相続税対策に利用されるケースも散見されました。
 今回の改正は、そのような制度の利用を防止するものです。ただし、制度の本来の趣旨から考えて、従前から事業的規模で不動産貸付業を営んでいた被相続人が直前に購入した土地については、この改正の対象から外されています。
改正前 改正後
相続開始の直前において、被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等。 相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等は、特例の対象から除外(相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている者の土地は除く)。


(2)持ち家に居住していない者の見直し

 現行制度では、持ち家に居住していない親族が被相続人等の居住の用に供されていた宅地等を相続した場合、その宅地の330uまで課税価格の80%を減額することができました。そのため、相続人等がもともと持っていた土地を相続前に売却し、この特例を受けるケースが見受けられました。今回の改正は、持ち家に居住していない者の範囲を見直すものです。

改正前 改正後
相続開始前3年以内に日本国内にある自己又は自己の配偶者が所有する家屋に居住したことがないこと。

現行の対象者から次に掲げる者を除外する。
@相続開始前3年以内に、その者の3親等内の親族又はその者と特別の関係のある法人が所有する日本国内にある家屋に居住したことがある者。
A相続開始時において居住の用に供していた家屋を過去に所有していたことがある者。


(3)居住の用に供されていた宅地等の範囲

 現行制度では、要介護認定又は要支援認定を受けていた被相続人が老人ホーム等へ入所したことにより被相続人の居住の用に供されなくなった宅地等についても、特例の対象とされていました。
 今般、長期にわたり療養が必要である要介護者に対し、療養上の管理、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活の世話を行うことを目的に、介護医療院の設立が認められることとなりました。そこで、この介護医療院に入所したことによって居住の用に供されなくなった宅地等についても、本特例の対象に含めることとされました。

3.適用時期

 上記3.(1)から(3)の改正は、平成30年4月1日以後に相続等により取得する財産に係る相続税について適用されます。なお、3.(1)の改正に関して、平成30年3月31日以前に貸付事業の用に供されていた土地についてはその適用が除外されますので注意してください。

V.登録免許税等の改正

1.登録免許税の改正

(1)所有者不明土地への対応

 平成28年度に行われた国の地籍調査によれば、不動産登記簿上で所有者の所在が確認できない土地は約20%あるとされています。国道を新設する公共事業において用地の取得に多大な時間を要している、空地へのゴミの不法投棄への対処が困難になっている等、所有者不明土地の存在は大きな社会問題となっています。
 そこで、登録免許税においても、この問題に対応することとされました。具体的には、不動産所有権移転登記が行われていない土地を相続した相続人が、平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に被相続人名義に所有権移転登記をする場合には登録免許税が免税となります。

(2)特定認定長期優良住宅等の軽減措置の延長

 平成30年3月31日まで、認定長期優良住宅、認定低炭素住宅の所有権保存登記に係る登録免許税は、本則0.40%のところ、0.10%に軽減されてきました。本年度の改正で、これらの措置が、平成32年3月31日まで延長されました。なお、いわゆる一般住宅の所有権保存登記に係る登録免許税についても、平成32年3月31日までは0.15%に軽減されています。

2.その他の改正

 まず、固定資産税に関し、新築住宅及び新築認定長期優良住宅に係る減額措置が、平成32年3月31日まで延長されました。
 次に、不動産取得税に関しては、

@ 宅地及び宅地比準土地を取得した場合に課税標準を1/2とする特例措置
A 住宅及び土地等を取得した場合に標準税率を3%とする特例措置
B 新築認定長期優良住宅に係る課税標準の1,300万円の特例措置

が、いずれも延長されました。延長の期間は、@及びAについては、平成33年3月31日まで、Bについては平成32年3月31日までとされています。本特例に限らず、いずれの特例措置にも期限があります。特例措置の適用を検討する場合には、必ず期限を確認してください。

W.事業承継税制の特例の創設
1.背景

 事業承継税制とは、中小企業等の株式等(「非上場株式等」といいます)を、先代経営者から贈与又は相続により後継者に承継させる際に、贈与税又は相続税の納税を猶予する制度です。事業承継税制は数次の改正を経て現在に至りますが、例えば納税が猶予される割合は本来納付すべき税額の約53%に留まること、その一方で承継後5年間平均80%以上の雇用確保要件を維持する必要があるなど、制度適用の入口の段階でハードルが高いこと等がネックとなり、なかなか適用件数は増加しませんでした。
 一方わが国の現状は、今後10年の間に70歳を超える中小企業者等の経営者は約245万人に達し、そのうちの約半数が後継者未定とのことで、この現状を放置すれば、中小企業者等の廃業が急増し、この10年間で650万人の雇用が失われ、経済損失は22兆円にも上るといわれています。
事業承継税制は、もはや中小企業経営者の単なる相続税対策ではなく、国を挙げての喫緊の課題となっているのです。
 そこで、今回これまでの事業承継税制の課題を抜本的に改正した特例措置が創設されることとなりました。喫緊の課題への対処であるため、新制度の適用には10年の期限が設けられています。国の事業承継への本気度が見て取れるといっても、過言ではないでしょう。

2.主な改正点

 以下に改正された要件等を列挙します。

(1)適用要件等の緩和

@ 対象株式数の上限を撤廃し全株式の適用を可能に
A 納税猶予割合は100%(つまり承継時の税負担は0)に
B 親族外を含む複数の株主から代表者である後継者への承継を対象に
C 代表権を有する複数の後継者(最大3人まで)への承継も可能に


(2)適用後のリスクの軽減

@ 承継後5年間で80%以上の雇用要件を未達成の場合でも猶予の継続が可能に(経営悪化等が理由の場合、認定支援機関の指導助言が必要)
A 会社を解散あるいは譲渡等した場合には、その時点の株式評価を基に税額を再計算し、承継時の株価を基に計算された納税額との差額を減免
B 親族外の後継者も相続時精算課税制度の対象に

3.適用時期等の留意点

 上記特例措置は、平成30年1月1日から平成39年12月31日までの間に、実際に相続又は贈与により承継を行う者が対象となります。また、この制度の適用には、特例承継計画を平成30年4月1日から平成35年3月31日までの間に、都道府県に提出しなければなりません。

X.おわりに
 ここまで、平成30年度税制改正から、特に重要と考えられる項目を解説してきました。 不動産に関する税制では解説したもの以外にも、農地等に係る納税猶予制度の見直し等が、不動産に関する税制以外にも、所得税における給与所得控除額・公的年金等控除額の引下げ、及びこれに伴う基礎控除額の引上げ(一部の者には引下げ)や、国際観光旅客課税の創設など、重要な改正があります。税制が改正されるには、その理由があります。それぞれの制度の適用を考えるときには、その要件だけなく、制度の趣旨を常に意識するようにしてください。

以上


(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン平成30年6月号執筆分