平成28年路線価について



不動産鑑定士  横井 敬史


1.はじめに

 国税庁は、平成28年7月1日に、平成28年分の路線価を発表しました。
 この路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額のことであり、路線価が定められている地域において、相続、遺贈又は贈与により取得した財産に係る相続税及び贈与税の財産を評価する場合に適用します。国土交通省が毎年3月に発表する公示地価をベースに、売買実例や不動産鑑定士の意見を踏まえて算出されており、路線価は公示地価の約8割の水準となっています。この路線価の各地区詳細等は、国税庁ホームページで直近 7年分を閲覧することができます。路線価図には1平方メートルあたりの単価が千円単位で表示されていますので、たとえば図中に「200」とあればその単価が20万円ということになります。
 (国税庁の路線価閲覧ページ:http://www.rosenka.nta.go.jp/

 公的機関が公表する地価には、この路線価の他にも、国土交通省による地価公示、都道府県による地価調査、市区町村による固定資産税評価額があり、その内容や役割はやや異なりながらも、例えば路線価の算定に当たっては地価公示価格を主要な指標とする等、それぞれが密接な関わりを持っています。(【表1】参照)

【表1】公的評価比較表
種類 地価公示 地価調査 相続税路線価 固定資産税評価額
公表主体 国土交通省 都道府県 国税庁 市区町村
目的 適正な地価形成 国土法審査基準 課税基準 課税基礎
価格時点 1月1日 7月1日 1月1日 1月1日
公表時点 概ね時価 概ね時価 公示価格の80% 公示価格の70%
カバー
エリア
都市計画区域その他の土地取引が相当程度見込まれるものとして国土交通省令で定める区域 都道府県全域 市街化区域 市区町村全域

 なお、地価公示、地価調査、固定資産税評価額は、敷地そのものについての価格を算出しますが、路線価は一定の距離をもった路線(道路)に対して価格が決められます。つまり、その路線に面する宅地の価格はすべて同じという考えかたで、個々の敷地における価格はその規模や形状などに応じて補正をします。都市部の市街地では、ほぼすべての路線に対して価格が付けられるため、その基礎となる調査地点(標準宅地)の数は全国で約33万地点に及びます。

2. 全国の地価動向

 全国約33万地点の標準宅地の評価額の対前年変動率は、全国平均で0.2%のプラスとなり、リーマン・ショック前の2008年以来、8年ぶりに上昇に転じました。金融緩和や株高による余剰資金、海外マネーが不動産投資に流れ込んだほか、低金利が続き大都市圏などで住宅需要が堅調だったことが影響したとみられます。また、外国人観光客の増加による「インバウンド需要」も影響した一方で、大都市圏と地方の“二極化”は継続しています。
 都道府県別にみると、上昇は14都道府県で、昨年より4道県増えました。上昇率は、中国人などの「爆買い」が続き、20年に五輪開催を控える東京が2.9%で最も高く、東日本大震災の復興事業が進む宮城(2.5%)、福島(2.3%)が続いています。下落は33県ですが、29県は下落率を縮小させています。
 なお、全国の最高路線価は1986年から31年連続で東京・銀座中央通りにある文具店「鳩居堂」前の 銀座中央通りで32,000千円 (前年比18.7%)でした。これは、リーマン・ショック前の08年の31,840千円を超え、ピークだったバブル末期の1992年(36,500千円)の87.7に達しており、一部にはバブル再発を懸念する声も上がっています。
 また、都道府県庁所在地の最高路線価をみると、上昇したのは昨年よりも4都市多い25都市となりました。大阪市北区角田町の御堂筋は22.1%上昇しており、東京23区や名古屋、訪日客が多い京都、金沢、福岡等計10都市で上昇率が10%を超えました。一方で、下落は5都市でした。大都市圏の中心部で路線価の大幅な上昇が見られる一方、それ以外の地域の大半は、下げ幅が縮小したものの下落は続いており、大都市圏と地方の二極化は依然として続いています。(【表2】参照)
 なお、平成28年1月1日現在において、原子力発電所の事故に関する「帰還困難区域」、「居住制限区域」及び「避難指示解除準備区域」に設定されていた区域内にある土地等については、路線価等を定めることが困難であるため、平成27年分と同様に、相続税、贈与税の申告に当たり、その価額を「0」として差し支えないこととされています。

【表2】平成28年分都道府県庁所在都市の最高路線価


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3. 大阪府内の地価動向
 府内の平均は前年比1.0%増で3年連続で上昇しました。大阪市内のキタやミナミ、天王寺ではインバウンド効果の影響を受け、全国トップクラスの伸びを見せました。
大阪の最高路線価は1984年から33年連続で北区角屋町の「阪急百貨店」前の10,160千円 (前年比22.1%)でした。一方、ミナミの路線価は長らく難波の高島屋前が1位でした、今年は心斎橋地区の戎橋北詰めが39.6%上昇して同7,120千円となり、記録が残る平成18年以降で初めて逆転しました。
 このほか、「あべのハルカス」周辺の阿倍野、天王寺がともに10%以上の上昇率を維持しているほか、グランフロント大阪の開業以降、にぎわいが続くJR大阪駅北側(大阪市北区)も上昇幅が拡大しました。
 大阪市外では、北大阪急行千里中央駅前(豊中市)が10%以上の伸びを見せました。周辺の団地の建て替えが進むなどし、人気が高まったためとみられます。南海堺東駅前(堺市堺区)や京阪枚方市駅南口前(枚方市)も昨年の横ばいから上向きに転じました。
 一方、東大阪市の近鉄布施駅南側は唯一の下落(2.8%減)となりました。駅前の商業地ですが、大阪市中心部に客が取られるなどし、土地の需要が弱含みになったとみられます。(【表3】参照)

【表3】平成28年分の大阪府内各税務署管内の最高路線価

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4.今後の動向

 大阪府内において、中国人観光客に代表される爆買いなどインバウンドの恩恵を受けた地点の路線価が軒並み上昇しました。しかし春以降、爆買いの勢いは衰えつつあり、地価上昇も減速に向かうとの見方が出始めています。日本銀行大阪支店発表の「百貨店免税売上」によると、市内の主要百貨店では、免税品売上高が6月まで3カ月連続で前年割れをしました。免税取扱件数は5、6月の前年比はそれぞれ11.0%、15.0%と増えてはいるものの、増加幅は縮小しています。訪日客の買い上げ単価の下落が浮き彫りになっており、爆買いは踊り場にさしかかった可能性も考えられます。
 また、中国を始めとするアジア新興国や資源国等の景気の下振れや、英国のEU離脱問題など、海外経済の不確実性の高まりや金融資本市場の変動の影響に留意する必要があること等、海外諸国の動向により我が国の景気が下押しされるリスクがあります。さらには、平成28年(2016年)熊本地震の経済に与える影響にも十分留意する必要があります。これに対し、リニア中央新幹線の大阪延伸を最大8年前倒しするなどのインフラ整備や、「1億総活躍社会」の実現加速に向けた予算の重点配分などを柱とする安倍政権の総合的で大胆な経済対策が予定されております。
 したがって、9月には都道府県により平成28年度の地価調査価格(価格時点:7月1日)が公表される予定となっており、その時点ではまだ地価は上昇傾向を示しているものと思われますが、その後の地価動向については予断を許さない状況にあると言えます。

 (参考資料)
国税庁HP
大阪国税局HP
日本銀行大阪支店HP

以上 

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン平成28年8月号執筆分