平成24年地価公示結果について(大阪府内の動向を中心として)

不動産鑑定士  北井 孝彦


1.はじめに

 国土交通省は平成24年の地価公示結果(価格時点1月1日)を、去る3月22日に公表しました。
 ご承知のとおり地価公示価格は国土交通省土地鑑定委員会が委嘱した評価員である全国の不動産鑑定士の鑑定結果を基に公表する毎年1月1日時点の土地の価格です。この制度は都道府県が実施している地価調査(価格時点:7月1日)とあいまって、土地取引等に対して指標を与えるとともに公共事業の用に供する土地に対する補償金額の算定等に資すること等により、適正な地価の形成に寄与することを目的としています。
 また、この地価公示価格と都道府県地価調査価格は相続税や贈与税の算定基準として国税庁が7月に発表する「路線価」や市町村が課税主体である「固定資産税の評価」を定めるための評価作業の主要な指標となっています。
 平成24年度地価公示における調査地点は全国で26,000地点、大阪府内では1,722地点でした。但し、うち原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)により設定された警戒区域内の17地点については調査が休止されました。


2.全国的な動向

 全国の平均変動率をみると、住宅地が対前年比マイナス2.3%(平成23年はマイナス2.7%)、商業地が同マイナス3.1%(平成23年はマイナス3.8%)と4年連続で下落しましたが、下落幅は2年連続で縮小した結果となっています。

 国土交通省地価調査課は今回の特徴を次のとおり整理しています。


【概括】
 平成20年秋のリーマンショック後における4年連続の下落となったが、下落率は縮小傾向を示した。半年毎の地価動向を都道府県地価調査(7月1日の地価を調査)との共通の調査地点でみると、東日本大震災のあった23年前半(1〜6月)に下落率が拡大し、23年後半(7〜12月)に下落率が縮小した。また、東日本大震災の影響により、不動産市場は一時的に停滞したが、被災地を除き、比較的早期に回復傾向を示している。

【住宅地】

 低金利や住宅ローン減税等の施策による住宅需要の下支えもあって下落率は縮小した。特に人口の増加した地域で下落率の小さい傾向が見られ、一方、住環境良好あるいは交通利便性の高い地点で地価の回復が目立った。

 圏域別にみると、

東京圏は、年前半は他の圏域に比べ下落率が拡大したが、年後半は他の圏域を上回る回復を示した。

大阪圏は、年前半、後半を通じて下落率が縮小しており、上昇地点は兵庫県を中心として増加した。

名古屋圏は、年前半に下落率が拡大したが、年後半は圏域として横ばいとなった。


【商業地】

 前年より下落率が縮小したが、オフィス系は高い空室率・賃料下落、店舗系は商況の不振から、商業地への需要は弱いものとなっている。その中にあって、主要都市の中心部において、賃料調整(値下げ)が進んだこともあって、BCP(事業継続計画)やコスト削減等の目的で耐震性に優れる新築・大規模オフィスへ業務機能を集約させる動きが見られ、これら地点の年後半の地価は下げ止まっている。また、三大都市圏と一部の地方圏においては、J-REITによる積極的な不動産取得が見られた。その他、堅調な住宅需要を背景に商業地をマンション用地として利用する動きが全国的に見られた。

圏域別にみると、

東京圏は、年前半に他の圏域に比べ下落率が拡大したが、年後半は他の圏域を上回る回復を示した。

大阪圏は、年前半、後半を通じて下落率が縮小した。

名古屋圏は、年前半に下落率が僅かに拡大したが、年後半は圏域としてほぼ横ばいとなった。

【東日本大震災の被災地】

 地価公示は、多数の土地取引が行われる地域において価格の指標を与えること等を目的として実施されるものであるので、津波により甚大な被害を受けた地域や原子力災害対策特別措置法により設定された警戒区域等に存する標準地については、調査地点の変更(選定替)あるいは調査を休止した(休止は警戒区域内の17地点)。

 被災地における土地への需要は被災の程度により差が見られ、特に宮城県では浸水を免れた高台の住宅地等に対する移転需要が高まり地価の上昇地点が見られた。岩手県は前年と同程度の下落率を示し、福島県は前年より大きな下落率を示している。


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3.大阪府内の動向

 大阪府内の変動率を見ると住宅地がマイナス1.5%(平成23年マイナス2.6%)、商業地が同マイナス2.1%(平成23年マイナス4.6%)とやはり住宅地・商業地ともに4年連続で下落しているが、全国平均と同様下落幅は縮小しました。
 前々年はすべての調査地点で下落していましたが、今回は、横ばい地点が住宅地91地点(昨年29地点)、商業地24地点(昨年1地点)、また、上昇地点が住宅地16地点(昨年0地点)、商業地14地点(昨年0地点)あり、府内でもやや明るい兆しも見えてきています。

 住宅地で市町村別にみると、大阪市内は福島区内などでは割安感のある立地で大阪駅に至便な立地であることや、阿倍野区内などでは、住宅需要が堅調で、上昇・横ばいの結果となった地点もあります。北摂エリアでは、駅からの接近性が良好である地域などで上昇地点・横ばい地点が多く出ています。
 商業地で市区町村別にみると、全34市町村のうち、大東市を除く全ての市町村において下落率が縮小しています。大東市は既存商業地の衰退化傾向が続いており、前年並みの下落率を示しています。




 大阪府の標準地価格・対前年変動率上位1位・対前年下落率上位1位

(1)

価格1位
住宅地:天王寺−2   大阪市天王寺区真法院町 54 万円/u
商業地:大阪北5−29 大阪市北区梅田1丁目  740万円/u

(2)

対前年変動率上位1位
住宅地:天王寺−2
  大阪市天王寺区真法院町   1.9%
商業地:阿倍野5−4
  大阪市阿倍野区旭町1丁目  3.0%

(3)

対前年下落率上位1位 
住宅地:富田林−10 富田林市東板持町3丁目  −6.9%
商業地:大阪中央5−36 大阪市中央区難波3 丁目 −11.9%


4.大阪府内のトピックス(特徴的なこと)

 前記のとおり住宅地で価格が最も高かったのは54万円/uの大阪市天王寺区真法院町で、府内では11年連続最高価格地を保っています。変動率は昨年のマイナス2.8%から転じてプラス1.9%となっています。
 一方、下落率が最も大きかったのは、富田林市東板持町3丁目のマイナス6.9%でした。最寄り駅から遠いことに加え急傾斜地の開発団地で、人口高齢化により需要減少が強まったことに起因すると考えられます。

 大阪市の商業地の平均変動率は、前年(△5.9%)より△2.4%と下落率は緩和しました。大半の区域においてマイナスの変動率を示す結果となりましたが、あべのマーケットパークキューズモールが盛況な阿倍野区は上昇に転じています。
 長期にわたり低稼働状況にあった新築大型ビルも本年に入り、テナント入居率が改善してきており、優良ビル賃料に底値感が出てきています。
 また中小ビルも相変わらず厳しい状況が続いているものの、昨年と比較すると徐々に賃料や稼働率に関して改善がみられています。このような点を反映して、業務商業地については大きな下落が続いているものの下落率については緩和傾向を示し始めています。またマンション用地への用途転換が進む地域については、デベロッパーの取得水準が底値となって、福島区・西区・北区・中央区では地価の底打ちもしくは反転が見られる地点も出てきています。

 JR大阪ステーションシティ(JR三越伊勢丹、ルクア、大丸梅田)、あべのマーケットパークキューズモール等の大型商業施設が今春オープンし、JR三越伊勢丹以外はいずれも好調な滑り出しを見せています。
 なおJR大阪ステーションシティについては、建設工事が進む北ヤード開発、阪急百貨店の建替えもあり、店舗間競合が激化していくことが予想されます。





(参考資料)
・国土交通省 土地水資源局 地価調査課 発表資料
・大阪府地価だより 平成24年3月22日発行 第74号