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1 制度の趣旨及び概要
平成15年の税制改正により、相続税と贈与税の一体化措置(相続時精算課税制度)が創設されました。
この制度の趣旨は、高齢化の進展に伴って、相続による次世代への資産移転の時期が遅れてきていること及び高齢者の保有する資産の有効活用を通じて経済社会の活性化に資するといった社会的要請に応えることにあります。
そこで、生前贈与を円滑に進めるために、生前贈与と相続との間で資産移転の時期の選択に対して税制の中立性を確保することが重要となりました。
この一体化措置は、従来の相続税と贈与税との関係を大きく見直すものであり、両税の抜本的改革として位置付けられています。
その結果、贈与税の課税制度は、従前からある「暦年課税」と新しく創設された「相続時精算課税」の2種類となり、一定の要件に該当する場合には、相続時精算課税を選択することができるようになりました。
相続時精算課税制度は、贈与した時には贈与財産に対する贈与税を納めておき、その贈与者が亡くなった時にその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額を基に相続税額を計算し、既に納めたその贈与税相当額を相続税額から控除することにより贈与税・相続税を通じた納税を行うというものです。
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2 適用対象者
贈与者は贈与の年の1月1日現在で65歳以上の親、受贈者は贈与者の推定相続人である20歳以上の子(子が亡くなっているときには20歳以上の孫を含みます。)とされています。
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3 適用対象財産等
贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限はありません。
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(1)
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贈与税額の計算
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相続時精算課税の適用を受ける贈与財産については、その選択をした年以後、相続時精算課税に係る贈与者以外の者からの贈与財産と区分して、その贈与者から1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額を基に贈与税額を計算します。
その贈与税の額は、贈与財産の価額の合計額から、複数年にわたり利用できる特別控除額(限度額:2,500万円。ただし、前年以前において、既にこの特別控除額を控除している場合は、残額が限度額となります。)を控除した後の金額に、一律20%の税率を乗じて算出します。
尚、相続時精算課税を選択した受贈者が、相続時精算課税に係る贈与者以外の者から贈与を受けた財産については、その贈与財産の価額の合計額から暦年課税の基礎控除額110万円を控除し、贈与税の税率を適用し贈与税額を計算します。
また、相続時精算課税に係る贈与税額を計算する際には、暦年課税の基礎控除額110万円を控除することはできませんので、贈与を受けた財産が110万円以下であっても贈与税の申告をする必要があります。
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(2)
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相続税額の計算
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相続時精算課税を選択した者に係る相続税額は、相続時精算課税に係る贈与者が亡くなった時に、それまでに贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額と相続や遺贈により取得した財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出します。
その際、相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税相当額については、相続税の申告をすることにより還付を受けることができます。
尚、相続財産と合算する贈与財産の価額は、贈与時の価額になります。
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5 適用手続
相続時精算課税を選択しようとする受贈者は、その選択に係る最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に納税地の所轄税務署長に対して「相続時精算課税選択届出書」を受贈者の戸籍の謄本などの一定の書類とともに贈与税の申告書に添付して提出しなければなりません。
相続時精算課税は、受贈者である子それぞれが贈与者である父、母ごとに選択できますが、いったん選択すると選択した年以後贈与者が亡くなった時まで継続して適用され、暦年課税に変更することはできません。
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6 相続時精算課税選択の特例
平成23年12月31日までに、親から住宅取得等資金の贈与を受けた20歳以上の子が、贈与を受けた年の翌年の3月15日までにその住宅取得等資金を自己の居住の用に供する一定の家屋の新築若しくは取得又は自己の居住の用に供している一定の家屋の増改築等の対価に充てて新築若しくは取得又は増改築等をし、その家屋を同日までに自己の居住の用に供したとき又は同日以後遅滞なく自己の居住の用に供することが確実であると見込まれるときには、住宅取得等資金の贈与者である親が65歳未満であっても相続時精算課税を選択することができます。
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7 相続時精算課税制度のメリット・デメリット
メリット
・早期に多額の財産を移転することができます。 |
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2,500万円を暦年課税により贈与すると贈与税は970万円になります。この制度を使えば贈与税は係りませんので、次世代への財産の移転が行ないやすくなります。
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・収益物件の贈与により相続財産の増加を防ぐことができます。 |
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アパートなどの収益物件は賃貸収入が入ってくるため、その分相続財産が積みあがっていくことになります。早期にアパートを子供に贈与してしまえば、贈与後はその賃貸収入は子供のものとなりますので、相続財産の増加を防ぐことができます。
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・生前の財産分割、事業承継ができます。 |
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実際に相続が発生すると遺産分割で紛糾するケースは多数見受けられますが、相続時精算課税制度を活用すれば、事前に一部の子供に財産を贈与し、その代わりとして遺留分の放棄をしてもらい、残った子に残りの財産を遺言で相続させるようなことも行ないやすくなります。
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・将来価値の上昇する財産の贈与により、相続税の負担を低くおさえることができます。 |
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相続財産に持ち戻される贈与財産の価額は、贈与時の価額とされています。そのため、土地、自社株、株式公開直前の株式など将来値上がりしそうな財産を贈与し、財産の価額を贈与時の価額で固定化することで、相続財産の評価額を低くおさえることができます。
但し、逆に価値が減少してしまった場合には結果として不利になる可能性もあります。
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デメリット
・暦年課税制度には戻れません。 |
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一旦相続時精算課税制度を選択すると、その贈与者については従来からある暦年課税制度には戻れなくなります。よって、今後はその贈与者については毎年110万円の贈与税の非課税枠は使えません。
但し、別の者からの贈与については、110万円の贈与税の非課税枠は使えます。
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・将来、相続税の改正があった場合、逆に不利になる可能性があります。
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相続税の改正が予定されています。今回は課税強化の方向での改正が見込まれていますので、現行ではメリットがあったとしても改正内容によっては逆に不利になることもあります。
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・不動産の贈与を受けると不動産取得税や登録免許税がかかります。
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相続を原因として不動産の所有権が移転する場合には不動産取得税は非課税です。また、所有権移転登記に係る登録免許税が大幅に軽減されます。しかし、贈与を原因とする不動産の取得についてはこのような定めはありませんので、所有権の移転に係る経費が相続の場合に比べて多額になります。
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・小規模宅地等の特例の適用を受けることができません。
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相続時精算課税制度を利用して土地を贈与する場合には、小規模宅地等の特例の適用を受けることができません。土地を贈与する場合には十分な検討が必要です。
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8 相続時精算課税制度の利用について
相続時精算課税制度は一度選択すると暦年課税に戻れません。また、贈与財産の価額が固定化し、相続時に遺産に加えることになるため将来の相続税額にも影響します。よって、この制度の利用に当たっては税理士とよく相談のうえ、行なうことが必要と考えます。
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