地中障害物と瑕疵担保責任・説明義務
(東京地裁平成24年11月13日判決 ウエストロージャパン)
(東京地裁平成25年 3月28日判決 ウエストロージャパン)



弁護士 岩本 洋

 

第1事案 東京地裁平成24年11月13日判決

1 事案の概要
   宅建業者Xは、平成18年2月宅建業者Yの媒介により売主Aから、本件土地建物を代金4億5000万円で購入した。Xは、平成19年1月本件建物を解体し、更地にするとともにその頃、本件土地について地下1m程度までの土壌調査を行った。重要事項説明書には、土壌汚染については、「土地閉鎖謄本及び旧住宅地図から目的物件土地が工場等の跡地であった形跡は確認できませんでした」と記載され、地中埋設物に関する記載はなかった。
 Xは本件土地を分筆後、一部を平成20年1月、Bに売却した。
 ところが、平成21年10月、Bに売却した土地の深さ2.4mの地中に、縦約6.5m、横約5m、高さ約1.4mのコンクリート造の地中障害物が発見された。Bの責任追及を受けXは、地中障害物の撤去費用その他合計約970万円の損害を被った。
 XはYの説明義務違反等を理由に損害賠償請求を行った。

2 判決の要旨
   判決は以下のとおり判示し、Xの請求を棄却した。
 Xは、土壌汚染と地中障害物の二つの存否を確認する趣旨で「土壌汚染とか大丈夫でしょうか」とYに質問し、「土地については問題ない」との回答を受け、本件土地には土壌汚染及び地中障害物は存在しないと理解したというが、Xは一般的には土壌汚染や地中障害物の存在については、一定の調査のうえで発見できなかったと報告されることが通常であると認識していたにもかかわらず、どのような調査によって土壌汚染や地中障害物の不存在を確認したのか全く尋ねることもしておらず、その証言は信用できない。Yが本件土地について具体的な根拠や資料がないにもかかわらず、土壌汚染や地中障害物がないと断言する合理的な理由もない。
 Yは、Xに対し、売主Aに対する調査結果を踏まえ、旧建物の地下室等の設備が本件土地の地中に残っているかについては分からない旨口頭で説明していたものと認められる。Xが本件土地の購入後に実際にボーリング調査を実施していることからすると、Xは、Yによる上記説明を受けた結果、地中障害物についてはその存否が不明であることを前提に本件売買契約を締結したものと認められる。
 Yにおいて、上記調査説明を超えて、旧建物の地下室の有無という当時その存否が不明であったものについて、重要事項説明書に「分からない」と記載すべき義務があったということはできない。

第2事案 東京地裁平成25年3月28日判決

1 事案の概要
   XはYに対し土地建物(以下「本件土地建物」という)を購入し(以下「本件売買契約」という)、平成13年6月29日に引き渡しを受けた。Yは本件売買契約で、建物の主要構造部分については10年間、その他の建物部分、土地については2年間、それぞれ引渡日より、瑕疵担保責任を負うとされている。本件土地はYが国から払い下げを受けたものであり、そこに戸建住宅を建築したものである。
 平成22年11月10日、XはA市から本件土地に雨水用排水管(以下「本件雨水管」という)が埋設されており、その為の土地使用貸借契約締結を申し込まれ、初めて本件雨水管の存在を知った。そこで、XはYに対し平成23年1月7日到達の通知書で、本件雨水管の存在を瑕疵として、本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。
 本件雨水管は内径約1.2mの鉄筋コンクリート製の管であり、本件土地のほぼ中央を東西に横切る形で地下約1.6mの位置に埋設され、西は本件土地より約25m先で側溝に、東は約100m先で海にそれぞれ繋がっていた。また、各開口部まで距離がある上、側溝側開口部は周辺の障害物により近寄って覗き込まなければ見つけにくい状態であった。埋設時期は戦前と認定されたが、調査によると内面のコンクリート部分に著しい劣化は認められていない。
 XはYに対し瑕疵担保責任のほか、債務不履行責任、不法行為責任に基づく損害賠償請求等を行った。

2 判決の要旨
   判決は、本件雨水管が著しく劣化している訳ではなく、本件土地の地盤沈下や本件建物に歪み、亀裂が見られないこと、また、本件売買契約上、建物を再建築し直ちに地階を設けることを想定していなかったこと、A市は本件雨水管を今後長期間使用する予定でないこと等を踏まえ、「本件雨水管が存在することが、居住用建物とその敷地の売買という本件売買契約の目的を達することができない瑕疵にあたるということはできない。」とした一方で、本件雨水管を直ちに廃止することが不可能なこと、将来撤去等には相応の費用を要することを踏まえ、「(本件雨水管の存在が)現時点でも土地の価値を低下させる要因となることは明らかであるから、本件土地に瑕疵があると認めることができる。そして、本件雨水管は公共下水道台帳及び都市下水路台帳に登載されていないため、容易にその存在を知ることができないから、隠れた瑕疵があると認められる」と判断した。
 しかし、瑕疵担保責任については「本件雨水管が存することは本件土地の瑕疵に該当するものというべきであって、本件建物の瑕疵には当たらないから、引渡しの日から2年を経過したため、XはYに対し瑕疵担保責任を追及することができない。」 としてXの主張は理由がないとした。
 債務不履行責任と不法行為については「契約の目的物が特定物である本件では、契約の本旨は、特段の事情がない限り、本件土地建物を引き渡すことにあると解されるのであり(民法483条)、本件雨水管がない土地を引き渡す義務を負うとまではいえないのが原則である。」「Yは、建物の建築、売買の専門業者ではあるが、いかに専門業者とはいえ、土地建物を売る通常の取引の際に、当該土地に埋設物が存在するか否かについて、土地を掘削して調査を行う義務までは課されていないというべきであり、地下埋設物の存在を知っていたか、容易に知り得た場合に限り、説明義務等の責任を負うことがあるにとどまるというべきである。」とし、Yが本件雨水管の存在を知り得なかったのはやむを得ない状況であり、Yの債務不履行、又は不法行為責任は認められないとした。

第3 解説

 地中埋設物、地中障害物は土地についてのいわゆる物理的瑕疵となり得ます。障害物の位置、障害物の存在により地上建物の建築が制限される程度などがファクターとなってきます。
 また、売買契約の目的が果たせないものとして契約解除が認められるか否かについては、撤去に要する費用が大きな指標となります。たとえば、解除を認めた例では、分譲マンションを建設するためには,売買代金額と対比して過分な高額の処理費用を要することが見込まれることを理由に売買の目的を達することができないと認めたケース(東京地裁H20.9.24 判決)や、地中の産廃物の存在により日常生活を送ること自体に支障はなく、このことは心理的な嫌悪感にとどまるものであるし、将来の増改築の際にも地盤改良工事ないし廃棄物の撤去に費用を要することが予想されるという程度のものであることを理由に契約の目的を達することができないと認めることはできないとしたケース(さいたま地裁H22.7.23 判決)があります。

 第1事案では媒介業者に対する損害賠償請求がなされています。売主に対する瑕疵担保責任の追及が考えられるところですが、免責特約が付されていたこと、売主が知って告げなかった瑕疵であるから免責されないとして損害賠償請求訴訟を提起したものの、売主が知っていたとは言えないとして、敗訴しています。
 瑕疵担保責任とともに、売主には売買契約の付随義務として説明義務があります。

 媒介業者は、その説明義務違反を問われることとなります。
物理的な瑕疵は、買主に不測の損害をもたらすことがありますので、物理的な瑕疵の存在を業者が知っている場合には、仲介業者は当該瑕疵の存在を買主に説明すべき義務を負っています。
 物理的な瑕疵の存在を業者が知らない場合の注意義務については一般には、「その業務の性質に照らし、取引当事者の同一性や代理権の有無、目的物件の権利関係、ことに法律上の規制や制限の有無等の調査については、高度の注意義務を要求されるが、目的物件の物的状況に隠れた瑕疵があるか否かの調査についてまでは、高度な注意義務を負うものではない」とされています(千葉地裁松戸支部H6.8.25判決)。専門的な鑑定・調査が必要な事項については、当該専門家の鑑定・調査を得るべき事柄といえ、逆に宅建業者に調査を強いることは無理を強いることになるからです。
 もっとも専門的な鑑定・調査が必要な事項に関し、調査の必要性を示す事実に気づいたときには、当該鑑定・調査が必要であるということを説明すべきであり、これを怠れば善管注意義務違反となります。
 第1事案においては、内覧時に本件土地上に、コンクリートで固められた蓋状のものがあるのを発見したため、買主が地中に旧建物の浄化槽が残っているのか、等と質問をしています。このような状況下では仲介業者としても地中埋設物が存在する可能性を説明すべきです。本件では説明をしたと認定してもらえたのですが、このような質問が出た以上は、口頭で説明するのみならず、重要事項説明書においても、補足説明として記載することにより買主に再度注意を促すとともに説明をしたことを証拠化していただきたいと思います。
以 上

(一財)大阪府宅地建物取引主任者センターメールマガジン平成27年3月号執筆分