令和2年度税制改正のポイント(住宅・不動産関連税制について)


税理士 武智 寛幸


1.はじめに

 持続的な経済成長の実現、経済社会の構造変化への対応等の観点から、令和2年度の税制改正が行われました。
 今回は、令和2年度税制改正のうち、住宅・不動産関連税制の改正点を解説します。

2.土地住宅税制の改正

(1) 住宅の貸付けに関する消費税課税の見直し

 @ 改正内容
 住宅の貸付けに係る契約で、貸付けに係る用途が明らかにされていない場合において、その貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかなときは、その住宅の貸付けについては消費税が非課税とされました。

 A 適用開始時期
 この改正は、令和2年4月1日以後の貸付けについて適用されます。

(2) 居住用建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度の見直し

 @ 改正内容
 住宅の貸付けのための建物(居住用賃貸建物)の取得に係る仕入税額については、住宅家賃(非課税売上)に対応するものであり、本来仕入税額控除の対象となるべきものではありませんが、作為的な金の売買を継続して行う等の手法により、仕入税額控除を行うことで消費税の還付を受ける事例が散見されたため、仕入税額控除制度の適正化を図る観点から、居住用賃貸建物の取得等に係る仕入税額控除が認められないこととなりました。

 A 適用対象
 次のいずれの要件も満たす建物(居住用賃貸建物)

(イ) 住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物
(ロ) 高額特定資産又は調整対象自己建設高額資産に該当するもの
※ 高額特定資産とは税抜1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産をいいます。

 B 適用開始時期
 この改正は令和2年10月1日以後に行う居住用建物の取得等について適用されます。ただし、経過措置として令和2年3月31日までの契約に基づき取得した居住用賃貸建物については従来どおりの取扱いとなります。

(3) 居住用財産の譲渡の特例に関する改正

 @ 改正内容
 居住用財産を譲渡した場合の一定の特例と住宅ローン控除は重複して適用できない趣旨とされていましたが、一定の場合には両方の規定が適用できることとなっていたため、重複適用できないように改正されました。

 A 重複適用できない期間と特例
 住宅の取得等をした家屋(新規住宅)をその居住の用に供した日の属する年から3年目に該当する年中に他の資産の譲渡をした場合において、次に掲げる特例の適用を受けるときは、新規住宅については住宅ローン控除の適用を受けることはできません。

(イ) 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例
(ロ) 居住用財産の譲渡所得の特別控除
(ハ) 特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例
(ニ) 既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例

 B 適用開始時期
 この改正は、令和2 年4 月1 日以後に行う資産の譲渡について適用されます。

(4) 低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除制度の創設

 @ 改正内容
 土地の有効活用を通じた投資の促進、地域活性化、更なる所有者不明土地の発生の予防を図るため、個人が保有する低額の低未利用地を譲渡した場合の譲渡所得から100万円を控除する措置が設けられました。

 A 適用要件
 次に掲げる要件を全て満たす場合に適用されます。
(イ) 個人が譲渡した、都市計画区域内にある低未利用土地又はその低未利用
  土地の上に存する権利(低未利用土地等)であること
(ロ) 低未利用土地等であることについて市区町村長の確認がされていること
(ハ) 譲渡の年の1 月1 日において所有期間が5 年を超えるものであること
(ニ) 譲渡の対価の額が500万円を超えないこと
(ホ) 適用を受けようとする低未利用土地等と一筆であった土地から分筆され
  た土地等の譲渡につき、前年又は前々年に本特例の適用を受けていない
  こと
※ 低未利用土地とは、居住の用、業務の用その他の用途に供されておらず、
 又はその利用の程度がその周辺の地域における同一の用途若しくはこれに
 類する用途に供されている土地の利用の程度に比し著しく劣っていると
 認められる土地をいいます。

 B 適用開始時期
 この改正は、令和2 年7 月1 日から令和4 年12月31日までの間の譲渡について適用されます。

(5) 配偶者居住権等に関する取得費計算規定の創設

 @ 改正内容
 配偶者居住権等が設定されている物件を譲渡した場合や配偶者居住権等が消滅等したことにより対価を受ける場合の譲渡所得の計算上、取得費として控除する金額の計算規定が設けられました。
※ 配偶者居住権等とは、配偶者居住権及び配偶者敷地利用権(配偶者居住権の目的となっている建物の敷地の用に供される土地等を当該配偶者居住権に基づき使用する権利)をいいます。

 A 配偶者居住権等が消滅等した場合の取得費
 配偶者居住権等が消滅等したことにより対価の支払いを受けた場合における譲渡所得の計算上、取得費として控除する金額は次の算式により計算した金額となります。


※ 配偶者居住権等の価額及び居住建物等の価額については、いずれも配偶者居住権等の設定時の価額となります。

 B 配偶者居住権等が消滅等する前に居住建物等を譲渡した場合の取得費

 配偶者居住権等が消滅等する前に居住建物等を譲渡した場合の取得費配偶者居住権等の目的となっている居住建物等を譲渡した場合における譲渡所得の計算上、取得費として控除する金額は次の算式により計算した金額となります。

居住建物等を譲渡した時における取得費−Aの配偶者居住権等の取得費の額

※ 配偶者居住権等の取得費は居住建物等を譲渡した時に配偶者居住権等が消滅等するとした場合に計算した金額となります。

(6) 国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例の見直し

 @ 改正内容
 国外中古建物から生じる不動産所得を有する場合において、その年分の不動産所得の金額の計算上国外不動産所得の損失の金額があるときは、その国外不動産所得の損失に相当する金額は生じなかったものとみなすこととなりました。

 A 国外中古建物
 国外中古建物とは、個人において使用され、又は法人において事業の用に供された国外にある建物であって、個人が取得をしてこれをその個人の不動産所得を生ずべき業務の用に供したもののうち、その不動産所得の金額の計算上その建物の償却費として必要経費に算入する金額を計算する際の耐用年数を次のいずれかの方法により算定しているものをいいます。

(イ) 建物をその用に供した時以後の使用可能期間の年数とする方法。ただし、一定の書類により、その使用可能期間が適当であることの確認ができる建物は除かれます。
(ロ) 法定耐用年数の全部を経過した資産につき、法定耐用年数の20%に相当する年数とする方法。
(ハ) 法定耐用年数の一部を経過した資産につき、法定耐用年数から経過年数を控除した年数に、経過年数の20%に相当する年数を加算した年数とする方法。

 B 国外不動産所得の損失の金額
 不動産所得の金額の計算上、国外中古建物の貸付けによる損失の金額(他の国外不動産等の貸付けによる不動産所得の金額がある場合には、その損失の金額を他の国外不動産等の貸付けによる不動産所得の金額の計算上控除してもなお控除しきれない金額)のうち国外中古建物の償却費の額に相当する部分の金額(国外中古建物の貸付けによる損失の金額が上限となります。)をいいます。

 C 国外中古建物を譲渡した場合
 この規定の適用を受けた国外中古建物を譲渡した場合には、その譲渡所得の金額の計算上、その取得費から控除することとなる償却費の額の累計額については、この規定により生じなかったものとみなされた損失の金額に相当する金額の合計額を控除します。

 D 適用開始時期
 この改正は、令和3年以後の各年において適用されます。

(7) 農地等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度の拡大

 @ 改正内容
 特例適用農地等の範囲に、三大都市圏の特定市の市街化区域内に所在する農地で、地区計画農地保全条例による制限を受ける一定の地区計画の区域内にあるものが追加されました。

 A 適用開始時期
 この改正は、都市再生特別措置法等の一部を改正する法律の施行の日以後に適用される予定です。

(8) 所有者不明土地等についての固定資産税の特例の創設

 @ 使用者への課税制度の創設
 市町村は、相当な努力が払われたと認められる方法により探索を行ってもなお固定資産の所有者の存在が不明である場合には、あらかじめ通知した上、その使用者を所有者とみなして、固定資産課税台帳に登録し、その者に固定資産税を課することができる制度が設けられました。
 なお、この規定は令和3 年分以後の固定資産税に適用されます。

 A 相続登記がされていない場合における申告制度の創設
 市町村長は、その市町村内の土地又は家屋について、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録がされている個人が死亡している場合における当該土地又は家屋を所有している者(以下「現所有者」という。)に、当該市町村の条例で定めるところにより、現所有者であることを知った日の翌日から三月を経過した日以後の日までに、当該現所有者の住所及び氏名又は名称その他固定資産税の賦課徴収に関し必要な事項を申告させることができる制度が設けられました。
 なお、この制度は令和2 年4 月1 日以後の条例の施行日以後に現所有者であることを知った者に適用されます。

(9) 次に掲げる特例の適用期限が2年延長されました。

 @ 居住用財産の特例
 (イ) 特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例
 (ロ) 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
 (ハ) 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除

 A 印紙税の税率
 不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の税率の特例措置

3.おわりに

 以上が令和2 年度税制改正のうち、主な項目の概要と改正点となります。
 税制の適用にあたっては、適用要件・適用開始時期・適用期日等を法令でご確認いただき、誤った適用が無いようにご注意ください。



以上

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン令和2年7月号執筆分