『2019年度税制改正のポイント(住宅・不動産関連税制について)』


税理士 武智 寛幸

1 はじめに

 消費税率の引上げに伴う対応、デフレ脱却と経済再生の実現、国際的な租税回避への効果的な対応等の観点から、2019年度の税制改正が行われました。
 今回は、2019年度税制改正のうち、住宅・不動産関連税制の改正点を解説します。

2 土地住宅税制の改正

(1) 住宅ローン控除等の拡充
@ 改正内容
   2019年10月1 日より消費税率が10%に引き上げられる予定であることから、住宅ローン控除の拡充措置が設けられました。具体的には住宅ローン控除の期間を3 年延長し、最長13年間の控除が可能となります。
A 適用要件
   取得等した住宅に係る消費税率が10%であり、かつ、2019年10月1 日から2020年12月31日までの間に居住を開始した場合
B 住宅ローン控除額(一般住宅の場合)
  (イ) 1 〜10年目(年間最大控除額40万円)
     住宅ローンの年末残高(4,000万円を限度とし、年末残高より住宅の取得等の価格が低い場合は、住宅の取得等の価格となります。)× 1 %
  (ロ) 11〜13年目(年間最大控除額26.66万円)
    次のうち、いずれか少ない金額
  • 住宅ローンの年末残高(4,000万円を限度とし、年末残高より住宅の取得等の価格が低い場合は、住宅の取得等の価格となります。)× 1 %
  • 建物購入価格等× 2 %÷ 3
   認定住宅の場合は上記の「4,000万円」が「5,000万円」に、年間最大控除額は「40万円」が「50万円」に、「26.66万円」が「33.33万円」となります。
C 適用開始時期
   この改正は2019年10月1 日から2020年12月31日までの間に居住の用に供した場合に適用されます。

(2) 空家の譲渡所得の3,000万円控除の特例の拡充、延長
@ 改正内容
   空き家の譲渡所得の特例については、相続の開始直前において被相続人以外に居住していた者がいない家屋が対象とされていましたが、老人ホーム等に入所していた場合においても一定の要件を満たすときは、本特例の対象となります。
 また、本特例の適用期限が4 年延長され、2023年12月31日までとなりました。
A 適用要件
  次のいずれの要件も満たす場合
  (イ) 被相続人が介護保険法に規定する要介護認定等を受け、かつ、相続の開始直前まで老人ホーム等に入所していたこと。
  (ロ) 被相続人が老人ホーム等に入所をした時から相続の開始直前まで、その家屋について、その者による一定の使用がなされ、かつ、事業の用、貸付けの用又はその者以外の者の居住の用に供されていたことがないこと。
B 適用開始時期
   この改正は2019年4 月1 日以後に行う被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡について適用されます。

(3) 小規模宅地等の特例の見直し(特定事業用宅地等の範囲の見直し)
@ 改正内容
   被相続人が事業の用に供していた特定事業用宅地等については、相続税評価額が80%減額(上限面積400u)される措置がありますが、今年度の改正により、相続開始前3 年以内に事業の用に供された宅地等が特定事業用宅地等の範囲から除外されました。
A 特定事業用宅地等の範囲から除外となる宅地等
   相続開始前3 年以内に事業の用に供された宅地等は特定事業用宅地等の範囲から除外されます。
 ただし、その宅地等において事業の用に供されている減価償却資産の価額が、その宅地等の相続時の価額の15%以上である場合には除外とはなりません。
B 適用開始時期
   この改正は、2019年4 月1 日以後の相続等により取得する宅地等について適用されますが、2019年3 月31日以前から事業の用に供されていた宅地等については、この改正規定は適用されず、小規模宅地等の特例が適用できます。

(4) 個人版事業承継税制(個人の事業用資産の納税猶予制度)の創設
@ 改正の内容
   2019年1 月1 日から2028年12月31日までの贈与又は相続について、一定の要件を満たす場合には、その贈与又は相続により取得する一定の事業用資産について課税価格の100%に対応する税額が納税猶予されます。
A 適用要件
   2019年4 月1 日から2024年3 月31日までの5 年間に承継計画を都道府県に提出している場合で、事業の継続、担保の提供を条件に適用されます。
なお、この規定と小規模宅地等の特例のうち特定事業用宅地等の特例は選択適用となります。
B 適用対象資産
   事業の用に供していた宅地(面積上限400u)、建物(床面積上限800u)、その他一定の減価償却資産で、青色申告書に添付される貸借対照表に計上されているものが対象となります。
 ただし、不動産貸付事業等は除かれます。
C 適用開始時期
   この改正は2019年1 月1 日から2028年12月31日までの間の贈与又は相続について適用されます。

(5) 配偶者居住権の創設
@ 改正の内容
   民法改正に伴い創設された配偶者居住権について、相続税の計算上、配偶者居住権の評価額及び配偶者居住権が設定された建物及びその敷地の相続税評価額が規定されました。
A 建物の所有権の評価額(配偶者居住権以外の部分)
 
  ※ 居住権の存続年数は遺産分割協議書等に定められた配偶者居住権の存続期間の年数で、配偶者の平均余命年数が上限となります。
B 建物の配偶者居住権の評価額
   建物の相続税評価額からAの金額を控除した金額となります。
C 配偶者居住権が設定された建物の敷地の評価額(配偶者居住権以外の部分)
 
D 配偶者居住権が設定された建物の敷地の評価額
(配偶者居住権に対応する部分)
   土地の相続税評価額からCの金額を控除した金額となります。
E 適用開始時期
   この改正は2020年4 月1 日以後の相続について適用されます。

(6) 次に掲げる特例の適用期限が2年延長されました。
@ サービス付き高齢者向け住宅の特例
  (イ) 建物の固定資産税について当初5 年間、一定割合を減額する措置
  (ロ) 不動産取得税について、建物の課税標準の軽減及び敷地の税額控除の特例につき床面積要件の下限を緩和する措置
A 保育施設にかかる固定資産税等の特例
   企業主導型保育事業による保育施設にかかる固定資産税、都市計画税、事業所税についての課税標準の特例措置
B 登録免許税の特例
  (イ) 土地の売買による所有権移転登記に対する税率の軽減措置
  (ロ) 利用権設定等促進事業により農用地等を取得した場合の所有権の移転登記に対する登録免許税の税率の軽減措置
  (ハ) 信用保証協会等が受ける抵当権の設定登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置

(7) 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の拡充
   2019年度の税制改正項目ではありませんが、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税限度額について、今年度より非課税限度額の変更が予定されています。
@ 住宅用家屋の新築等に係る対価の額又は費用の額について適用される消費税率が10%である場合
 
住宅用家屋の新築等に係る
契約の締結期間
省エネルギー性・耐震性等を
備えた住宅用家屋
左記以外の
住宅用家屋
2019年4月〜2020年3月 3,000万円 2,500万円
2020年4月〜2021年3月 1,500万円 1,000万円
2021年4月〜2021年12月 1,200万円  700万円

A 上記@以外の場合
 
住宅用家屋の新築等に係る
契約の締結期間
省エネルギー性・耐震性等を
備えた住宅用家屋
左記以外の
住宅用家屋
2019年4月〜2020年3月 1,200万円 700万円
2020年4月〜2021年3月 1,000万円 500万円
2021年4月〜2021年12月  800万円 300万円


3. おわりに
   以上が2019年度税制改正のうち、主な項目の概要と改正点となります。
 税制の適用にあたっては、適用要件・適用開始時期・適用期日等を法令でご確認いただき、誤った適用が無いようにご注意ください。
   
以上

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン令和元年7月号執筆分