特定空家の敷地に係る固定資産税等の特例対象からの除外措置


税理士 徳 芳郎

 
1.はじめに
   平成27年度の税制改正により、空家等対策の推進に関する特別措置法に基づく必要な措置の勧告の対象となった特定空家等に係る土地については、住宅用地に係る固定資産税及び都市計画税の課税標準の特例措置の対象から除外することとされました。
2.住宅用地特例の対象からの除外措置の創設
 

(1)内容

   適切な管理が行われていない空家等が防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることに鑑み、地域住民の生命、身体又は財産を保護するとともに、その生活環境の保全を図り、あわせて空家等の活用を促進するため、平成26年11月に空家等対策の推進に関する特別措置法が成立しました。これにより、周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切な状態にある空家等を「特定空家等」と定義し、市町村長が、特定空家等の所有者等に対し、必要な措置をとるよう助言・指導、勧告、命令等を行うことが可能となりました。
 このような状況を踏まえ、固定資産税においても、同法の規定による必要な措置の勧告の対象となった特定空家等に係る土地を住宅用地特例の対象から除外する措置を講じることとされました。


(2)住宅用地に対する課税標準の特例

   土地に対する固定資産税が課税される年の1月1日(賦課期日)において、住宅やアパート等の敷地として利用されている土地(住宅用地)については、税負担を軽減するため特例措置があり、税金が軽減されています。具体的には、住宅用地の価格(固定資産税評価額)に一定の特例率を乗じて課税標準を求めます。
@小規模住宅用(住宅やアパート等の敷地で200平方メートル以下の部分)
 
     ・固定資産税:固定資産税評価額×1/6
     ・都市計画税:固定資産税評価額×1/3
A一般住宅用地(住宅やアパート等の敷地で200平方メートルを超える部分)
 
     ・固定資産税:固定資産税評価額×1/3
     ・都市計画税:固定資産税評価額×2/3
  アパート・マンション等の場合は、戸数×200平方メートル以下の部分が小規模住宅用地となります。
  併用住宅(家屋の一部が住宅のほか、店舗等に利用されている家屋)の場合は、建物の構造、階数、住宅として利用している部分の割合によって、住宅用地となる面積が異なります。
  賦課期日(1月1日)において新たに住宅の建設が予定されている土地や住宅が建設されつつある土地は、住宅の敷地とはされません。
ただし、住宅の建て替えのために、家屋が建築中である土地については、一定の要件を満たすものと認められる場合、住宅用地として取扱うこととなります。

(3)固定資産税等の税額

 

 住宅用地の固定資産税及び都市計画税の税額計算は次のとおりとなります。特定空家等に係る土地については、住宅用地に係る固定資産税及び都市計画税の課税標準の特例措置の対象から除外されますので、住宅用地に係る特例は適用さません。

 
@小規模住宅用(住宅やアパート等の敷地で200平方メートル以下の部分)
 
     ・固定資産税:固定資産税評価額×1/6×1.4%
     ・都市計画税:固定資産税評価額×1/3×0.3%
A一般住宅用地(住宅やアパート等の敷地で200平方メートルを超える部分)
 
   ・固定資産税:固定資産税評価額×1/3×1.4%
   ・都市計画税:固定資産税評価額×2/3×0.3%
B特定空家等に係る土地
 
   ・固定資産税:固定資産税評価額×1.4%
   ・都市計画税:固定資産税評価額×0.3%
   
3.空家等対策の推進に関する特別措置法の概要
 

(1)特定空家等

  「特定空家等」とは、空家のうち次の状態にある空家等とされています。
  @ 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
  A 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
  B 適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
  C その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

(2)ガイドラインによる特定空家等の例示
   「特定空家等に対する措置」を講ずるに際しては、空家等の物的状態が上記(1)の@〜Cの各状態であるか否かを判断するとともに、当該空家等がもたらす周辺への悪影響の程度等について考慮する必要がある、とされています。
 「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)に各状態が例示されています。

【そのまま放置すれば倒壊等の著しく保安上の危険となるおそれのある状態】

@建築物が著しく保安上危険となるおそれがある。
  イ.建築物が倒壊等するおそれがある。
    イ)建築物の著しい傾斜
      ・基礎に不同沈下がある ・柱が傾斜している 等
    ロ)建築物の構造耐力上主要な部分の損傷等
      ・基礎が破損又は変形している ・土台が腐朽又は破損している等
  ロ.屋根、外壁等が脱落、飛散等するおそれがある。
      ・屋根が変形している ・屋根ふき材が剥落している
      ・壁体を貫通する穴が生じている・看板、給湯設備等が転倒している
      ・屋外階段、バルコニーが腐食、破損又は脱落している 等
A擁壁が老朽化し危険となるおそれがある。
      ・擁壁表面に水がしみ出し、流出している 等

【そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態】

@建築物又は設備等の破損等が原因で、以下の状態にある。
      ・吹付け石綿等が飛散し暴露する可能性が高い状況である。
      ・浄化槽等の放置、破損等による汚物の流出、臭気の発生があり、地域住民の日常生活に支障を及ぼしている。
      ・排水等の流出による臭気の発生があり、地域住民の日常生活に支障を及ぼしている。
Aごみ等の放置、不法投棄が原因で、以下の状態にある。
      ・ごみ等の放置、不法投棄による臭気の発生があり、地域住民の日常生活に影響を及ぼしている。
      ・ごみ等の放置、不法投棄により、多数のねずみ、はえ、蚊等が発生し、地域住民の日常生活に影響を及ぼしている。

【適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態】
@適切な管理が行われていない結果、既存の景観ルールに著しく適合していない状態となっている。
      ・景観法に基づき景観計画を策定している場合において、当該景観計画に定める建築物又は工作物の形態意匠等の制限に著しく適合していない状態となっている。
      ・地域で定められた景観保全に係るルールに著しく適合しない状態となっている。 等
Aその他、以下のような状態にあり、周囲の景観と著しく不調和な状態である。
      ・屋根、外壁等が、汚物や落書き等で外見上大きく傷んだり汚れたまま放置されている。
      ・多数の窓ガラスが割れたまま放置されている。
      ・立木等が建築物の全面を覆う程度まで繁茂している。 等
      ・ごみ等の放置、不法投棄により、多数のねずみ、はえ、蚊等が発生し、地域住民の日常生活に影響を及ぼしている。


【その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態】
@立木が原因で、以下の状態にある。
      ・立木の枝等が近隣の道路等にはみ出し、歩行者等の通行を妨げている。 等
A空家等に住みついた動物等が原因で、以下の状態にある。
      ・動物のふん尿その他の汚物の放置により、臭気が発生し、地域住民の日常生活に支障を及ぼしている。
      ・シロアリが大量に発生し、近隣の家屋に飛来し、地域住民の生活環境に悪影響を及ぼすおそれがある。 等
B建築物等の不適切な管理が原因で、以下の状態にある。
      ・門扉が施錠されていない、窓ガラスが割れている等不特定の者が容易に侵入できる状態で放置されている。 等

(3)特例空家等に対する措置

 

 特定空家等に対する措置は、行政指導である助言又は指導及び勧告、不利益処分である命令、代執行、過失がなくて必要な措置を命ぜられるべき者を確知することができないときのいわゆる略式代執行とに大別されます。

  @ 適切な管理が行われていない空家等の所有者等の事情の把握
  A 「特定空家等に対する措置」の事前準備
 立入調査、データベース(台帳等)の整備と関係部局への情報提供、特定空家等に関係する権利者との調整があります。
  B

特定空家等の所有者等への助言又は指導
特定空家等の所有者等への告知、措置の内容等の検討

  C 特定空家等の所有者等への勧告
 勧告の実施(固定資産税等の住宅用地特例から除外されることを示すべき、勧告は書面で行う。)、関係部局への情報提供
  D 特定空家等の所有者等への命令
 所有者等への事前の通知、所有者等による公開による意見聴取の請求、公開による意見の聴取、命令の実施、標識の設置その他国土交通省令・総務省令で定める方法による公示
  E 特定空家等に係る代執行
 実体的要件の明確化、手続的要件、非常の場合又は危険切迫の場合、執行責任者の証票の携帯及び呈示、代執行の対象となる特定空家等の中の動産の取扱い、費用の徴収
  F 過失なく措置を命ぜられるべき者を確知することができない場合
 「過失がなくて」「確知することができない」場合、事前の公告、代執行の対象となる特定空家等の中の動産の取扱い、費用の徴収
  G 必要な措置が講じられた場合の対応
 所有者等が、勧告又は命令に係る措置を実施し、当該勧告又は命令が撤回された場合、固定資産税等の住宅用地特例の要件を満たす家屋の敷地は、特例の適用対象となる。


4. おわりに

   以上が平成27年度税制改正で創設された特定空家の敷地に係る固定資産税等の特例対象からの除外措置の内容となります。今後は空家等対策の推進に関する特別措置法による対応が行われ、特定空家等に該当する場合は、市町村長から所有者等への勧告により住宅土地の固定資産税等の特例が適用されなくなる場合があります。
以 上

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン平成27年9月号執筆分