土地の売買と地中埋設物の説明義務等について(判例解説)


弁護士 浜口 廣久

第1 はじめに

1 売買対象とされた土地に土壌汚染や地中埋設物などの存在が発覚した場合、それらの処理金額とこれに伴う損害賠償の額が高額化するため、売主側・買主側の対立が大きくなる傾向があります。
 このような場合には、土地の瑕疵担保責任が問題とされることが一般的ですが、その他にも、土地の性状等に関する売主の説明が不十分であったとして、売主としての信義則上の説明義務違反が問題とされることも多くあります。

2 また、地中埋設物との関係では、建物を解体した上で土地更地渡しとする土地売買契約において、引渡し後に地中埋設物の存在が発覚し、問題となることがあります。

3 今回は、@土地埋設物についての説明義務違反が問題となった事例と、A土地更地渡し特約付きの売買契約における地中埋設物の残置が問題となった事例を紹介します。

第2 裁判例1(東京地裁H29.10.20 RETIO.2018.10 NO.111 70頁)

 購入した土地の地中に多数の巨大な転石が存在したため、買主が、売主の転石の存在等についての説明義務違反(不法行為)、または瑕疵担保責任に基いて、売主に転石処分費用等を請求した事案です。
 裁判所は、重要事項説明書の記載や、売主がこれを読み上げるなどしたことから、売主に説明義務違反はなく、また、転石は「隠れた瑕疵」にも当たらないとして、請求を棄却しました。

1 事案の概要
(1)  平成23年10月、買主(X)は、老人ホーム建設のための敷地(本件土地)を購入すべく、売主(Y)から重要事項説明書の交付を受けた上、Yとの間で、本件土地の売買契約を締結した。
(2)  その後、平成24年11月、YがA(建築会社)に工事を依頼し、Aが工事に着手したところ、地中から多数の転石が発見された。
(3)  そこで、平成26年5月、XはYに対し、転石の存在等についての信義則上の説明義務違反または瑕疵担保責任に基づいて、転石処分費用と工法変更に伴う施工費の増額分の合計5131万5500円の支払いを求めて提訴した。

2 判決の要旨
  Xの請求を棄却
(1) 以下の理由から、Yには信義則上の説明義務違反はない。
  @ Yは、売買契約の締結前に行った重要事項説明の際に、Xに交付した重要事項説明書の特記事項欄に杭工法や泥岩について記載し、また、これを読み上げることにより、本件土地の地盤に岩が存在するために特定の工法が必要となったり、岩の存在により土の入れ替えを含む特別な処理が必要となる場合があることを説明していたことは明らかである。

A そして、重要事項説明から売買契約の締結までの間に、Xから、杭工法や泥岩に関する質問がされたり、追加資料の提出を求めることはなかったから、本件土地の地盤、地質等について重要事項説明書に記載されたところと異なる説明をあえてYがしたとも認められない。
(2) また、以下の理由から、Yには瑕疵担保責任も認められない。
  @(1)にあるとおり、Xは,Yから重要事項説明を受けた際に、本件土地の地中埋設物としての岩の存在可能性についても説明を受けたことにより、転石の存在を容易に予見することができたことは明らかであるから、Xが転石の存在につき善意であったとしても、Xには過失があったというべきである。

A そうすると,仮に転石が「瑕疵」に当たる余地があるとしても、これを「隠れた」瑕疵ということはできない。


第3 裁判例2(東京地裁H29.10.3 RETIO.2018.10 NO.111 72頁)

 建物を解体撤去して土地更地渡しとする特約で土地を買い取った買主が、地中に建物解体によるガラや建物の地下室が残置されていたとして、売主と解体業者に対し、これら地中障害物の解体撤去工事費用等の支払を求めた事案です。
 裁判所は、売主の特約違反と解体業者の不法行為を認定し、買主の請求を認めました。

1 事案の概要
(1)  平成24年11月、買主(X)は売主(Y1)との間で、Y1が所有する土地(本件土地)の売買契約(本件売買契約)を締結した。
 本件売買契約には、Y1は、本件土地上の建物(本件建物)を解体撤去して本件土地を更地にして平成26年9月末日までに引き渡す旨の特約(以下「本件特約」という。)が定められていた。
(2)  Y1は、解体業者(Y2)に、本件建物の解体撤去工事を発注し、Y2は平成26年2月に解体撤去工事を終了した。
(3)  平成27年6月から8月にかけて、本件土地の地中に、本件建物の解体によって生じたと思われる鉄筋やコンクリートガラが残置され、また、本件建物の地下室のRC躯体が残存していたことが判明した。
(4)  そこで、Xは、Y1に対し、債務不履行又は不法行為に基づいて、Y2に対し、不法行為に基づいて、地中障害物の解体撤去工事費用合計1472万9750円の支払を求めて提訴した。

2 判決の要旨
  Xの請求を認容
(1)  Y1の義務について

 本件売買契約においては、Y1は、本件建物を解体撤去して本件土地を更地にして引き渡す旨及び解体撤去の対象に地下室が含まれる旨が明記されているから、被告Y1は、Xに対し、地下室を含めて本件建物を撤去すべき義務を負っているものと認められる。
(2)  Y1の義務違反と、Y1・Y2の共同不法行為について

@ 被告Y2は、撤去について、Y1の履行補助者であるところ、本件土地の地中には、鉄筋、コンクリートガラ及び地下室の躯体が埋設されていたことからして、Y2が完全に解体撤去せず、本件建物の鉄筋及びコンクリートガラとともに本件土地に埋め戻したものと認められる。したがって、Y2には地中障害物を解体撤去しなかったことについて少なくとも過失がある。
 Y1についても,本件特約に係る撤去工事の履行補助者であるY2が地中障害物を解体撤去しなかったことについて過失がある以上、本件売買契約の債務不履行について責めに帰すべき事由がある。
 よって、Y1は、Xに対し、本件特約に係る地下室を含めた本件建物を完全に解体撤去すべき義務を履行しなかったことについて債務不履行責任を負う。

A Y2は、Y1がXに対して本件建物を解体撤去すべき義務を負っていることを知っており、上記のとおり本件土地の地中に地中障害物が解体撤去されず残置されたことについて過失があるから、Xに対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

B Y1の債務不履行責任とY2の不法行為責任は、不真正連帯債務の関係にある。



第4 検討

1 冒頭でも述べましたが、売買対象の土地に土壌汚染や地中埋設物が存在した場合、瑕疵担保責任だけではなく、売主の信義則上の説明義務違反が問題とされることが多くあります。

 説明義務については、「不動産売買における売主は、売買当時、購入希望者に重大な不利益を及ぼすことが予想される事項を認識していた場合には、売買契約に付随する信義則上の義務として説明すべき義務がある。」などとする裁判例があります(東京地裁H28.3.11 )。もっとも、説明義務が発生する場合やその範囲については、売主・買主や土地の属性などによって異なります。ことに、宅建業者においては、宅建業法により、「取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければならない。」とされ(同法31条1項)、また、重要事項の調査・説明義務が定められているところであり、これらにより、宅建業者には調査説明義務が課せられているものと解されています。

 このようなことから、売主業者としては、売買対象土地の十分な調査を行うことを前提に、これにより知り得た内容について買主に対して十分な説明を行うことが必要であることが導かれるところです。

 なお、実際に瑕疵担保責任と説明義務違反とが問題となった場合、両者の間における実質的な争点には重複する部分もありますが、説明義務違反は不法行為と考えられていることから、両者は消滅時効の起算点や時効期間などに相違があります。

2 また、建物を解体して土地更地渡しとする特約で土地を売買した場合において、実際に引渡された土地に地中埋設物が残存していたことによりトラブルとなることがあります。

 そこでは、売買前の土地・建物の状態や、そこから土地更地渡しとするにあたって約定された解体・撤去の具体的な範囲・内容などが問題となります。さらには、解体・撤去を行ったかどうかが問題となることもあります。裁判例2では、実際にはこれらの点も争点となりました。

 したがって、土地更地渡しとする特約付きの土地売買を行う際には、解体・撤去の具体的な範囲・内容を明確にし、また、解体・撤去の確認方法などについても取り決めておくことが望ましいと言えるでしょう。
 
以上
 

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン平成31年2月号執筆分