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1. |
はじめに
平成27年1月1日より、いよいよ相続税が増税となります。増税につながる相続税の改正点は、@基礎控除の引下げと、A税率の見直しがあげられます。以下では、その改正点につき、なぜそのような改正がされることとなったのか、どのような改正になるのか、またどのような影響が考えられるのかといった点につき、わかりやすく解説することとします。
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2. |
相続税はなぜ課税されるのか
相続税は、人の死亡によって、その死亡した人の財産が配偶者や子などに移転する機会に、その財産に着目して課される税金です。一般の人から見ますと、人がその努力によって生前に財産を残し、これを子などに残そうとすることは当然の心理であって、どうして相続税が課税されるのか疑問に思われるかもしれませんが、そこには次のような理由があるのです。
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所得税の補完機能 |
死亡した人は、財産を蓄積する過程で、毎年所得税を課されています。しかし、税制上の特典を受けたり、あるいはその当時の税制では課税がされなかったりすることもあるため、これを死亡の時点で清算するという考え方です。 |
A |
富の再分配・格差是正機能 |
もし、相続税が課税されないとなると、富裕層の財産はそのまま子などに移転されることとなります。そうすると、貧富の格差は固定化し、あるいは拡大することにつながります。そこで、その財産の一部を税として徴収することで、富の過度の集中を抑制し、社会に対し富を再分配するという考え方です。
また最近では、人が生涯にわたり社会から受けた給付に対応する負担を、死亡時に清算するという考え方から、その一部を社会に還元することによって、給付と負担を調整するという考え方が強くなっています。
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3. |
改正の経緯
財務省の資料によると、平成23年の死亡者数1,253,066人に対し、相続税の申告者数は51,559人であり、その課税割合は4.1%となっています。前述の機能から考えて、どの程度の割合であれば妥当であるかは議論の分かれるところではありますが、そうとはいえ、4.1%というのは、特に富の再分配・格差是正に対し、十分機能しているとは言い難い状況です。
この趣旨については、平成23年度税制改正大綱(平成22年12月閣議決定)が、次のように明示しています。
「相続税は格差是正・富の再分配の観点から、重要な税です。相続税の基礎控除は、バブル期の地価急騰による相続財産の価格上昇に対応した負担調整を行うために引き上げられてきました。しかしながら、その後、地価は下落を続けているにもかかわらず、基礎控除の水準は据え置かれてきました。そのため、相続税は、亡くなられた方の数に対する課税件数の割合が 4 %程度に低下しており、最高税率の引下げを含む税率構造の緩和も行われてきた結果、相続税の再分配機能が低下しています。地価動向等を踏まえた基礎控除の水準調整をはじめとする課税ベースの拡大を図るとともに、税率構造について見直しを図ることにより、相続税の再分配機能を回復し、格差の固定化を防止する必要があります。」
今回の改正は、この考え方に基づくものです。 |
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4. |
改正点
(1)基礎控除の引下げ
相続税の基礎控除は、昭和63年以降、特にバブル期の地価高騰等を背景に、数回にわたり引き上げられてきました。ところが、その後、地価がバブル期以前の水準にまで下落したにもかかわらず、基礎控除が据え置かれたままであったために、相続税の課税割合が大幅に低下する原因となっていました。そこで、今回相続税の基礎控除が引き下げられることとなったのです。
具体的には、次の表をご参照ください。
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改正前 |
改正後 |
定額控除 |
5,000万円 |
3,000万円 |
法定相続人比例控除 |
1,000万円×法定相続人の数 |
600万円×法定相続人の数 |
仮に、相続人が配偶者と子2人の場合、
・ 改正前 5,000万円 + 1,000万円 × 3人 = 8,000万円
↓
・ 改正後 3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円
▲ 3,200万円(40%減)
の基礎控除額が引き下げられる、つまりその分増税になるのです。なお、この引下げ後の基礎控除の水準については、財務省ホームページ「平成25年度税制改正の解説」において、昭和50年から62年まで適用されていた水準(定額部分2,000万円、比例部分400万円)を当時からの物価・地価の変化率で現在価値に修正し、定額部分3,000万円、比例部分600万円とした、と説明されています。
(2)税率構造の見直し
次に、税率構造が見直されました。その内容は、@相続税が所得税の補完機能を有することから、今後所得税が住民税と合わせて最高税率が55%に引き上げられることとの整合性をとるため、最高税率を55%に引き上げる、及び、A富の再分配機能を回復させるため、高課税価格帯である40%、50%の税率区分層を増加させる、というものです。
具体的には、次の表をご参照ください。
各法定相続人の取得金額 |
税率 |
改正前 |
改正後 |
10% |
1,000万円以下の部分 |
1,000万円以下の部分 |
15% |
3,000万円 〃 |
3,000万円 〃 |
20% |
5,000万円 〃 |
5,000万円 〃 |
30% |
1 億円 〃 |
1 億円 〃 |
40% |
3 億円 〃 |
2 億円 〃 |
45% |
― |
3 億円 〃 |
50% |
3 億円超の部分 |
6 億円 〃 |
55% |
― |
6 億円超の部分 |
なお、贈与税の税率構造についても、贈与税が相続税の補完税であることを踏まえ、相続税の見直しに準じて、その税率構造が見直されています。ご注意ください。
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5. |
改正の影響
今回は、増税のための改正ですから、対象者が相当数増加することは間違いありません。その場合、次の点に注意する必要があります。
(1)財産の評価が必要となる場合
先の例でいえば、8,000万円までの財産であれば、納税義務は発生せず、申告そのものが不要でしたが、今後は、基礎控除額が4,800万円まで引き下げられたことによって、納税義務があるかないかを判定するため、多くの者がとりあえず相続財産の評価をすることになりそうです。ところが、この評価はある程度の専門的知識が必要であり、一般の方には難しい点もあると思われます。
また、相続財産が基礎控除額を超える場合には、その超える額(これを課税遺産総額といいます)に課税されることとなるのですが、例えば配偶者の税額軽減といった措置が設けられており、実際には相続税がかからない場合もあります。このような措置についても知っておく必要があります。
いずれにせよ、影響があると思われる方は、早めに専門家等に相談されることをお勧めします。
(2)相続時精算課税制度を既に適用している場合
少し専門的になりますが、相続税と贈与税の一体化措置として、平成15年度から相続時精算課税制度が導入されています。この制度は、現行65歳以上の親から(平成27年1月1日からは60歳以上)、20歳以上の子(平成27年1月1日からは20歳以上である孫も含まれます)への贈与については、相続時精算課税度を選択することにより、贈与時に2,500万円の贈与税の非課税枠が設けられるというものです。
ただ、この制度はあくまで贈与税における非課税枠であり、贈与者が死亡した際には、相続税で精算することを失念してはなりません。つまり、今は贈与税が課税されなくても、相続税が課税される場合があるということです。この制度の具体的なしくみは、贈与者である親が死亡した際に、その相続財産に、贈与財産を加算して相続税を計算するというものです。基礎控除額の引下げは、この相続時精算課税制度を選択した者にも影響を及ぼしそうです。次の具体例を見てください。
【具体例】
父親がこの制度を使い、子3人にそれぞれ2,500万円を贈与し、その後死亡したケース(なお、他の相続財産はないものと仮定する)。
・改正前
2,500万円 × 3人 = 7,500万円 < 8,000万円 ∴相続税課税なし
・改正後
2,500万円 × 3人 = 7,500万円 > 4,800万円 ∴相続税課税あり
このように、改正前に相続税が課税されないと考えて、この制度を選択した者であっても、改正後は相続税が課税される可能性があるのです。また、注意すべきは、その贈与財産を既に使ってしまった場合であっても、相続税を納付しなければならないという点です。
相続時精算課税制度は、一度選択すると、それを止めることはできません。こちらも、ご心配のある方は、専門家等への早めの相談をお勧めします。
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(一財)大阪府宅地建物取引主任者センターメールマガジン平成26年6月号執筆分
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