平成25年地価公示結果について(大阪府内の動向を中心として)

不動産鑑定士  北井 孝彦

1. はじめに
 国土交通省は平成25年の地価公示結果(価格時点1月1日)を、去る3月21日に公表しました。
 ご承知のとおり地価公示価格は国土交通省土地鑑定委員会が委嘱した評価員である全国の不動産鑑定士の鑑定結果を基に公表する毎年1月1日時点の土地の価格です。この制度は都道府県が実施している地価調査(価格時点:7月1日)とあいまって、土地取引等に対して指標を与えるとともに公共事業の用に供する土地に対する補償金額の算定等に資すること等により、適正な地価の形成に寄与することを目的としています。
 また、この地価公示価格と都道府県地価調査価格は相続税や贈与税の算定基準として国税庁が7月に発表する「路線価」や市町村が課税主体である「固定資産税の評価」を定めるための評価作業の主要な指標となっています。
 平成25年度地価公示における調査地点は全国で26,000地点、大阪府内では1,722地点でした。但し、うち原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)により設定された警戒区域内の17地点については引き続き調査が休止されました。なお、本年度より準工業地及び調区内宅地は、住宅地、商業地、工業地のいずれかに再編されました。

2. 全国的な動向
 全国の平均変動率をみると、住宅地がマイナス1.6%(平成24年はマイナス2.3%)、商業地がマイナス2.1%(平成24年はマイナス3.1%)、工業地がマイナス2.2%(平成24年はマイナス3.2%)となっており、依然として下落を示しましたが、下落率は縮小し、上昇・横ばいの地点も大幅に増加し、一部地域において回復傾向が見られています。
 国土交通省地価調査課は今回の特徴を次のとおり整理しています。

【住宅地】

 低金利や住宅ローン減税等の施策による住宅需要の下支えもあって下落率は縮小した。都市中心部における住環境良好あるいは交通利便性の高い地点で地価の上昇が見られ、また、郊外の住宅地でも都心への利便性の高い地点で地価の上昇が見られる。
圏域別にみると、
東京圏は、半年毎の地価動向を見ると後半はほぼ横ばいとなり、神奈川県横浜市及び川崎市を中心として上昇地点が増加し、昨年上昇地点は見られなかった東京都で上昇地点が現れた。
大阪圏は、1年間を通じて下落率が縮小しており、上昇地点も各府県で増加した。
名古屋圏は、半年毎の地価動向を見ると後半上昇基調を強め、この1年では愛知県名古屋市を中心として上昇地点が大幅に増加し、愛知県全体で0.1%上昇となった。

【商業地】

 全都道府県で前年より下落率が縮小した。オフィス系は依然高い空室率となっているものの、新規供給の一服感から低下傾向にあり改善傾向が見られる地域も多く下落率は縮小している。また、店舗系は総じて大型店舗との競合で中小店舗の商況は厳しく商業地への需要は弱いものとなっているが、繁華性のある地域では商業地の希少性もあり上昇地点も見られる。
 主要都市の中心部において、耐震性に優れる新築・大規模オフィスへ業務機能を集約させる動きのほか、拡張や好立地への移転も見られ、優良なオフィスが集積している地域の地点の地価は下げ止まってきているが、中小の古い旧耐震ビルの多い地域は依然需要は弱くなっている。
 また、三大都市圏と一部の地方圏においては、J-REITによる積極的な不動産取得が見られた。その他、堅調な住宅需要を背景に商業地をマンション用地として利用する動きが全国的に見られた。
圏域別にみると、
東京圏は、この1年では住宅地と同様に神奈川県横浜市及び川崎市を中心として上昇地点が増加し、神奈川県全体で0.2%上昇となった。
大阪圏は、半年毎の地価動向を見ると後半はほぼ横ばいとなり、この1年間では各府県で上昇地点が増加し、特に大阪府大阪市を中心として上昇地点が増加した。
名古屋圏は、半年毎の地価動向を見ると後半はほぼ横ばいとなり、この1年間では愛知県名古屋市を中心として上昇地点が増加した。

【東日本大震災の被災地】

 地価公示は、多数の土地取引が行われる地域において価格の指標を与えること等を目的として実施されるものであるので、津波により甚大な被害を受けた地域や原子力災害対策特別措置法により設定された警戒区域等に存する標準地については、調査地点の変更(選定替)あるいは調査を休止した(休止は警戒区域内の17地点)。

 被災地における土地への需要は被災の程度により差が見られるが、復旧事業の進捗や浸水を免れた高台の住宅地等に対する移転需要が高まり地価の上昇地点が見られ、岩手県、宮城県ともに被災した市町村を見ると住宅地、商業地の全体で上昇となった市町村が複数見られた。福島県では住宅地、商業地ともに前年より大幅に下落率が縮小した。


3. 大阪府内の動向

 大阪府内の変動率を見ると住宅地がマイナス0.9%(平成24年マイナス1.5%)、商業地が同マイナス0.5%(平成24年マイナス2.1%)と住宅地商業地ともにわずかの下落に止まり、5年連続の下落であるが下落幅は、住宅地、商業地ともに3年連続で縮小しました。また、上昇地点数は前年よりも大幅に増加しました。
 個別の地点において、上昇地点が前回の30地点より大幅に増加し114地点に横ばい地点が前回の119地点より大幅に増加し355地点となりました。

 住宅地で市区町村別にみると、大阪市中央区1.6%、大阪市福島区1.2%、大阪市阿倍野区と大阪市北区1.0%、大阪市天王寺区と大阪市浪速区 0.7%で変動率がプラスとなっています。
他方、千早赤阪村マイナス 4.7%、豊能町マイナス 3.4%と、やや大きな下落となっています。総じて住環境が良いところや利便性の良い地域では、上昇しています。

 商業地で市区町村別にみると、大阪市阿倍野区1.5%、大阪市福島区 1.1%、大阪市天王寺区 0.9%、大阪市西区 0.8%、大阪市北区 0.7%などで変動率がプラスとなっています。
他方、大阪市西成区マイナス 2.4%、大阪市此花区と堺市堺区マイナス 2.1%の下落となっています。総じて繁華性・商業性の強い地域やマンション用地の需要がある地域では、上昇しています。

※変動率表をクリックすると拡大します。

○ 大阪府の標準地の価格・対前年変動率上位1位・対前年下落率上位1位

  (1) 価格1位      
    住宅地:

天王寺−2
大阪市天王寺区真法院町

54.6万円/u  
    商業地:

大阪北5−28
大阪市北区大深町1番24外

847万円/u  
  (2) 対前年変動率上位1位    
    住宅地:

大阪中央−3
大阪市中央区上町1丁目15番2

2.0%  
    商業地:

大阪北5−29
大阪市北区梅田1丁目2番

4.1%  
  (3) 対前年下落率上位1位    
    住宅地:

茨木−24
茨木市山手台3丁目407番309

△6.1%  
    商業地:

大阪中央5−36
大阪市中央区難波3 丁目

△4.2%  

4.

大阪府内のトピックス(特徴的なこと)

 前記のとおり住宅地で価格が最も高かったのは54.6万円/uの大阪市天王寺区真法院町で、府内では12年連続最高価格地を保っています。変動率はプラス1.1%となっています。
 一方、下落率が最も大きかったのは、茨木市山手台3丁目のマイナス6.1%でした。最寄り駅から遠いことに加え居住者の高齢化、転出が進んだことに起因すると考えられます。
 府下全域を俯瞰すると、利便性に劣る徒歩圏外の住宅地が利便性に優れる徒歩圏内の住宅地に比して高い下落率を示しており、住宅地に対する需要と地価変動の二極化傾向が窺われます。
 震災以降ハザードマップ等の公表影響によって、災害危険性を考慮するなど住宅購入者の意識が変化する兆しがみられていますが、府下全般の住宅需要の選好性に影響する状況には至っていません。

 大阪市の商業地の平均変動率は、前年(△2.4%)より△0.1%と下落率が大きく緩和しました。
 大阪市内では、都心部を中心にマンション用地が払底しているため、商業地域内でマンション転換が可能な土地について上昇・横ばいに転じる傾向が認められる反面、マンション転換が期待できない地域や衰退が進む既存商業地は下落が続いています。オフィス市場では、低稼働にあった新築大型ビルの入居率が概ね改善しており、優良ビルの賃料が一部反転を示す状況になってきています。中小ビルは厳しい状況が続いていますが、徐々に稼働率に改善がみられており、このような点を反映して、業務商業地の下落率も緩和傾向を示しています。

 JR大阪ステーションシティ(JR三越伊勢丹、ルクア、大丸梅田)、あべのマーケットパークキューズモール等 の大型商業施設はオープンから1年以上が経過し、好調を維持しながらも当初の盛況ぶりについては落ち着いてきています。10月に阪急百貨店本店がリニューアルしており、H25年春には北ヤード開発の開業が控える梅田地区では店舗間競合が今後ますます激化していくことが予想されます。

 なお、本地価公示の価格時点は平成25年1月1日ですが、今後安倍政権誕生後の経済政策(アベノミクス)による金融緩和の地価への影響に注目する必要があります。

(参考資料)
・国土交通省 土地水資源局 地価調査課 発表資料
・大阪府地価だより 平成25年3月21日発行 第7号

(一財)大阪府宅地建物取引主任者センターメールマガジン平成25年5月号執筆記事