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法令違反についての説明義務
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本件重要事項説明書には「東西南北の隣接地(道路を含む)とは高低差があります。土留めのブロック塀・擁壁には土圧でひび割れや傾きの可能性もあります。」と記載されていました。
この記載は、本件土地の物理的な状況を記述するものであり、物の性状の瑕疵(擁壁にゆがみがあったこと) の説明としては足りているが、法令(都がけ条例)違反状態の説明にはなっていないというのが裁判所の判断です。
本事案では、Y2 担当者は本件建物が都がけ条例に違反しており検査済証も取得していないことを知っていたのに、重要事項説明書に記載していませんでした。
Xが本件建物の法令違反状態をY2、Y3から適切に説明されていれば、法令違反状態解消のために要する費用をあらかじめ売買代金に反映するなどして不測の出費を避けることができたはずです。
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擁壁の性状の瑕疵についての説明義務
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一方で、本事案では北側および西側の擁壁の膨らみによる補修工事費用については損害賠償請求が認められませんでした。「擁壁には土圧でひび割れや傾きの可能性もあります」との説明により、Xは擁壁補修工事の費用負担については予測できたということでしょう。
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他の裁判例@ 〜 東京地判H29.9.12
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同じようながけ地の売買の事例で、宅建業者の説明義務違反を認めなかった裁判例を紹介します。
当該事例では、売買契約特約及び重要事項説明書に、「買主は、本物件敷地内と隣接地・道路面との間に高低差があるため、建物を再建築する際には関係行政庁より本物件に対し、擁壁工事・建物基礎工事・建物の配置等につき指導を受ける場合があること及び、本物件南側の擁壁は検査済証が発行されていないことを了承の上、本物件を買い受けるものとします」と記載されていました。
裁判所は、本件南側擁壁に瑕疵が存する蓋然性について買主は十分な説明を受けており、宅建業者らに説明義務違反はないと判示しています。
擁壁について、行政庁より指導を受ける場合があることや、検査済証が発行されていないことを知っていれば、擁壁補修工事の費用負担については予測できたということでしょう。
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他の裁判例A 〜 東京地判H 24.5.31
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がけ条例の適用の可能性のみ指摘し、当該土地にがけ条例の適用があるのかどうかはっきり説明しなかった事例で、宅建業者である売主及び仲介業者に追加建築費用等総額約1000万円の損害賠償が命じられた裁判例を紹介します。
当該事例では、売買契約書及び重要事項説明書に「本物件は、東京都安全条例第6条(がけ条例)の適用を受ける場合があります」と記載されており、買主からがけ条例の適用の有無を聞かれた仲介業者は「正確にはわからない。売主に聞いて欲しい。」、売主は「適用はあっても問題なく対応可能」と返答していました。
買主は、当該売買にあたり予算を設定しており、予算を超えるような事由の有無について強い関心があったため、がけ条例の適用について宅建業者である売主や仲介業者に確認したのでした。
結局、がけ条例の適用があったことにより買主に不測の費用負担が発生してしまい、宅建業者らは説明義務違反による損害賠償責任を負うことになりました。
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まとめ
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上記の複数の裁判例からすると、宅建業者は買主に不測の費用負担が発生しないように調査のうえ説明しなければならないということになるでしょう。
特に、がけ条例が問題となる事例では、宅建業者の説明義務違反が認められると損害賠償額が多額になる傾向があるので注意が必要です。がけ条例(千葉県)に基づく法律上の制限があることを重要事項説明書に記載していなかったため、売主の宅建業者が総額1億円を超える損害賠償を命じられている例もあります(東京地判H23 .4 .20)。
一方、一級建築士による擁壁の安全性の調査を信頼してそれ以上の調査をしなかった仲介業者について、調査・説明義務違反はないと判示した裁判例もあります(東京地判H29.12 .26)。
がけ地の売買にあたっては、適宜、建築士等の専門家の判断を仰ぐことも、損害賠償のリスクを減らすために有用といえるでしょう。
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