平成27年路線価について


不動産鑑定士  横井 敬史

 
1.はじめに
   国税庁は、平成27年7月1日に、平成27年分の路線価を発表しました。
 この路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額のことであり、路線価が定められている地域において、相続、遺贈又は贈与により取得した財産に係る相続税及び贈与税の財産を評価する場合に適用します。国土交通省が毎年3月に発表する公示地価をベースに、売買実例や不動産鑑定士の意見を踏まえて算出されており、路線価は公示地価の約8割の水準となっています。この路線価の各地区詳細等は、国税庁ホームページで閲覧することができます。なお、これまで直近3年分の掲載でしたが、昨年から直近 7年分が表示されるようになっています。路線価図には1平方メートルあたりの単価が千円単位で表示されていますので、たとえば図中に「200」とあればその単価が20万円ということになります。
(国税庁の路線価閲覧ページ:http://www.rosenka.nta.go.jp/

 公的機関が公表する地価には、この路線価の他にも、国土交通省による地価公示、都道府県による地価調査、市区町村による固定資産税評価額があり、その内容や役割はやや異なりながらも、例えば路線価の算定に当たっては地価公示価格を主要な指標とする等、それぞれが密接な関わりを持っています。(【表1】参照)。

【表1】公的評価比較表
種類 地価公示 地価調査 相続税路線価 固定資産税評価額
公表主体 国土交通省 都道府県 国税庁 市区町村
目的 適正な地価形成 国土法審査基準 課税基準 課税基礎
価格時点 1月1日 7月1日 1月1日 1月1日
公表時点 3月下旬 9月下旬 7月初旬 4月初旬
価格水準 概ね時価 概ね時価 公示価格の80% 公示価格の70%
カバーエリア 都市計画区域その他の土地取引が相当程度見込まれるものとして国土交通省令で定める区域 都道府県全域 市街化区域 市区町村全域

 なお、地価公示、地価調査、固定資産税評価額は、敷地そのものについての価格を算出しますが、路線価は一定の距離をもった路線(道路)に対して価格が決められます。つまり、その路線に面する宅地の価格はすべて同じという考えかたで、個々の敷地における価格はその規模や形状などに応じて補正をします。都市部の市街地では、ほぼすべての路線に対して価格が付けられるため、その基礎となる調査地点(標準宅地)の数は全国で約33万地点に及びます。

2.全国の地価動向
   全国約33万地点の標準宅地は平均で前年比0.4%マイナスとなっており、2008年のリーマン・ショック以降、7年連続の下落となっていますが、下げ幅は前年より0.3ポイント縮小しており、金融緩和や円安で国内外の不動産投資が活発化し、景気が上向いたことなどの影響を受け、大都市を中心に地価の回復傾向がより鮮明になっています。都道府県別にみると、上昇したのは昨年の8都府県から10都府県に増加しています。昨年も上昇した宮城、福島、埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪に加え、京都と沖縄が上昇に転じています。滋賀、福岡は横ばいとなっており、残る35道県の大半は下げ幅が縮小していますが、北海道、島根、大分、宮崎、鹿児島の5道県では下げ幅が拡大しました。東日本大震災の復興が進む宮城、福島や、2020年東京五輪・パラリンピック会場となる臨海部や都心部で再開発が進む東京は上昇傾向が加速する一方で、地方圏では人口減少や高齢化が進み、地価の低迷傾向が続く地域も多く、二極化が鮮明になっています。
 なお、全国の最高路線価は1986年から30年連続で東京・銀座中央通りにある文具店「鳩居堂」前の 26,960千円 (前年比14.2%)でした。
 また、都道府県庁所在地の最高路線価をみると今年は21都市(前年は18都市)が上昇しまた。東京、名古屋、大阪、広島の四都市は上昇率が10%を超え、さいたま、横浜、金沢、京都、岡山、福岡の6都市も5%を超えています。一方で、新潟、大分、徳島、宇都宮、水戸、高知、山形、山口、秋田では下落幅を拡大させており、ここでも二極化が見られています。(【表2】参照)。
 なお、平成27年1月1日現在において、原子力発電所の事故に関する「帰還困難区域」、「居住制限区域」、及び「避難指示解除準備区域」に設定されていた区域内にある土地等については、路線価等を定めることが困難であるため、平成26年分と同様に、相続税・贈与税の申告に当たり、その価額を「0」として差し支えないこととされています。

【表2】平成27年分都道府県庁所在都市の最高路線価


3.大阪府内の地価動向
 

 大阪府内では、「あべのハルカス」、「うめきた」エリアの大規模開発による波及効果が続いています。府内での上昇率1位は「あべのハルカス」エリアの天王寺区悲田院町(谷町筋)で12.8%の上昇であり、「うめきた」エリアの北区大深町の「グランフロント大阪」前では10.3%の上昇が見られます。その他目立った動向としては、訪日外国人増加等の影響を受け、繁華街の御堂筋、難波の上昇が見られます。
また、新たな傾向としては、昼間人口が減り、夜間人口が増えている市内中心部での上昇が目立っています。オフィス需要が梅田や淀屋橋といった御堂筋沿いにシフトしていることにより、オフィス移転によって市内中心部に空き地が生じ、そこに分譲・賃貸マンションの建設が活発に行われ、職住接近傾向が強まっています。
なお、大阪の最高路線価は1984年から32年連続で北区角屋町の「阪急百貨店」前の 8,320千円 (前年比10.1%)でした。

【表3】平成27年分の大阪国税局各税務署管内の最高路線価



4. 今後の動向

   地価が上がれば保有不動産の資産価値が上がるというメリットもありますが、その一方で、路線価額が上昇すれば課税標準額も上がりますので、固定資産税等の負担が増加するデメリットもあります。特に、今年1月の税制改正により、相続税の非課税枠となる資産の基礎控除は「5000万円+1000万円×法定相続人の数」から「3000万円+600万円×法定相続人の数」に引き下げられたことにより、影響を受ける人は増えています。財務省によると、基礎控除額の引き下げの結果、課税対象となる割合は改正前の4.2%から6%程度に増える予想とのことです。
 今年3月に発表された地価公示でも三大都市圏で2年連続の上昇となったように、近年ではアベノミクスの影響を受け、緩やかな景気回復とともに地価も上昇傾向にあります。日本国内をみると、2020年の東京オリンピック・パラリンピックやリニア中央新幹線開業への期待感から、景気回復への期待感もさらに高まっているとも言えます。ただし、都市部での活発な不動産投資は一部過熱感が出ており、今後の地価上昇の勢いが鈍る可能性があるほか、今回の路線価においても土地需要が増えている都市部と、過疎化が進んでいる地方との二極化が顕著に表れています。アベノミクスの第三の矢「成長戦略」でも地方創生は大きなテーマになっていますが、今後どのように地方創生を進めていくのかを中長期的な視点で見ていく必要があります。また、中国経済をはじめとした海外景気の下振れは、日本の景気を下押しするリスクが高く留意が必要です。9月には都道府県により平成27年度の地価調査価格(価格時点:7月1日)が公表される予定となっており、その時点ではまだ地価は上昇傾向を示しているものと思われますが、その後の地価動向については予断を許さない状況にあると言えます。不動産所有者にとっては、今後も国内の動向・海外の動向等などの外部要因も踏まえ地価動向に注視し、土地活用・不動産移転等のタイミングを見極める必要があるでしょう。

 (参考資料)
   国税庁HP
   大阪国税局HP
以 上

平成27年8月号(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン執筆分