(1) |
事案の概要 |
ア) |
平成24年11月,賃貸人X(法人)は,賃借人Y(個人)との間で,下記内容の建物賃貸借契約を締結し,引き渡した。
記
@月額賃料 56,000円
A賃貸期間 2年
B更新特約 当事者協議の上,Yが賃料1か月分の更新料を支払うことにより更新できる
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イ) |
平成26年10月,XはYに対し,更新する場合は賃料1か月分の更新料を支払う必要がある旨を記載した通知書を送付した。Yは,通知書に同封されていた回答書用紙において,更新を希望する旨のチェック欄にチェックを入れて返送した。
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ウ) |
その後,XはYに対し,再三,上記の第1回の更新料の支払いを求めたが,口頭弁論終結時までの2年9か月あまり,Xは支払いに応じなかった。
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エ) |
平成28年10月,契約上の第2回の更新時期に先立ち,Xは,第1回の更新料に加えて,賃料1か月分の第2回更新料を合わせて支払わない限り,更新するつもりはない旨通知した。この後も,Yは,賃料を支払い,建物の使用を継続したが,支払い催告を受けても口頭弁論終結時までの9か月あまり,更新料の支払いをしなかった。
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オ) |
そこで,平成29年6月,Xは,@2回分の更新料の支払い,A本件建物明渡,を求めて訴えを提起し,訴状において,本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
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カ) |
訴訟において,Yは,更新料の支払いをしないのは,Xが更新後の契約書の交付をしないこと,本件建物の鍵を修理してくれないこと,共用部分の掃除をしてくれないことが原因であり,今後も契約書の交付がなければ更新料を支払うつもりはない,本件契約は法定更新になっているから更新料の不払いは解除事由にならない,などと主張して争った。
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キ) |
本件のXY間には,賃料等保証委託や火災保険の加入をめぐっても意見対立がある。
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(2) |
裁判所の判断
裁判所は,次のように判示し,Xの請求をすべて認めた。
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更新料の支払い義務(更新特約に基づく更新の有無) |
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第1回更新の前後を通じて,Xは第1回更新料の支払いを求めており,Yも更新特約に基づいて更新を行う旨の意思を表明したから,第1回更新は更新特約に基づいて行われた。
第2回更新の前後を通じて,Xは第2回更新料の支払いを求めており,Yとしても,第2回更新料の支払い債務が発生していることを前提に,Xの対応が改善されない限り,債務を履行する意思がないことを表明しているから,当事者の合理的意思解釈としては,第2回更新は更新特約に基づいて行われた。
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A |
明渡義務(信頼関係破壊の有無) |
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更新料の不払いは,不払いの体様,経緯その他の事情からみて,XY間の信頼関係を著しく破壊すると認められる場合には,更新後の賃貸借契約の解除原因となりうる(最判S59.4.20民集38-6-610判例タイムス526-129ほか)。
本件では更新料の不払いが相当長期に及んでおり,不払いの額も少額ではないこと,Yの主張する支払わない理由には法的な根拠がなく,したがってYは合理的な理由なく不払いをしており,今後も不払いが任意に解消される見込みは低く,XY間の協議でその解消を図ることも期待できないことなどに照らすと,本件更新料の不払いは賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤を失わせるに足りる程度の著しい背信行為である。
よって,本件更新料の不払いは,無催告解除の原因となり,本件賃貸借契約は終了しているから,Yは本件建物を明け渡す義務を負う。
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