『民泊行為と区分所有者への差止め請求について(判例解説)』


弁護士 澤  登

1 はじめに

 「民泊」とは、住戸を不特定多数の者を対象として宿泊施設として使用させる行為を言います。かつて民泊行為については旅館業法の規制がありましたが、訪日外国人増加に伴う宿泊施設不足の解消や空き家の有効活用などの効果が見込まれることから平成29年6月に住宅宿泊事業法(民泊新法)が成立して規制が緩和されました。
 他方、民泊利用者による近隣住民への迷惑行為などトラブルになるケースが生じています。
 今回は、マンションにおいて管理規約で民泊の禁止が定められた場合、民泊行為をした区分所有者に対して民泊行為の差止めと違約金の請求されたケースでそれらが全て認容された裁判例(東京地裁 平成30年8月9日 ウエストロー・ジャパン 2018WLJPCA08096003)について説明をいたします。

2 裁判例(東京地判 平30.8.9 RETIO 113号)

(1) 事案の概要

 本件マンションの管理規約には、@区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途(不特定の者を対象としてその専有部分を宿泊や滞在の用に供することを含む)に供してはならない、A区分所有者は、いわゆるウイークリーマンション等の短期間の貸与をしてはならない、B区分所有者が管理規約に違反したときは、理事長は、理事会の決議を経て、その差止めのための必要な措置をとることができる、C本件規約違反者に対して訴訟を提起する場合、理事長は、請求の相手方に対し、違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用の一切を請求することができる、と定められていた。
 本件マンションの一室の区分所有者が平成28年1月ころからウェブサイトを利用して、不特定多数者を対象として宿泊予約を受け付ける民泊行為を開始し、これにより素性の不明な不特定多数の外国人が頻繁に本件マンションに出入りするようになり、当該住戸の隣接居住者より、夜中の騒音やゴミの分別が行われず捨てられるなどの苦情が寄せられるようになった。
 本件マンションの管理組合は本件マンションの区分所有者に対し、当該居室で民泊行為をしないように申し入れをしたところ、当該区分所有者は民泊行為は今後は行わないと述べておきながら宿泊者を募集していた。
 そこで、本件マンションの管理組合は臨時総会において、当該区分所有者に対し民泊営業差止めと違約金の請求訴訟を提起する議案を可決して、提訴した。

(2)  裁判所の判断

 裁判所は、次のように判断して、管理組合の当該区分所有者に対する請求を全て認容しました。

ア)  被告つまり当該区分所有者が民泊行為をしていたかどうか。

 被告は、宿泊先を斡旋するインターネット上のサイトに当該居室の情報をアップして、当該居室を有料で貸し出し、不特定多数の者を対象として宿泊施設として使用させていたと認められ、被告は当該居室を使用して民泊行為をしていたものと認められる。

イ)  本件管理規約に基づき民泊行為の差止めを求めることができるか。

 本件管理規約32条1項は、区分所有者は、その専有部分を自宅あるいは事務所として使用するものとし、他の用途(不特定の者を対象として宿泊や滞在の用に供することを含む)に供してはならないと定め、37条の2第1項はいわゆるウイークリーマンション等の短期間の貸与をしてはならないと定めている。被告は、当該居室において不特定の者を対象として宿泊や滞在の用に供し、又は短期間の貸与をしていたと認められ、管理規約に反するものである。
 また、被告は民泊行為を今後行わないと述べておきながら宿泊客を募集していたことに照らすと、本件管理規約に反して今後も民泊行為をする恐れが高く、民泊行為を差止める必要性が認められる。
 そして、管理規約70条3項によれば、管理組合は、区分所有者が本件規約に違反したものとして、理事会の決議を経て、その差止め又は排除のための必要な措置(法的手続を含む)をとることができるとされているところ、理事会において法的措置の検討をすることとされ、その後、臨時総会で本件訴訟提起について総会決議を経ているのであるから、同管理規約に基づいて、被告に対し、民泊営業の差止め等を求めることができる。

ウ)  本件管理規約の改正手続に瑕疵があるか。

 被告は、本件管理規約32条1項及び37条の2第1項の改正手続きに瑕疵があると主張している。しかし、上記各条項の改正は、本件マンションの居室を民泊又は短期間の賃貸借に供することを禁止する規定であって、被告の権利に特別の影響を及ぼすものではないから、上記改正に区分所有法31条1項に基づく被告の承諾は不要である。

エ)  本件違約金条項の効力について。

 被告は、本件違約金条項の新設につき区分所有法31条1項により被告の承諾を必要とすると主張するが、本件違約金条項は被告のみに特別の影響を及ぼすものではないから、この点に関する被告の主張は理由がない。
 また、被告は、本件違約金条項が公序良俗に反し無効であると主張する。しかし、本件違約金条項の新設手続に瑕疵があるとは認められず、また、その内容は、原告が本件規約違反者を被告として訴訟を提起する場合の弁護士費用を相手方に負担させるというものであるが、このような規定が公序良俗に反するものともいえない。

(3)  本事例から学ぶ留意点

 本判決は、マンションの管理規約で民泊行為が禁止されており、管理規約に違反する者に対して訴訟を提起することができ、違約金として弁護士費用や差止め等の諸費用の一切を請求できると定められている場合、禁止されている民泊行為をした区分所有者に対し民泊行為の差止めと違約金の請求が認められた事例です。
 近時、トラブルになりやすい民泊行為への対応を検討する際に参考となる事例であり、民泊行為のトラブルを防止するためには、まず管理規約で民泊行為を禁止しておく必要があります。
 なお、管理規約上禁止されている民泊行為を行った区分所有者が売却により区分所有権を失った場合、被請求者としての資格を失ったとして民泊営業の停止等に係る請求は認められませんでしたが、民泊営業のため区分所有者の共同の利益に反する状況が現実的に発生し、管理組合が注意や勧告等をしているにもかかわらず当該区分所有者があえて民泊営業を止めなかったために、弁護士に委任して訴訟を提起せざるを得なかったことからすると、正当な経済活動の範囲を逸脱した民泊営業は区分所有者に対する不法行為に当たると認めて弁護士費用相当額の損害賠償請求を認容した事例があります(大阪地裁 平29.1.13 RETIO 107号114頁)。
 
以上
 

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン令和元年5月号執筆分