住宅ローン控除と居住用財産を譲渡した場合の特別控除との重複適用について

税理士 櫻井 圭一

1.3,000万円控除との重複適用の制限について

(1)重複適用の制限
 個人が、居住用財産を譲渡した場合には、一定の要件を満たす場合、その居住用財産に係る譲渡所得から3,000万円の特別控除を受けることができます(措法35@。以下、単に「3,000万円控除」といいます。)。
 ただし、住宅ローン控除との重複適用については一定の制限が設けられていますので、注意する必要があります。

(2)住宅ローン控除の適用要件(3,000万円控除との関係)

ア 居住の用に供した日の属する年以前3年分について、3,000万円控除の適用を受けていないこと(措法41G)。
 たとえば、同一年中に、従前住んでいた住宅の売却をして新たに住宅を購入する場合において、従前住んでいた住宅の売却につき3,000万円控除の適用を受けた場合には、新たに購入した住宅については、住宅ローン控除の適用はできません。
 この場合、居住の用に供した年分だけではなく、控除可能期間の全期間にわたって控除を受けることができませんので、注意する必要があります。

イ 居住の用に供した日の属する年の翌年又は翌々年に住宅ローン控除の適用を受けた住宅以外の居住用財産につき3,000万円控除の適用を受けていないこと(措法41H)
 では、たとえば、新たに住宅を購入して住宅ローン控除の適用を受けた翌年又は翌々年に、従前住んでいた住宅を売却した場合はどうでしょうか。この場合において、売却した住宅について3,000万円控除の適用を受けたときは、住宅ローン控除を受けることができなくなります。
 この場合もアと同様、居住の用に供した年分だけではなく、控除可能期間の全期間にわたって控除を受けることができなくなります。この場合、前年又は前々年の申告について、住宅ローン控除を受けないものとして税額を計算しなおして、修正申告書を提出することが義務付けられています(措法41の3)。

 以上みたように、住宅ローン控除と3,000万円控除の重複適用については充分注意する必要があります。


2.平成21年及び平成22年に取得した土地等の長期譲渡所得の1,000万円特別控除

 次に、平成21年度の税制改正で新たに創設された1,000万円特別控除の制度について見てみましょう。

(1)概要
 個人が、平成21年1月1日から平成22年12月31日までの間に取得した土地等で、その年1月1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡をした場合には、その年中のその譲渡に係る長期譲渡所得の金額から1,000万円を控除することができます(以下、単に「1,000万円控除」といいます。措法35の2)。
 つまり、平成21年中に取得した土地等については平成27年1月1日以後に譲渡したものについて、平成22年中に取得した土地等については平成28年1月1日以後に譲渡したものについて、1,000万円控除の適用があります。

(2)3,000万円控除との選択適用
 1,000万円控除の特例については、3,000万円控除との選択適用となっています(措法35の2@)。従いまして、1,000万円控除と3,000万円控除を重複して適用することはできません。

(3)住宅ローン控除との重複適用
 では、1,000万円控除と住宅ローン控除との重複適用についてはどうなっているのでしょうか。結論から申しあげますと、本稿執筆時点においては、条文上明確には重複適用の制限が付されていません。
 譲渡所得だけを考えた場合、1,000万円を超えて譲渡所得が発生したのであれば、当然、3,000万円控除を活用する方が税負担の軽減はされるでしょう。しかし、1で見たように、3,000万円控除は住宅ローン控除との重複適用について一定の制限が設けられているので、長い目で見た場合には、必ずしも3,000万円控除の方が税負担が軽減されるとは限らず、あえて1,000万円控除を選択して同時に住宅ローン控除の適用を受けた方が、税負担が軽減されることも考えられます(【設例1】参照)。
 ただし、この点については、今後の税制改正について充分注意を払う必要がありますので、お含みおきください。



(2)消費税率改訂の影響
 さらに、消費税率の改訂の影響もあわせて考える必要があります。
 現状では、平成26年4月1日から消費税率が8%に、平成27年10月31日より10%に改訂される見込みです。一方で、1,000万円控除の影響もあわせて総合的に税負担を考えた方が良いでしょう(【設例2】参照)。たとえば、平成21年中に取得した居住用財産について買換えを行う場合を考えると、【設例2】では、結果的に平成27年1月1日から平成27年9月30日の間に譲渡及び購入をして、1,000万円控除を受けると、税負担の合計としては最も小さくなります(615.7千円)。




 ただし、この点についても、今後の税制改正について充分注意を払う必要がありますので、お含みおきください。

 

(財)大阪府宅地建物取引主任者センターメールマガジン平成25年1月号執筆記事