平成23年度税制改正について

税理士 秦 雅彦


1.はじめに

 平成23年度税制改正法案は、平成23年1月に国会に提出されましたが、東日本大震災の影響もあり、審議が進まず、未成立のまま年度末を迎えました。このため、平成22年度末で期限切れとなる租税特別措置法を平成23年6月30日まで延長する「つなぎ法」(「国民生活等の混乱を回避するための租税特別措置法等の一部を改正する法律」)が、平成23年3月31日に成立しました。
 その後、平成23年6月、与野党合意が成立し、当初の税制改正法案は以下の2法案に分けられました。
@
「現下の厳しい経済状況及び雇用情勢等に対応して税制の整備を図るための所得税法等の一部を改正する法律案」
A
「経済社会の構造の変化に対応した税制の構築を図るための所得税法等の一部を改正する法律案」
 @は、年金所得者の申告不要制度の創設、寄付金税制の拡充や期限切れ租税特別措置の延長等の改正法案として、平成23年6月22日可決成立し、平成23年6月30日に公布施行されました。
 Aは、当初の税制改正法案を修正し存置する法案として、引き続き審議されることになりました。したがって相続税の基礎控除や税率構造の見直し、法人税の実効税率の引下げなどの改正案については継続審議として先送りされました。
 ここでは、平成23年6月30日に施行された@の内容について、実務上重要と思われる事項を説明いたします。

2.土地住宅税制の改正

(1)
住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の見直し
 増改築等の費用に関し補助金の交付を受ける場合には、税額控除の計算の基礎となる増改築等の費用の額については、その補助金等の額を控除した後の金額とします。平成23年6月30日以後に行う改修工事契約締結分について適用されます。
(2)
既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の所得税額の特別控除の見直し
 次に掲げる見直しを行った上、平成24年12月31日まで延長されました。
@

バリアフリー改修工事
 税額控除額の上限額について、平成23年分は20万円とされ、平成24年分は15万円に縮減されます。

A

省エネ改修工事
 省エネ改修工事等の費用に関し補助金の交付を受ける場合には、税額控除の計算の基礎となる省エネ改修費用の額については、その補助金等の額を控除した後の金額とします。平成23年6月30日以後に行う改修工事契約締結分について適用されます。

(3)

既存住宅に係る耐震改修工事をした場合の所得税額の特別控除の見直し
 適用対象となる地域の要件が廃止され、住宅耐震改修の費用に関し補助金を受ける場合には、税額控除の計算の基礎となる住宅耐震改修費用の額については、その補助金等の額を控除した後の金額とします。平成23年6月30日以後に行う改修工事契約締結分について適用されます。

(4)

不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の軽減措置の延長
 記載金額が1,000万円を超える「不動産売買契約書」及び「工事請負契約書」に係る税額の軽減措置が、平成25年3月31日まで延長されました。

記載金額 税額

1,000万円以下
1,000万円超5,000万円以下
5,000万円超1億円以下
1億円超5億円以下
5億円超10億円以下
10億円超50億円以下
50億円超

本則通り(省略)
15,000円
45,000円
80,000円
180,000円
360,000円
540,000円


(5)

住宅用家屋の所有権移転登記等の登録免許税の軽減措置の延長
 住宅用家屋の所有権保存登記、移転登記又は住宅取得資金の貸付け等に係る抵当権の設定登記に対する登録免許税の税率の軽減措置が、平成25年3月31日まで延長されました。

種類 本則税率 軽減税率

所有権保存登記
所有権移転登記
抵当権の設定登記

0.4%
2.0%
0.4%

0.15%
0.30%
0.10%


3.相続・贈与税制の改正

(1)
住宅取得等資金の贈与に係る非課税特例制度の見直し
 @直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度、A特定の贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税制度の特例、の両制度について、適用対象となる住宅取得等資金の範囲に、住宅の新築に先行してその敷地の用に供される土地等を取得する場合におけるその土地等の取得のための資金が追加されました。この改正は、平成23年1月1日以後の贈与から適用されます。


4.所得税制の改正

(1)
年金所得者の申告不要制度

 平成23年分の所得税の確定申告から、公的年金等の収入金額が400万円以下の者については、確定申告書の提出を要しないこととなりました。

(2)
金融証券税制の延長

 上場株式等の配当所得及び譲渡所得に対する軽減税率(所得税7%、個人住民税3%)の特例が平成25年12月31日まで2年間延長されました。

(3) 寄附金税制の拡充
認定NPO法人への寄附について、控除率40%(個人住民税10%と合わせて50%)の税額控除が導入されました。また個人住民税の寄付金の税額控除の対象となる寄附金の下限額が5,000円から2,000円に引き下げられました。平成23年の寄附金から対象となります。

5.法人税制の改正

(1)
中小法人の軽減税率の適用期限の延長
 中小企業者等の法人税率の特例(年800万円以下の所得に対して18%の軽減税率)が、平成24年3月31日までに終了する事業年度まで適用されることになりました。
(2)
雇用促進税制の創設
 厳しい雇用情勢のもと、雇用を促進する企業を支援する目的から、雇用者を一定以上増やした企業は、増加した雇用者1人当たり20万円の税額控除ができる制度が創設されました。この制度は平成23年4月1日から平成26年3月31日までに開始する各事業年度について適用されます。

6.消費税制の改正

(1)
免税事業者の要件の見直し
 消費税は、基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下の場合、免税事業者となりますが、免税事業者の要件について次の見直しが行われました。
 個人事業者又は法人の基準期間の課税売上高が1,000万円以下である場合において、特定期間(個人事業者はその年の前年の1月1日から6月30日までの期間、法人はその事業年度の前事業年度の開始の日から6カ月の期間)の課税売上高が1,000万円を超えるときは、事業者免税点の制度が適用されないことになりました。また特定期間の課税売上高に代えて、その特定期間中に支払った給与の額で判定することができます。この改正は、平成25年1月1日以後に開始する課税期間から適用されます。
(2)

仕入税額控除の「95%ルール」の見直し
 課税売上割合が95%以上の場合に課税仕入れ等の税額の全額を仕入税額控除できるいわゆる「95%ルール」については、その課税期間の課税売上高が5億円以下の事業者に限り適用することになりました。この改正は、平成24年4月1日以後に開始する課税期間から適用されます。


※平成23年6月30日に施行された「現下の厳しい経済状況及び雇用情勢等に対応して税制の整備を図るための所得税法等の一部を改正する法律」に基づいて制度の概要を説明しましたが、制度の適用については法令の規定をご確認ください。