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事案の概要
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(1) |
平成24年9月12日頃、Y(被告)とその妻Gは、銀行担当者Dから不動産業者のEを紹介され、Eから相続対策用の不動産購入のセールスを受けた。
相続対策の内容は、銀行から資金を借り、賃貸物件として不動産を購入するというものであった。 |
(2) |
同年9月下旬頃、YとGは現地を訪れた際、土地に接する隣地の私道通路部分(隣地通路部分)に長さ1m程度の太い杭が打たれていることに気づいた。 |
(3) |
同年9月28日、GはEに、隣地通路部分の通行の可否と境界承諾書の所得の有無の確認を依頼した。 |
(4) |
同年10月1日、Yは、不動産を2億2500万円で購入する旨の記載のある「不動産取纏め依頼書」をEに交付した。
依頼書には、「売主の承諾が得られ次第、売買契約の締結を致します。」との記載と契約予定日の記載があった。 |
(5) |
同年10月11日、GはEから重要事項説明を受けた際、境界承諾書は取得できていないと聞いた。
Yはこれを聞き、不動産は第三者に賃貸予定であるため、通行をめぐってトラブルになるおそれがあると考え、購入を見送る考えを固めた。 |
(6) |
同年10月12日、Yは境界承諾書を入手できないなら取引はしない旨をEに告げた。
また、10月15日にDに、16日にはEに、売買契約をしない旨を改めて伝えた。 |
(7) |
同年10月15日、X(原告)はCと、不動産を2億1500万円で購入する旨の売買契約を締結した。 |
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その後、XはYに対し、債務不履行及び不法行為による損害金として違約金転売利益分等の合計3393万円余を請求した。
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2 |
判決の要旨 Xの請求を棄却
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(1) |
売買契約の成否等について
以下の理由から、依頼書は不動産の購入を希望する意向を示したものに過ぎず、依頼書をもってXY間で不動産売買契約に関する合意が成立するに至っていたとは認められず、売買契約が成立していたと認めるに足りない。 |
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不動産売買に関するXY間の上記の交渉経過 |
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A |
Yは銀行から融資が受けられることを前提として購入を検討していたにとどまる上、依頼書差入れの時点でYが融資手続を行っていた形跡もうかがわれない
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(2) |
YのXに対する契約締結上の過失の有無について
以下のように述べて、Yに契約締結に努めるべき信義則上の義務があったと認めることはできないとした。 |
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@ |
XがCとの契約を締結したのはEから同日までに契約を成立させておく必要がある旨の申し入れがあったためであり、他方、YからX又はEに対し、XY間の契約に先立ってXC間の契約書を提示するように求めた事実はうかがわれない |
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A |
Yは当初から、隣地通行部分による通行の可否及び隣地所有者との紛争のおそれについて懸念を示していたもので、Yの不安が払拭されなかったことが契約締結に至らなかった最大の理由である |
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B |
上記のようなYの意向は、Eにおいても十分認識していた上、Yとのやりとりについては逐次、EからXに対して報告されており、XもYの要望等を認識していた |