賃貸収益物件の売買時の調査・確認義務について(判例解説)


弁護士 増 田 勝 洋

1 はじめに

 不動産の広告に記載されていることを信じて物件を購入したのに、当該広告に記載されていることが何らかの理由で実現できない場合、買主から売主のみならず仲介業者に対し不法行為に基づく損害賠償が請求されることがしばしばみられます。
 そこで、今回は、買主が、駐車場2台付きの賃貸収益物件であるとの広告を見て仲介業者の媒介により売主(宅建業者)から新築アパートを購入したところ、駐車場の一台分が窓先空地規制により賃貸できなかったことから、売主および仲介会社に対し、虚偽の広告により新築アパートを売ったとして、一部損害賠償を求めた事例(東京地裁平成30年7月11日判決 ウエストロー・ジャパン)をご紹介したいと思います。

2 事案の概要

(1)  売主Y1 (被告、宅建業者)は、新築アパート(本件土地建物)を建築し、本件土地建物を販売するに当たり、「駐車場1」・「駐車場2」 との記載や車を2台駐車している平面図を作成しました。販売広告には、想定賃料としてワンルーム4室合計で25万円、駐車場が2台合計で4万円余、バイク置き場が4台合計で6千円余との記載がありました。
 仲介会社Y2 (被告、宅建業者)は、Y1から販売広告と平面図を受領し、平面図を転載した上で、「希少駐車場2台分付き」などと記載した販売広告を作成し、平成27年12月、買主X(原告)に対し、本文に「駐車場2台付き」などと記載した物件を紹介するメールに添付して送信しました。
 Xは、同年同月、Y2の媒介により、Y1との間で、本件土地建物を5680万円で売買する契約を締結しました。
(2)  ところが、平成28年7月頃、Xが駐車場1について警察所に車庫証明の申請をしたところ、同年9月、現地確認した警察署の担当者から、東京都建築安全条例の窓先空地規制(※)により駐車場1には車庫証明の交付をすることができないとの回答を受けました。
 そこで、Xは、Y1には、駐車場1はいわゆる窓先空地として建築確認申請がされた場所であるにもかかわらず、「駐車場」であると記載した虚偽広告を作成して仲介業者に提供した行為について不法行為が成立し、Y2にも、仲介業者として、勧誘の前提となる広告の作成時に十分に調査する義務に違反した不法行為が成立するとして、Yらに対し、駐車場1の経済的価値409万円余、慰謝料200万円を求めて提訴しました。

※[参考:本件にかかわる窓先空地規制の概要]
 共同住宅における避難を容易にするために、1階住戸の窓に直面する敷地部分は幅員1.5mの空地を設けて避難経路とし、物を置いたり駐車場として使用することができない。


3 判決の要旨

   裁判所は、次の通り、XのYらに対する請求を一部認容しました。

(1) Y1の責任について
 裁判所は、本件土地建物は、Y1の販売広告にアパート4室の想定賃料の他に駐車場2台分及びバイク置場4台分の想定賃料や想定賃料の利回りが記載されていることからすると、賃料収入を得ることを目的として売買されたというべきであるとしました。
 そうすると、駐車場1にかかる内容は、物理的に車両を置くことができる広さの場所であることではなく、駐車場として賃貸することに法令上の制約がない場所であることと解するのが相当であり、(本件の広告は)誤認を生じさせるものであった。そして、Y 1の図面には駐車場1の付近に窓先空地との記載があったのであるから、Y1は、本件建物を設計・建築し、駐車場1が窓先空地又は避難経路であると認識し得た。それにもかかわらず、不正確な販売広告を作成してY2に提供し、Y2がそれを転載してXに本件土地建物の購入を勧誘していることからすると、XとY1との間には不法行為が成立するとしました。
 この点、Y1は、Xが窓の追加等をすれば窓先空地を設ける必要はなくなるので、駐車場1を駐車場として使用することに問題は生じないなどと主張していたようですが、裁判所は、Y1が販売広告を作成した時点で駐車場1は駐車場として使用できなかったのであり、また、現時点でも窓の追加等はされておらず、Y1の主張は採用できないと判断しています。
(2) Y2の責任について
   裁判所は、Y2が宅地建物取引業者であることに照らすと、本件土地建物にかかる法令上の制限について誤解を生じさせる広告をしないように注意義務があると解するべきであり、駐車場1を駐車場として使用できるか否かについて調査する義務があるとしました。
 そして、Y2はそれらについて調査することなく、漠然とY1から提供された販売広告を使用して広告を作成し、さらに駐車場2台分付きの点を強調しており、注意・調査義務違反としてY2の不法行為の成立は免れないとしました。
 この点、Y2は、Y1から受領した広告と平面図は建築士が設計していることから、図面に疑念を差し挟むべき事情はなかったなどと主張していましたが、裁判所は、建築士が設計したことをもって調査・確認義務を免除する理由とはならないと判断しています。
(3) 賃料相当額の損害について
   Yらが不法行為責任を負うとして、Xにはどのような損害が認められるでしょうか。
 この点、まず、Xは、Yらが広告に記載した各室、駐車場、バイク置場の想定賃料に基づき、売買代金に占める駐車場1の経済的価値を409万円余りと算出し、同額の経済的被害を被った旨の主張をしました。
 しかし、裁判所は、不動産の評価は収益のみではなく、周辺の取引事例等の要素も考慮して判断されることや駐車場1は敷地としての価値があることからすると、駐車場としての想定賃料から駐車場1の経済的価値を算出することはできない、またその他、駐車場1を駐車場として使用することができないことによりXが経済的損害を被ったと認めるに足りる的確な証拠はないとして、想定賃料に基づいて算出した損害を認めませんでした。
(4) 慰謝料について
   裁判所は、Xは、Yらが作成した各広告により、実際には2台分の駐車場収入を得ることができない物件であったのに、2台分の駐車場収入を得る可能性がある物件であることを前提に本件売買に関する意思決定をすることとなっており、正確な情報に基づき投資判断をする機会を失ったことについて精神的苦痛を被ったとし、また、仮に本件建物に窓を設置する工事をすることで駐車場1を駐車場として使用できる可能性があるとすると同工事費用を経済的損害とみることもできるなどとして、Xに慰謝料請求権を認めました。
 その金額については、本物件の売買代金、本件売買契約に至る経緯等の諸般の事情を考慮して60万円としています。


4 まとめ

(1)  本件では、宅建業者である売主が、窓先空地部分を駐車場として利用できないことを認識しあるいは認識しえたのに不注意で認識せず、不正確な広告を作成した行為について、不法行為として損害賠償請求の対象となるとされました。
 本件以外にも、収益物件ではありませんが、例えば、売主業者が「全戸南向き」と宣伝して未完成マンションを販売したが、実際には「全戸南向き」でないことが判明した件につき、不正確な表示・説明を行わないという信義則上の付随義務違反があったとして、買主の損害賠償請求が認められた事例(京都地裁 平成12年3月24日判決 判例タイムズ1098号184頁)などもあり、また近時、インターネット上のウェブサイトで簡単に不特定多数相手の広告が可能になったことも相まって、物件広告の内容の正確性については特に注意が必要となっています。
(2)  また、本件では、仲介業者が、売主から受領した図面についてその記載を鵜呑みにして十分な調査をせずにそのまま顧客に紹介した場合、それがたとえ宅建業者が売主となっている新築物件であったとしても、注意義務あるいは調査義務に違反するということで不法行為責任を認められました。
 売主のみならず、不動産仲介業者としても、必要な調査・確認をきちんと行うことがますます求められているところです。
 
以上
 

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン平成31年4月号執筆分