平成22年度税制改正のポイント(住宅・不動産関連税制)

税理士 永橋 利志

1.はじめに

 昨年12月22日に新政権発足後初めての平成22年度税制改正大綱が公表されました。長らく続いた自民・公明連立政権から政権交代をして初めての税制改正のプロセスは、税制改正を審議する機関を政府税制調査会一つに絞り、政府税制調査会での審議の模様や提出資料がほぼリアルタイムで公表されるなど、従来のプロセスと大きく異なるところがありました。また、新政権は、「公平・透明・納得」を税制を考える際の基本として、納税者の立場に立った税制を構築するとしています。
 今回は、新政権が公表した平成22年度税制改正の中で、住宅や不動産に関係する項目について、変更点や留意点について確認をします。


2.資産課税の方向性

 新政権下での税制のキーワードに、格差是正と所得再分配機能の復活があります。つまり、格差是正の観点から、個人所得課税や相続税の課税のあり方が見直され、税が持つ所得再分配機能の復活を図るための施策が新政権下の税制の特徴と言えるでしょう。個人所得課税では、所得控除や給与所得控除の見直しが検討されています。特に、相続税の課税ベースと税率構造の見直しをすることで、現在、相続税の課税割合が4%(被相続人100人に対し、相続税を負担する者が4人)程度である状況から課税割合の引き上げが図られます。具体的な改正は、平成23年度以後で行われることになりそうです。
 また、固定資産税についても負担調整のあり方や固定資産の適正な評価について検討を進めるとしています。固定資産の評価は、上記の相続税にも影響を及ぼすことから、今後の動向を注目しておく必要があります。


3.消費税の還付スキームへの対応

 居住用の賃貸マンションやアパートの家賃収入(消費税の非課税売上)を収受する時期を後の課税期間にずらし、自販機や駐車場収入(ともに消費税の課税売上)を先行して収受することにより、賃貸マンション等の建築費に係る消費税額の還付を受けるスキームについて、以前から消費税の還付が高額になりすぎないかという指摘がありました。  この消費税の還付スキームに対し、賃貸マンション等を取得し、消費税の課税事業者を選択した場合には、その賃貸マンション等を調整対象固定資産とし、さらに、課税事業者を選択した事業者についても、3年後には、調整対象固定資産に係る控除税額の取り戻しがされることで、対応が図られました。
 この改正は、平成22年4月1日以後に課税事業者選択届出書を提出した事業者の同日以後に開始する課税期間から適用される予定です。


4.相続税・贈与税

(1)住宅関係
 直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、現行の500万円から大幅に金額が増額され、平成22年中に住宅取得等資金の贈与を受けた者については、1,500万円までが、平成23年中に贈与を受けた場合には、1,000万円までが非課税とされます。ただし、贈与を受けた者のうちその年の合計所得金額が2,000万円以下である場合に限ります。
 また、相続時精算課税制度の住宅取得等資金の贈与に係る相続時精算課税制度の特例について、現行の特別控除1,000万円の上乗せが廃止されます。ただし、年齢要件(一般の相続時精算課税制度の場合、贈与者である親の年齢が65歳以上。)に係る特例(65歳以上の要件を外す。)については、2年間延長される予定です。これらの規定は、平成22年1月1日以後平成23年12月31日までに贈与により取得する住宅取得資金等に係る贈与税について適用されます。
 したがって、平成22年中であれば、贈与税の非課税枠1,500万円と相続時精算課税制度の2,500万円の合計額4,000万円(平成23年中は3,500万円)までの住宅取得等資金であれば、贈与税が非課税となり、そのうちの2,500万円については、親の相続時に相続財産に戻して相続税の計算をし、親の相続財産が基礎控除額以下であれば、相続税を納める必要はありません。

(2)財産評価関係
 小規模宅地等の相続税の課税価格の計算の特例について、相続人等の事業又は継続への配慮という制度の趣旨を踏まえ、現行制度で200uまで50%の評価減がされる宅地等について、相続人等が相続税の申告期限まで事業又は居住を継続しない場合には、適用対象から除外されることになります。また、一定の宅地等について、共同相続があった場合には、取得した者ごとに適用要件を判定することになります。
 この規定は、平成22年4月1日以後の相続又は遺贈により取得する小規模宅地等に係る相続税について適用される予定です。


5.おわりに
 以上、平成22年度税制改正についてポイントの確認をしましたが、これらの改正は、現在、国会で審議中の法案に盛り込まれているものです。私たちの仕事や業務直結するものですから、審議の行方に注目していきましょう。
 さらに、現在、わが国は、人口減少と高齢化が同時に進行する社会に突入しています。税制は、人々が安心して暮らせる社会造りに必要な大きな柱です。安心して暮らせる社会が見込めないと、真の経済発展は望めません。税制が大きな時代の流れにどのように対応していくのかを注目していきたいと思います。