令和2年地価公示価格の概要について


不動産鑑定士  深澤 俊男

1.はじめに

 国土交通省は、令和2年3月18日に、令和2年地価公示結果(価格時点:1月1日)を公表しました。
 地価公示価格は、国土交通省土地鑑定委員会が委嘱した評価員である全国の不動産鑑定士の鑑定結果を基に公表する各年1月1日時点の土地の価格です。この制度は1969年に制定された「地価公示法」に基づいたもので、1970年から毎年実施されています。また、都道府県が実施している地価調査(価格時点:7月1日)とともに、土地取引等に対して指標を与えるとともに公共事業の用に供する土地に対する補償金額の算定等に資すること等により、適正な地価の形成に寄与することを目的としています。
 さらに、この地価公示価格と都道府県地価調査価格は相続税や贈与税の算定基準として国税庁が7月に発表する「相続税路線価」や市町村が課税主体である「固定資産税の評価」を定めるための評価作業の主要な指標となっています。
 令和2年地価公示における調査地点は全国で市街化区域20,567地点、市街化調整区域1,380地点、その他の都市計画区域4,035地点、都市計画区域外の公示区域18地点の計26,000地点となっています(うち東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示区域内の12地域については調査を休止しています)。なお、全ての標準地の代表性、中庸性、安定性、確定性等について点検を行った結果、適正と認められた25,732地点を継続の標準地として設定し、標準地の状況の変化に伴い前記条件に合致しなくなった268地点については選定替をおこなっています。


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2.全国の地価動向

 国土交通省HPを参考としてまとめたものが以下となります(参考資料【表2】)。
 (なお、令和2年の変動率とは、平成31年1月1日から令和2年1月1日までの一年間を前提としていますのでご注意ください。)
  • 全国平均では、全用途平均が5年連続の上昇となり、上昇幅も4年連続で拡大し上昇基調を強めています。用途別では、 住宅地は3年連続、商業地は5年連続、工業地は4年連続の上昇となり、いずれも上昇基調を強めています。
  • 三大都市圏をみると、全用途平均・住宅地・商業地・工業地のいずれについても、各圏域で上昇が継続し、東京圏及び大阪圏では上昇基調を強めています。
  • 地方圏をみると、全用途平均・住宅地は2年連続、商業地・工業地は3年連続の上昇となり、いずれも上昇基調を強めています。地方圏のうち、地方四市(札幌市、仙台市、広島市及び福岡市)では全ての用途で上昇が継続し、上昇基調を強めています。地方四市を除くその他の地域においても、全用途平均・商業地が平成4年以来28年ぶりに上昇、住宅地 は平成8年から続いた下落から横ばいとなり、工業地は2年連続の上昇となりました。
【住宅地】
  • 雇用・所得環境の改善が続く中、低金利環境の継続や住宅取得支援施策等による需要の下支え効果もあって、交通利便性や住環境の優れた地域を中心に需要が堅調です。全国的に住宅地の地価の回復が進展し、全国の平均変動率は 0.8%と3 年連続の上昇となり、上昇幅も2年連続で拡大し上昇基調を強めています。
  • 圏域別にみると、
    • 東京圏の平均変動率は 1.4%と7年連続の上昇となり、上昇幅も5年連続で拡大しています。
    • 大阪圏の平均変動率は 0.4%と3年連続の上昇となり、上昇幅も2年連続で拡大しています。
    • 名古屋圏の平均変動率は 1.1%と7年連続の上昇となったが、上昇幅は昨年より縮小しました。
    • 地方圏の平均変動率は 0.5%と2年連続の上昇となり、上昇幅も昨年より拡大しています。地方圏のうち、地方四市(札幌市、仙台市、広島市及び福岡市)の平均変動率は 5.9%と7年連続の上昇となり、上昇幅も6年連続で拡大しています。地方四市を除くその他の地域の平均変動率は 0.0%と平成8年から続いた下落から横ばいとなりました。
【商業地】
  • 景気回復、良好な資金調達環境の下、企業による人材確保等を目的として、オフィスビルに対する需要が堅調であり、空室率の低下・賃料の上昇傾向が継続しています。また、外国人観光客をはじめとする国内外からの訪問客の増加により収益性の向上が見込まれる地域、交通インフラの整備や再開発の進展に伴い利便性や繁華性の向上が見られる地域などでは、店舗、ホテル等の需要が堅調です。地方都市を含め、鉄道駅周辺などではマンション需要との競合も見られ、こうした多様な需要が競合することにより地価が上昇しており、全国の平均変動率は 3.1%と5年連続の上昇となり、上昇幅も4年連続で拡大し上昇基調を強めています。
  • 圏域別にみると、
    • 東京圏の平均変動率は5.2%と7年連続の上昇となり、上昇幅も6年連続で拡大しています。
    • 大阪圏の平均変動率は6.9%と7年連続の上昇となり、上昇幅も6年連続で拡大しています。
    • 名古屋圏の平均変動率は4.1%と7年連続の上昇となりましたが、上昇幅は昨年より縮小しました。
    • 地方圏の平均変動率は 1.5%と3年連続の上昇となり、上昇幅も2年連続で拡大しています。地方圏のうち、地方四市の平均変動率は 11.3%と7年連続の上昇となり、上昇幅も6年連続で拡大しています。地方四市を除くその他の地域の平均変動率は 0.3%となり、平成4年以来28年ぶりに上昇に転じました。
【工業地】
  • インターネット通販の普及・拡大に伴う物流施設の建設や工場の立地・拡張の動き等、全国的に工業地への需要の回復が見られます。特に、高速道路のインターチェンジ周辺等の交通利便性に優れた地域では大型物流施設建設に対する需要が強くみられます。このため、工業地の地価は総じて堅調に推移し、全国の平均変動率は 1.8%と4年連続の上昇となり、上昇幅も3年連 続で拡大し上昇基調を強めています。
  • 圏域別にみると、
    • 東京圏の平均変動率は3.0%と7年連続の上昇、大阪圏の平均変動率は2.8%と5年連続の上昇、名古屋圏の平均変動率は0.7%と5年連続の上昇となりました。
    • 地方圏の平均変動率は1.1%と3年連続の上昇となりました。地方圏のうち、地方四市の平均変動率は5.6%と7年連続の上昇となり、地方四市を除くその他の地域の平均変動率についても0.8%と2年連続の上昇となりました。

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3.大阪府内の動向

 国土交通省HPを参考としてまとめたものが以下となります(参考資料【表3】〜【表7】)。
(なお、令和2年の変動率とは、平成31年1月1日から令和2年1月1日までの一年間を前提としていますのでご注意ください。)

■大阪市内の住宅地
 大阪市では、1.2%上昇(前年0.8%上昇、以下同)。横ばいの大正区及び旭区を除く全ての区で上昇が続いており、多くの区(24区のうち16区)で上昇幅が昨年より拡大しました。
 西区では、市中心部での旺盛なマンション用地需要を背景に、20.3%上昇(9.5%上昇)と顕著な上昇を示しました。

■大阪市外の住宅地
 堺市では、2.1%上昇(1.5%上昇)。美原区が下落から上昇に転じ、下落が続く南区を除き全ての区で上昇しており、多くの区で上昇幅が昨年より拡大しました。北区では、地下鉄御堂筋線の始発駅であるなかもず駅周辺の需要が堅調です。
 北大阪では、鉄道駅徒歩圏でのマンション用地や大阪・京都への交通利便性の良好な住宅地の需要が堅調で、吹田市、箕面市、豊中市、茨木市、池田市などで上昇が続いています。東大阪及び南大阪では、関西国際空港の関係者による需要が堅調な空港周辺を除き、下落が続いている市町村が多く見られます。

■大阪市内の商業地
 大阪市では、13.3%上昇(10.6%上昇)。東住吉区が下落から上昇に転じ、横ばいが続く旭区を除く全ての区で上昇しており、多くの区 (24区のうち18区)で上昇幅が昨年より拡大しました。外国人観光客で賑わう心斎橋・なんば地区では、店舗・ホテル用地 需要が引き続き旺盛であり、中央区で18.2%上昇(15.1%上昇)、浪速区で17.7%上昇(16.7%上昇)となりました。梅田地区(JR大阪駅周辺)では、オフィス需給が逼迫していることに加え、店舗・ホテル用地需要が競合し、北区では17.2%上昇(15.1%上昇)となった。 旺盛なホテル・マンション用地需要を背景に、西区で20.3%上昇(10.6%上昇)と顕著な上昇を示しました。

■大阪市外の商業地
 堺市では、6.5%上昇(6.3%上昇)。横ばいが続く美原区を除く全ての区で上昇しており、多くの区で上昇幅が昨年より拡大しました。北区及び堺区では、利便性の高い鉄道駅周辺を中心に店舗需要やマンション用地需要が堅調であり、上昇が顕著です。
 北大阪では、全ての市町で上昇が続いています。
 江坂駅周辺でのホテル・マンション用地需要に加えオフィス需要も堅調な吹田市、千里中央駅周辺の再開発により更なる発展への期待が高まる豊中市での上昇が顕著です。
 東大阪及び南大阪では、下落となった松原市を除き、全ての市町で上昇又は横ばいとなっています。


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4.大阪府内の特徴的な動向

 国土交通省HPなどを参考にして、大阪府内の特徴的な動向を示す具体的地点をまとめたものが以下となります。

■大阪・心斎橋地区における店舗需要 [大阪市中央区]
 (価格順位大阪圏1位)
  • 大阪中央5-2 [商業地] なんば駅230m 28,700,000円/u (44.9%上昇)
    心斎橋地区では、外国人観光客を中心に賑わいを見せており、ドラッグストアをはじめ物販等の出店需要が旺盛であることから、引き続き地価が上昇しています。

■大阪・梅田地区におけるオフィス需要 [大阪市北区]
 (価格順位大阪圏2,4位)
  • 大阪北5-28[商業地]大阪駅近接 25,000,000円/u (31.6%上昇)
  • 大阪北5-29[商業地]大阪駅近接 16,900,000円/u (32.0%上昇)
    梅田地区では、旺盛なオフィス需要と近年の供給不足などから空室率の極めて低い状況が続いており、地価が上昇しています。

■千里中央駅周辺における再開発等の進展 [大阪府豊中市]
(地価上昇率(商業地)全国6位)
  • 豊中5-6[商業地]千里中央駅駅前広場接面:1,780,000円/u(41.3%上昇)
    千里中央駅周辺では、マンション開発に伴う背後地人口の増加や商業施設の再整備により繁華性が向上しており、今後の大型商業施設の一体再開発構想等による更なる発展への期待も相まって、地価が上昇しています。

■高速道路網整備の進展等による物流施設等需要 [大阪府枚方市]
(地価上昇率(工業地)全国4,7,8位)
  • 枚方9-1[工業地]樟葉駅3.5km:77,000円/u(17.6%上昇)
  • 枚方9-2[工業地]津田駅1.8km:71,000円/u(14.5%上昇)
  • 枚方9-3[工業地]村野駅1.6km:68,000円/u(14.3%上昇)
    新名神高速道路等広域の高速道路網の整備が進展し、内陸型の工業地への需要が堅調である中、第二京阪道路への交通アクセスが良好な枚方市の工業地に対する需要が強まっており、地価が上昇しています。

5.今回の地価公示を利用するにあたっての留意事項

 今回の地価公示価格は令和2年1月1日現在の価格を反映したもので、また、各種変動率についても平成31年1月1日から令和2年1月1日までの1年間を前提としているものであることから、令和2年におけるいわゆる新型コロナショックはほぼ影響していないことにご留意ください。

(参考資料)
  国土交通省HP 土地水資源局 地価調査課 発表資料
  大阪府地価だより 令和2年3月19日発行 第90号
以上

令和2年5月号(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン執筆分