平成30年第3四半期(H30.7.1〜H30.10.1)
主要都市の高度利用地地価動向報告〜地価LOOKレポート〜の結果


不動産鑑定士 深澤 俊男

1.はじめに

 国土交通省は、平成30年11月16日に、平成30年第3四半期主要都市の高度利用地地価動向報告〜地価LOOKレポート〜の結果を公表しました。
 この主要都市の高度利用地地価動向報告(地価LOOKレポート)とは、主要都市の地価動向を先行的に表しやすい高度利用地等の地区について、四半期毎に地価動向を把握することにより先行的な地価動向を明らかにするもので、平成19年第4四半期から継続して公表されています。調査内容は、鑑定評価員(不動産鑑定士)が調査対象地区の不動産市場の動向に関する情報を収集するとともに、不動産鑑定評価に準じた方法によって地価動向を把握し、その結果を国土交通省において集約します。また、各地区の不動産関連企業、金融機関等の地元不動産関係者にヒアリングを行った結果が掲載されています。
 対象地区は、三大都市圏、地方中心都市等において特に地価動向を把握する必要性の高い地区となっており、平成26年第4四半期までは東京圏65地区、大阪圏39地区、名古屋圏14地区、地方中心都市等32地区の合計150地区でしたが、平成27年第1四半期からは東京圏43地区、大阪圏25地区、名古屋圏9地区、地方中心都市等23地区の合計100地区となりました。これを用途別に分けますと、高層住宅等により高度利用されている住宅系地区が32地区、店舗、事務所等が高度に集積している商業系地区が68地区設定されています。
 なお、従来から実施されている、地価公示や都道府県地価調査に比べ、その対象範囲は限定的で、対象地点は少ないですが、地価動向を先行的に表しやすい高度利用地等のみを抽出・選定し、また速報性を重視したもので、その内容や役割がやや異なっています(【表1】参照)。

【表1】地価公示・都道府県地価調査と地価LOOKレポートの制度比較表(一部)

※表をクリックすると拡大表示します。

2.全国の地価動向

 国土交通省HPによると、以下のようにまとめられています。
 平成30年第3四半期(7/1〜10/1)の主要都市・高度利用地100地区における地価動向は、上昇が96地区(前回95地区)、横ばいが4地区(前回5地区)、下落が0地区(前回0地区)となり、上昇地区数の割合は3期連続して9割を上回りました。
 上昇している地区数の割合が高水準を維持している主な要因としては、景気の回復、雇用・所得環境の改善、金融緩和等による良好な資金調達環境を背景に、三大都市圏を中心に空室率の低下・賃料の上昇等オフィス市況は好調な状況が続いていること、再開発事業の進展により繁華性が向上していること、訪日客の増加に応じて店舗、ホテルの建設需要が旺盛であること、利便性の高い地域等でのマンション需要が堅調であること等、オフィス、店舗、ホテル、マンション等に対する投資意欲が引き続き強いことが考えられます。
 このように、今回の地価動向は、上昇地区数が3期連続して全体の約9割を上回るなど、上昇基調の継続傾向が見られます(【表2】参照)。

【表2】全地区の上昇・横ばい・下落の地区数一覧表

※表をクリックすると拡大表示します。

3.圏域別・用途別の地価動向

 国土交通省HPによると、以下のようにまとめられています。
 まず、圏域別の地価動向については、三大都市圏(77地区)のうち東京圏(43地区)では上昇地区が41地区(前回39地区)、横ばい地区が2地区(前回4地区)、横ばいから上昇に転じた地区は3地区、上昇幅を拡大した地区は2地区、上昇幅を縮小した地区は1地区、上昇から横ばいとなった地区は1地区でした。また、大阪圏(25地区)では、平成30年度第1四半期から3期連続ですべての地区で上昇となり、名古屋圏(9地区)では、平成25年第2四半期から22期連続して、すべての地区で上昇を示しています。
 なお、大阪圏の上昇・横ばい・下落の地区数一覧を下記の【表3】に示しております。

【表3】大阪圏の上昇・横ばい・下落の地区数一覧表

※表をクリックすると拡大表示します。

 次に、用途別の地価動向については、住宅系地区(32地区)では、上昇地区が31地区(前回29地区)、横ばい地区が1地区(前回3地区)、横ばいから上昇に転じた地区は3地区で、上昇から横ばいとなった地区は1地区でした。また、商業系地区(68地区)では、上昇地区が65地区(前回66地区)、横ばい地区が3地区(前回2地区)で、上昇幅を拡大した地区は3地区、上昇幅を縮小した地区は1地区、上昇から横ばいになった地区は1地区でした。

4.大阪府内の地価動向

 大阪府内には平成30年第3四半期において、以下の13地区が設定されています。

 【表4】各地区の位置、利用状況等(13地区)

※表をクリックすると拡大表示します。

 これら大阪府内の13地区における最近の傾向は、平成30第1四半期において上昇地区が全13地区と上昇傾向が顕著にみられ、直近の平成30年第3四半期までその傾向が継続しています。(【表5】参照)。特に、直近期では、「心斎橋」地区、「なんば」地区及び「福島」地区については、他地区と比べ上昇の傾向が大きくなっています。

【表5】地区毎の総合評価(変動率)推移

※表をクリックすると拡大表示します。

 大阪府内の13地区における取引価格等の市況のトレンドを示したものが下記の【表6】です。ここでは、A.取引価格:対象地区の不動産(土地又は土地・建物の複合不動産の土地に相当する部分)の取引価格、B.取引利回り:対象地区の不動産(土地又は土地・建物の複合不動産)の取引に関する利回り(純収益を取引価格で除した値)、C.オフィス賃料:商業系地区におけるオフィス賃料、D.店舗賃料:商業系地区における店舗賃料、E.マンション分譲価格:住宅系地区における新築マンションの分譲価格、F.マンション賃料:住宅系地区における賃貸マンションの賃料の6項目がその対象です。
 A.取引価格は全ての地区で上昇傾向を、B.取引利回りは2地区を除いて低下傾向を示しています。次に、C.オフィス賃料については、3地区を除いた10地区が対象で、そのうち上昇が6地区、横ばいが4地区、D.店舗賃料についても対象は10地区で、そのうち横ばいが7地区、上昇が3地区で、オフィス賃料と店舗賃料の違いが表れています。一方、E.マンション分譲価格は対象3地区のうち2地区で上昇を、F.マンション賃料は対象の3地区全ての地区で横ばい傾向を示しています。

【表6】大阪府内における地価動向報告(H30.7.1〜H30.10.1)

※表をクリックすると拡大表示します。

5.その他の地価LOOKレポートの特長

 この主要都市の高度利用地地価動向報告(地価LOOKレポート)には、担当した不動産鑑定士のコメントが地価動向として追記されていることから、既存の公的評価とは異なり、取引現場の状況を反映した定性的な観点での動向が分かり易くなっていることが特長として挙げられます。なお、これらはインターネットで公開されており、不動産事業に関わる方々のみならず、広く一般の人々も閲覧可能です。また、限定された地区ではあるものの特に高度利用地に焦点を絞っていること、地価公示や地価調査等に比べて発表までの期間が短いこと、四半期毎という頻度で公表されることなどから、これまで以上に高度利用地に関しての地価動向をいち早く把握することが可能です。

(参考資料)
  国土交通省HP 土地水資源局 地価調査課 発表資料より

以上
 

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン平成31年1月号執筆分