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賃貸人Xは、賃貸マンション一棟を所有していたところ、賃借人亡Aとの間で、平成18年2月25日、この賃貸マンションの一室(本件賃貸物件)を月額賃料10万円(毎月27日限り翌月分払)で賃貸する旨の賃貸借契約を締結し、同年3月11日に亡Aは本件賃貸物件に入居しました。
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(2) |
入居から10年後の平成28年に至り、亡AからXに対する4月分・5月分の賃料の支払がありませんでした。そこで、Xは、5月20日、警察官及び亡Aの兄であるBと共に、本件賃貸物件に立ち入りました。すると、亡Aは、本件賃貸物件内の布団で死亡していました。死因は不明でしたが、検視の結果、推定死亡日時は3月9日頃であることが判明しました。遺体発見が遅れ、死亡後約2か月半が経過していたため、布団から腐敗物が床に染み出していました。
なお、Xは、本件賃貸物件への立ち入りの際に、亡Aが本件賃貸物件内で亡くなっている可能性があると考え、混乱を避けるために、隣室住人に対し、あらかじめ避難してもらうための費用として5万円を支払いました。また、Xは、同居している母親をデイサービスに預けて約1万円を支払いました。
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(3) |
亡Aには配偶者及び子はなかったため、父Y1と母Y2が法定相続人でした。Xは、亡Aの父母Yらから、応急の原状回復としてフローリングの一部撤去、ベニヤ板設置費用、敷居汚れ除去費用約3万円を支払ってもらいましたが、それ以上の支払はありませんでした。遺体が2か月半放置されたことにより屍臭が残るなどしたため、大がかりな原状回復工事を要することとなり、Xは約63万円の原状回復費用を支出しました。
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(4) |
Xは、この賃貸マンションの別の部屋に新規入居する者2人から、遺体発見直後であることを理由に礼金と共益費の減額を請求され、その減額に応じざるを得ませんでした。その減額した金額は合計約22万円です。
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(5) |
Xは、亡Aの相続人である父母Y1・Y2に対し、6月28日到達の書面で原状回復費用や立ち入りに要した費用、減額を要求された費用などを請求をしましたが、支払はありませんでした。
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(6) |
その後、Yらは、11月28日、亡Aについて家庭裁判所に対し相続放棄の申述をしました。
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(7) |
Xは、Yらに対し、亡Aの死亡に伴い発生した損害などの金銭を請求する訴訟を提起しました。Xが請求した主張内容及び請求額の概略は次のとおりです。
ア 未払の賃料相当損害金明渡済みまで1か月10万円の割合
イ 原状回復費用約63万円
ウ その他の損害約65万円
亡Aは、本件賃貸物件内での自死又は病死等の予見可能な死を回避し、原告に損害を生じさせないようにする善管注意義務を負っていたのにこれを怠り、次の(ア)〜(ウ)の損害の合計金約85万円を発生させたから、そこから敷金20万円を差し引いた残額約65万円を請求する。
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(ア) |
立ち入りに要した損害約6万円(隣室住人への支払金5万円及びXの母のデイサービス費用約1万円。上記(2)) |
(イ) |
礼金と共益費の減収約22万円(上記(4)) |
(ウ) |
今後の本件賃貸物件の空室による逸失利益約57万円(今後約1年分の賃料の半額相当額) |
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