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ガイドラインの構成
ガイドラインの構成は,原状回復をめぐるトラブルを未然に防止するための方法,賃貸借契約終了時の原状回復義務について基本的な考え方や具体的な負担方法についての基準,紛争解決制度の紹介,Q&A(17問),関連する判例の動向(42事例)となっています。図やグラフ,契約書にそのまま添付できる資料もあり,これを活用しない手はありません。なお,関連するものとして,同じく国土交通省が賃貸借契約書の標準的なひな型として「賃貸住宅標準契約書」を公表していますので,こちらも併せて利用されるとよいでしょう。
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5.ガイドラインの基本的な考え方
(1)原状回復の意味 |
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ガイドラインは,「原状回復」の意味を「賃借人の居住,使用により発生した建物価値の減少のうち,賃借人の故意・過失,善管注意義務違反,その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」としています。普通に使用して発生した損耗等は原状回復の対象ではないということです。建物を使用すれば当然ある程度は汚れたりすり減ったりします。それが建物の使用です。賃借人はこのような建物使用の対価として賃料を支払います。賃貸人はその建物使用を認めて対価として賃料を受け取るのですから,使用に伴う汚れやすり減りなどは当然その賃料で修繕すべきことになります。「(通常の)使用」と「賃料」とが見合っているのです。この基本的な考え方は判例も同じですので間違いのないようここで確認しておきましょう。他方,賃借人が原状回復義務を負うのは故意・過失,善管注意義務違反や,通常の使用を超えるような使用による損耗などです。
ガイドラインでは,この基本的考え方を前提にさらに場合を分けます。@基本類型は,普通に利用していても日照などにより発生するクロスの変色のようなものです(通常損耗)。これは前述のとおり賃貸人負担です。A次に,この通常の使用によるもののうち,賃借人のその後の手入れ等管理が悪かったために発生,拡大した損耗・毀損という類型を設けて,それについては逆に賃借人が原状回復義務を負うべきだと示しています。
例えば,同じ壁の汚れでも,壁の結露を放置したことにより拡大したカビ・シミというような場合です。Bさらに賃借人の使い方次第で発生したりしなかったりする損耗・毀損という類型(通常の使用の結果であることが明らかだとは言いきれない類型)等も設けています。ガイドラインにはこのような典型的な例を,床,壁,天井,建具等の部位ごとに示しているので,とても参考になります。 |
(2)原状回復の範囲 |
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賃借人が原状回復義務を負担する場合でもその範囲が問題になります。例えば,5年間の通常使用でも,その5年分だけクロスが汚れて価値がそれだけ下がります。その下がった分は通常使用に対して家賃をもらっている賃貸人の負担です。それなのに,もしその5年後に賃借人が新品のクロス代金を負担させられたなら,5年の価値下落分について賃貸人が得をすることになります。賃借人としては,「5年使用した中古のクロス」購入代金を支払えば足りるはずですが,そのような中古品を売っている店もなく,相場(市場価格)がわかりません。その結果どこまで負担するかでトラブルになるのです。
ガイドラインは,この点,減価償却資産の耐用年数を参考に対象物件の価値が少しずつ下がっていくことをわかりやすくグラフ化しています。例えば,耐用年数6年であれば,借りた当日は新品のものを賃借人が回復することになるので賃借人100%負担(賃貸人0パーセント),そこから年数が経過すれば徐々に価値が下がっていき,3年後には賃借人負担割合約50%,最終の6年後には1%(これが最低割合)というようにどんどん賃借人の負担割合が減っていくようにしており,賃貸人と賃借人とで公平に負担ができます。 |
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6.ガイドライン活用の具体的場面
(1)契約締結前 |
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原状回復については,借りる前から物件が傷んでいたかどうかが争いになることがあります。契約前に当事者でよく現地確認をし,平面図に記入したり写真を撮影しておくのが良いでしょう。ガイドラインには「入居時の物件状況および原状回復確認リスト」が例示されており,各場所ごとの契約開始時の損耗状況や交換年月等を具体的に記録することができます。このリストには退去時の現地確認の時に記載する欄もありますので,両方を比較すれば賃貸後の損耗がどこにどの程度発生したのかが把握できます。 |
(2)契約締結時 |
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賃貸借契約書の原状回復条項に,ガイドラインの内容の全部または一部を含めることもできます。そのようにすれば契約自体の拘束力が発生します。もちろん,契約の一部にするのですから,当事者双方が同ガイドラインの内容を十分に理解していることが不可欠です。同ガイドラインには契約書に添付できるよう「賃貸人・賃借人の修繕分担表」「賃借人の負担単位」「原状回復工事施工目安単価」の表なども示されています。 |
(3)契約終了時 |
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原状回復工事費用を賃借人に請求した際,賃借人が「明細も知らされず,よくわからない金額だけを請求された。不当ではないか。」と不信感を抱いてトラブルになるケースもあります。ガイドラインでは「原状回復の精算明細等に関する様式」という表を示し,対象箇所,修繕内容,原状回復工事費用(単価・単位・量・金額)賃貸人・賃借人の各負担割合等を明記する書式を示しています。これを利用すればそのような金額となった経緯がよくわかりますので,賃借人の不信感が生じることも防げます。 |
(4)紛争発生時 |
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紛争が発生してからでも,ガイドラインが解決の基準となることは前述のとおりです。
以上のとおり,ガイドラインを有効活用すれば紛争防止につながります。 |
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大阪府「賃貸住宅の原状回復トラブルを防止するために」
以上のような内容のガイドラインですが,行き届いている分,一般の賃借人の方にとっては詳しすぎる部分もあります。大阪府では,「賃貸住宅の原状回復トラブルを防止するために」という冊子と,その「概要版」(A4・4頁)というリーフレットを作成しています。このリーフレットでは,ガイドラインと同じ原状回復の基本的考え方や,トラブル防止の手順がイラストや写真入りでわかりやすく説明されています(「大阪府」「原状回復」で検索できます)。大阪府では,平成25年からこのリーフレットを契約締結時に賃貸人または宅地建物取引業者から賃借人に交付して説明をする取り組みを進めています。とても使いやすいものですので是非ご活用ください。
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以上 |