平成26年地価公示結果について(大阪府内の動向を中心として)



不動産鑑定士  横井 敬史

 
1. はじめに

 国土交通省は平成26年の地価公示結果(価格時点1月1日)を、去る3月18日に公表しました。
 ご承知のとおり地価公示価格は国土交通省土地鑑定委員会が委嘱した評価員である全国の不動産鑑定士の鑑定結果を基に公表する毎年1月1日時点の土地の価格です。この制度は都道府県が実施している地価調査(価格時点:7月1日)とあいまって、土地取引等に対して指標を与えるとともに公共事業の用に供する土地に対する補償金額の算定等に資すること等により、適正な地価の形成に寄与することを目的としています。
 また、この地価公示価格と都道府県地価調査価格は相続税や贈与税の算定基準として国税庁が7月に発表する「路線価」や市町村が課税主体である「固定資産税の評価」を定めるための評価作業の主要な指標となっています。
 平成26年度地価公示における調査地点は全国で23,380地点、大阪府内では1,466地点でした。うち東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示区域内の17地点については引き続き調査が休止されました。


2. 全国的な動向

 全国の平均変動率をみると、住宅地がマイナス0.6%(平成25年はマイナス1.6%)、商業地がマイナス0.5%(平成25年はマイナス2.1%)、工業地がマイナス1.1%(平成25年はマイナス2.2%)となっており、依然として下落をしているものの下落率は縮小傾向を継続しています。上昇地点数の割合は全国的に大幅に増加しました。
 特に三大都市圏では、住宅地の約1/2の地点が上昇、商業地の約2/3の地点が上昇。一方、地方圏では住宅地、商業地ともに約3/4の地点が下落しています。
 国土交通省地価調査課は今回の特徴を次のとおり整理しています。


【住宅地】
 低金利や住宅ローン減税等の施策による住宅需要の下支えや景況感の改善による住宅需要拡大等もあって、都道府県全てで下落率縮小や上昇への転換等が継続して見られる。特に利便性、住環境等に優る住宅地では上昇基調が顕著となった。
 圏域別にみると、
東京圏は、上昇地点の割合が大幅に増加し、半数以上の地点が上昇となった。特に埼玉県、東京都、神奈川県は下落から上昇に転じた。
なお、半年毎の地価動向をみると同率の上昇となった。
大阪圏は、上昇地点の割合が増加し、3割弱の地点が上昇となった。
特に京都市、大阪市、北摂エリア及び阪神間を中心に上昇基調となっている。なお、半年毎の地価動向をみると後半上昇が強まった。
名古屋圏は、上昇地点の割合が大幅に増加し、半数以上の地点が上昇となった。愛知県は昨年に引き続き上昇となり、特に名古屋市及びその周辺部である尾張地域、西三河地域の多くで上昇基調となっている。なお、半年毎の地価動向をみると同率の上昇となった。

【商業地】
 低金利、景況感の改善を背景に都道府県全てで下落率縮小や上昇への転換等が継続して見られる。また、堅調な住宅需要を背景に商業地をマンション用地として利用する動きが全国的に見られ、上昇又は下落率縮小となった要因の一つとなっている。
 三大都市圏を中心に上昇となった都府県が見られるが、主要都市の中心部などでは、店舗について消費動向が回復し、また、オフィスについても空室率は概ね改善傾向が続き投資用不動産等への需要が回復している。更にBCP(事業継続計画)等の観点から耐震性に優れる新築・大規模オフィスへの動きが見られるなど、高度商業地や再開発等の進む地域で上昇基調が強まっている。
 圏域別にみると、
東京圏は、上昇地点の割合が大幅に増加し、約3/4の地点が上昇となった。特に埼玉県、千葉県、東京都は下落から上昇に転じ、神奈川県は昨年に引き続き上昇となった。なお、半年毎の地価動向をみると後半上昇が強まった。
大阪圏は、半年毎の地価動向を見ると後半はほぼ横ばいとなり、この1年間では各府県で上昇地点が増加し、特に大阪府大阪市を中心として上昇地点が増加した。
名古屋圏は、半年毎の地価動向を見ると後半はほぼ横ばいとなり、この1年間では愛知県名古屋市を中心として上昇地点が増加した。

【東日本大震災の被災地】
 被災3県を県ごとに捉えると、岩手県は、上昇地点の割合が増加し、下落率が縮小した。宮城県は、上昇地点の割合が増加し、住宅地で8割弱、商業地は6割強となった。福島県は、上昇、横ばい地点の割合が大幅に増加し、住宅地では下落から上昇に転じ、商業地は下落率が大幅に縮小した。
 岩手県及び宮城県では、浸水を免れた高台等の地区において、引き続き、被災住民の移転需要や復旧事業関係者の土地需要で上昇地点の増加が見られた。また、海岸部でも浸水が軽微だった地区については、復旧事業等の進展により需要が回復し、上昇及び横這いの地点の増加が見られた。
 福島県では、帰還困難区域等の住民による同区域外への移転需要等の高まり等により、周辺地域の住宅地等を中心に上昇地点が増加し、同区域等周辺市町村では上昇に転じたところも見られた。

(※)画像をクリックすると拡大表示します。
3.
大阪府内の動向
 大阪府内の変動率を見ると住宅地がマイナス0.2%(平成25年マイナ
ス0.9%)で下落幅は4年連続で縮小し、商業地は平成21年以降5年連続でマイナスであったがプラス1.9%(平成25年マイナス0.5%)の上昇に転じました。また、商業地では上昇地点が半数を超えました。
個別の地点において、上昇地点が前回の114地点より大幅に増加し393
地点に、横ばい地点が前回の355地点より増加し394地点となりました。
 住宅地で市区町村別にみると、上昇率上位が、大阪市中央区2.9%、大阪市北区2.1%、大阪市天王寺区2.0%、大阪市浪速区1.8%、大阪市阿倍野区1.7%となっています。
 他方、千早赤阪村マイナス 3.8%、能勢町マイナス2.1%、豊能町マイナス 2.0%と、やや大きな下落となっています。総じて住環境が良いところや利便性の良い地域では、上昇しています。
 商業地で市区町村別にみると、上昇率上位が、大阪市西区・天王寺区6.0%、大阪市北区5.4%、大阪市福島区・中央区5.2%となっています。
 他方、下落率上位は、大阪市此花区マイナス1.4%、大阪市西成区マイナス1.3%、大阪市住之江区マイナス1.1%となっています。
 総じて都心部を中心に、利便性に優れマンション用地の需要がある地域で、地価が上昇しています。


(※)画像をクリックすると拡大します。


○大阪府の標準地の価格
  ・対前年変動率上位1位・対前年下落率上位1位


(1)価格1位
  住宅地:

商業地:
天王寺−2 
大阪市天王寺区真法院町      55万円/u
大阪北5−28
大阪市北区大深町         915万円/u
(2)対前年変動率上位1位
  住宅地:

商業地:
天王寺−6
大阪市天王寺区上汐4丁目       9.1%
福島5−3
大阪市福島区福島6丁目        11.1%
(3)対前年下落率上位1位
  住宅地:

商業地:
千早赤阪−1 
千早赤阪村大字小吹         △3.8%
西成5−3 
大阪市西成区萩之茶屋2丁目     △2.9%


4. 大阪府内のトピックス(特徴的なこと)

 前記のとおり住宅地で価格が最も高かったのは55万円/uの大阪市天王寺区真法院町で、府内では13年連続最高価格地を保っています。変動率はプラス0.7%となっています。
 一方、下落率が最も大きかったのは、千早赤阪村大字小吹のマイナス3.8%でした。最寄り駅から遠いことに加え居住者の高齢化、転出が進んだことに起因すると考えられます。
 府下全域を俯瞰すると、「利便性に優れる徒歩圏内の住宅地」で上昇地点が増加する一方で、「利便性に劣る徒歩圏外の住宅地」で引き続き下落傾向が続いており、住宅地の二極化傾向が見られています。

 大阪市の商業地の平均変動率は、前年(△2.4%)からプラス3.6%と上昇に転じました。
 オフィス市場では、市内全般に渡って空室率の改善傾向が見られていますが、空室率は依然として高い状況にあり、賃料の本格的な上昇には至っていません。
 従って、大阪市中心商業地においても依然としてマンションが増加傾向にあります。大阪市内の幹線道路沿いや駅近くのマンション適地では、大手マンション開発業者を中心とした旺盛な需要により、地価は顕著な上昇傾向を示しました。
 ただし、建設資材・労務費等の上昇により、建築費が上昇傾向にある一方、需要者の所得環境の改善は遅れていることから販売価格の大幅な上昇は見込めないため、販売価格への転嫁の可否により物件の選別化が顕著となってきています。よって、今後は土地取得に関してやや慎重な動きが出てくる事も思料されます。
 梅田地区ではH25年4月にグランフロント大阪が開業しました。開業時はグランフロント大阪のオフィス稼働率がわずか2割程度でしたが、現在は5割程度となり、改善傾向にあります。グランフロントの店舗業績は好調であり、梅田周辺地区の店舗間競合が今後も激化していくことが予想されます。
 また、あべの地区では「あべのハルカス」がH26年3月に全面開業しました。「あべのハルカス」は、国内最大級の売り場面積となる近鉄百貨店や大阪マリオット都ホテル、オフィスのほか美術館、大学病院の健診施設等が入居する高さ300m・地上60階建の複合商業施設であり、オフィス部分の入居は90%程度です。近隣に存する大型商業施設「あべのキューズモール」は、開業後2年を経過した現在も来館者数及び売上高等の好調さを維持しており、これらの影響で天王寺・あべの地区は活気を帯びた状況が続いています。


 
(※)画像をクリックすると拡大します。


  (参考資料)
・国土交通省 土地水資源局 地価調査課 発表資料
・大阪府地価だより 平成26年3月18日発行 第78号
・一般財団法人日本不動産研究所 地価情報


(一財)大阪府宅地建物取引主任者センターメールマガジン平成26年4月号執筆分