令和5年路線価の概要について


不動産鑑定士  深澤 俊男


1.はじめに

 国税庁は、令和5年7月3日に、令和5年分の路線価を公表しました。
 相続税や贈与税において土地等の価額は、時価により評価することとされています。しかし、納税者が相続税等の申告に当たり、土地等についてご自分で時価を把握することは必ずしも容易ではありません。そこで、相続税等の申告の便宜及び課税の公平を図る観点から、国税局(所)では毎年、全国の民有地について、土地等の評価額の基準となる路線価及び評価倍率(以下「路線価等」といいます。)を定めて公開しています。

2.路線価の概要と特徴

 この路線価の各地区詳細等は、国税庁ホームページで直近 7 年分を閲覧することができます(国税庁の路線価閲覧ページ:http://www.rosenka.nta.go.jp/)。路線価図には1 平方メートルあたりの単価が千円単位で表示されています。よって「300」であればその場所の単価が30万円/uということになります。
 路線価は、全国の民有地の宅地、田、畑、山林等を対象として定めています。
 なお、路線価等の評価における宅地とは、住宅地、商業地、工業地等の用途にかかわらず、建物の敷地となる土地をいいます。
 路線価は、評価の対象となる時点を1月1日とし、1年間の地価変動などを考慮し、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定めています。
 路線価が定められている地域にある土地についてはA.路線価方式により評価し、その他の地域にある土地についてはB.倍率方式により評価します。

A.路線価方式による評価
 路線価方式では、評価対象地が接する路線の路線価に、必要な画地調整率(評価対象地の形状等(奥行距離、不整形の度合い、角地など)に基づき、価額を補正する率)及び地積を乗じて評価額を算出します。路線価は、土地の価額がおおむね同一と認められる一連の土地が面している路線ごとに評価した1平方メートル当たりの価額です。

B.倍率方式による評価
 倍率方式では、固定資産税評価額に地価事情の類似する地域ごとに定めた評価倍率を乗じて評価額を算出します。


3.路線価とその他の公的評価との比較

 国や自治体などが公表する地価には、この路線価の他に、国土交通省による地価公示、都道府県による地価調査などがあり、その目的や内容、役割はやや異なります。
 なお、路線価の算定に当たっては地価公示価格を主要な指標とする等、それぞれが密接な関わりを持っています。(【表1】参照)。

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 地価公示、地価調査は、個別の敷地そのものについての価格を算出する反面、路線価は路線(道路)に対して価格が決められています。つまり、その路線に面する宅地の価格は同一という考え方を基準とし、個々の敷地における価格はその規模や形状などに応じて補正をします。都市部の市街地では、ほぼすべての路線に対して価格が付けられるため、その基礎となる調査地点の数は全国で約32万地点に及びます。ちなみに、その調査地点は標準宅地と呼ばれています。

4.路線価からみる全国の動向

 新聞各紙発表によると、全国約32万地点の標準宅地の評価額の対前年変動率は、全国平均でプラス1.5%となり、2年連続で上昇しました。コロナ禍からの回復傾向が継続しています(【表2】参照、以下同)。
 都道府県別での平均変動率は、前年より5自治体多い25都道府県での上昇で、中でも北海道、宮城県、東京都、福岡県、沖縄県などの上昇傾向が目立ちました。同じく、下落は前年より7県少ない20県で、四国は前年同様、全4県でマイナスでした。

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 一方、全国の最高路線価は1986年から38年連続で、東京都中央区銀座5丁目の銀座中央通りで4,272万円/uでした(【表3】参照、以下同)。ちなみに、前年から1.1%上回り、3年ぶりの上昇です。
 都道府県別の最高路線価をみると、都道府県庁所在地の最高路線価については、前年に比べて上昇したのは29都市で、前々年から比べて約2倍に増えました。中でも、前年はマイナス5.8%だった神戸市は今回プラス2.0%になり、それ以外にもマイナスからプラスへ転じた都市として、東京23区、金沢市、大阪市、奈良市、高松市、鹿児島市、沖縄市がみられました。
 対して、マイナスは前年より12県少ない4県に留まりました。

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5.路線価からみる大阪府内の動向

 新聞各紙発表によると、大阪府内の平均変動率はプラス1.4%となり、2年連続で上昇しました。
 以下は、大阪府内31税務署内最高路線価一覧表です(【表4】参照、以下同)。
 昨年は下落が8地点ありましたが、本年は下落した地点はなく、27地点が上昇、4地点が横ばいでした。同27地点のうち7地点は、前年からの上昇率が5%を超えるなど回復傾向が顕著となりました。
 大阪府の最高路線価は、大阪市北区の角田町(御堂筋)の1,920万円で、前年から1.3%プラスでした。それに続くのが、同中央区の心斎橋筋2(心斎橋筋)の1,416万円で、前年から横ばいでした。同市内の上昇率で目立つのが港区の10.0%です。これらは2025年大阪・関西万博開催やカジノを含む統合型リゾート(IR)開業を控え、ベイエリアの玄関口としての成長期待を主としたものとみられます。
 大阪市以外の府下での最高路線価の対前年変動率は、枚方市の6.0%、茨木市の4.9%、堺市の4.8%、吹田市の3.4%などが上昇率上位を占めます。このうち枚方市は駅前再開発への期待など、他都市は大阪市内への利便性が高く、駅近のマンション取引が堅調なことなどが要因だと考えられます。

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6.路線価利用にあたっての留意事項と付加情報

 今回の路線価は価格時点が令和5年1月1日であることに注意する必要があります。その時点では新型コロナの感染症法上の分類が5類に移行する前であり、まだ先行きがやや不透明な中での評価を前提としています。ただし、当時は訪日外国人客の増加現象が見られつつあり、さらなる増加が期待されたこともあって上昇地点が広がったのではないかと感じられます。
 また、一般の方々から、コロナ禍3年間は地価下落が著しいのではないかという感想を聞くことが多いですが、やや中長期的な視点でみると、地価動向は違った印象を受けます。
 アークス不動産コンサルティング社の調査(全国主要都市の地価トレンド調査〜最高路線価15年史〜)で、全国8大都市の最高路線価について、2008年のリーマンショック直前から2023年にわたる15年間の推移をみたものがあります。
 同調査によると、2008年から2011年の3年間の路線価動向については、8大都市全てが大きく下落しています。リーマンショックは全国的で大きなインパクトを与えたことがわかります。一方、2020年から2023年の直近3年間の路線価動向について、東京、大阪以外の6都市(札幌、仙台、横浜、名古屋、広島、福岡)は上昇しており、コロナ禍といえどもその影響の度合いは地域やエリアにより異なります。あわせて、この15年間での2大災厄の違いが浮き彫りになっています。
 もちろん、これだけで全てを説明できるわけではありませんが、地価動向をウォッチする際の参考になるのではないかと思います。

(参考資料)
  国税庁 大阪国税局 発表資料
  各新聞発表等
  株式会社アークス不動産コンサルティングHP

以上

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン令和5年8月号執筆分