「改正民法後の法定更新と連帯保証契約について(賃貸借契約関係)」


弁護士 住原 秀一


1 問題の所在

 令和2年4月1日に改正民法(債権関係の改正)が施行され、賃貸借契約について連帯保証人を付ける場合、「極度額」という連帯保証人の責任の上限額を定めなければならないことになりました(改正民法465条の2)。つまり、「極度額」の定めがなければ、連帯保証は無効になります。しかしながら、改正前に締結した契約については、改正民法の経過規定により、改正前の民法が適用されるため、令和2年4月1日以降も「極度額」の定めがなくても連帯保証は従前どおり有効とされています。
 しかし、「極度額」が定められていない場合、改正民法の施行後、更新前は従前どおり連帯保証が有効だとしても、賃貸借契約が更新された場合には連帯保証が無効になるのではないかということが議論されていました。この点について判断した裁判例が出されましたので、御紹介します。


2 東京地裁令和3年4月23日判決(ウエストロージャパン登載)

(1) 事案の概要

 平成28年10月23日、賃貸人Xは、賃借人Y1との間で住宅賃貸借契約を締結し、Y1の父親Y2が連帯保証人になった。平成30年11月4日、賃貸借契約は合意更新され、契約期間は平成30年11月13日から2年間とされた。
 その後、Y1は賃料を支払わなかったため、Y2が連帯保証人としてY1の不払分を支払ったが、その後もY1は4か月分の賃料を支払わなかった。Xが依頼する管理会社がY2に対してY1の不払分を支払うよう催告したが、Y2はこれを支払わなかった。
 令和2年10月15日、Y1は、Xが依頼する管理会社に対し、1か月後の11月15日に退去するとの連絡をしたが、動産類を残置したまま連絡が取れなくなった。
 なお、賃貸借契約は、上記合意更新で定められた期間が経過したことにより、令和2年11月13日、法定更新された。
 Xは、訴訟を提起し、Y1に対してはY1からの退去連絡(解約申入れ)又は賃料不払による解除により賃貸借契約は終了したとして、建物の明渡しと未払賃料の支払を求め、併せてY2に対しては連帯保証人として未払賃料を支払うよう求めた。
 これに対し、Y2は、本契約の法定更新において極度額が定められなかったことにより、法定更新後は連帯保証契約が無効になり、令和2年11月13日以降に発生するY1の債務について責任を負わないと主張した。

(2) 判決の要旨

 裁判所は、Xの請求を全て認容した。Y2の主張に対して、裁判所は、次のように判示している。
 XとY2との間の連帯保証契約は、改正民法の施行日(令和2年4月1日)よりも前に締結されたものであり、その後、賃貸借契約の更新に併せて保証契約が更新されることもなかったから、改正民法の適用はなく(平成29年法律第44号附則21条1項)、また、反対の趣旨を窺わせるような特段の事情もない。したがって、法定更新後(令和2年11月13日以降)に発生するY1の債務について責任を負わないとするY2の主張は採用することができない。

3 解説

 改正民法について筒井健夫(法務省大臣官房審議官)・村松秀樹(法務省民事局民事第二課長)編著『一問一答 民法(債権関係)改正』(2018年、初版、商事法務)という書籍が発行されています。立法担当者が発行した書籍です。この書籍では、改正前に締結された保証契約について、次のように述べられています。
 「賃貸借契約に付随して保証契約が締結されていることがあるが、保証に関する規定(新法446条以下)の改正については、保証契約の締結時を基準として新法が適用されるか否かが定まることになる。一般に、……賃貸借契約の更新時に新たな保証契約が締結されるものではない。そうすると、賃貸借契約が新法の施行日以後に合意更新されたとしても、このような保証については、新法の施行日以後に新たに契約が締結されたものではないから、保証に関する旧法の規定が適用されることになる。」(同書384頁)
 今回紹介した裁判例は、立法担当者の見解と同じものであり、目新しいものではありません。しかし、立法担当者の見解には特に法的拘束力もありませんので、立法担当者の見解を裁判官も採用したという点で、重要な裁判例であるといえます。
 立法担当者の見解や今回紹介した裁判例で示されたところをまとめると、次のとおりとなります。

@ 令和2年3月31日までに連帯保証人となった人については、極度額の定めがなくても連帯保証は有効である。これは、賃貸借契約が合意更新されたり法定更新されたりしても変わらない。
A しかし、連帯保証契約を新たに締結したとみられる場合は、極度額の定めを設けておかなければ、連帯保証は無効になる。

 特にAに注意してください。賃借人との間で更新の合意書などを作成する際に、念のため連帯保証人にも署名押印してもらうと、その時点で新たな連帯保証契約を締結したとみられてしまう場合があります。この場合、その新たな連帯保証契約については改正民法が適用されてしまうので、極度額の定めがなければ、連帯保証は無効になってしまいます。
 令和2年3月31日までに契約した賃貸借契約に関連して、賃借人と何らかの合意書を作成する際には、連帯保証人に署名をもらうのが適当かどうかをよく検討し、賃貸人のみに署名押印してもらうという対応を取った方が良いという場合がありますので、注意してください。

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン令和4年11月号執筆分