『民法が再び改正されます(所有者不明土地関係)』


弁護士 住原秀一



1 はじめに

 令和3年4月21日、民法・不動産登記法を改正する「民法等の一部を改正する法律」と、土地所有権の放棄を可能にする「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立し、令和3年4月28日に公布されました。公布から2年以内に施行されることとなっており、令和5年4月頃までに改正法が施行される見込です。
 これまで、民法は、令和元年7月の相続法改正に令和2年4月の債権法改正と大型改正が続きましたが、今回は物権法と相続法の一部について改正が行われます。
 宅建業者の皆様としては、隣地の所有者や対象物件の他の共有者と連絡が付かないなどの理由で、依頼を受けた不動産の売却を進められないということがあると思います。しかし、そのような場合でも、今回の改正法により対応できる場面があります。
 なお、本稿は、令和3年3月にWeb上で実施された(一財)大阪府宅地建物取引士センターによる「第28回講演会 民法(物権法)・不動産登記法改正の動向(所有者不明土地の利活用の円滑化等について 宅建業者の立場から)」を元に、その要点のみを短くまとめたものです。詳細を知りたい方は、講演録(令和3年5月 同センター出版)を御覧ください。
 それでは、改正法のポイントを見ていきましょう。


2 所有者不明の隣地の使用

 外壁工事のため隣地を一時的に使わせてもらいたい、境界標の確認のため隣地に一時的に立ち入らせてもらいたい、といった場合、原則として隣地の所有者の承諾を得る必要があります。しかし、登記簿を確認しても、相続登記がされず放置されてきたため、現在の所有者が誰なのかが分からないという場面は少なくありません。このような場合、現行法(民法209条)では、隣地所有者を調査して訴訟を起こし、「土地の使用を承諾せよ」という判決を取るという対応方法しかありませんでした。
 改正法では、土地の境界付近における建物の修繕工事、境界に関する測量など隣地の使用を必要とする一定の場合(
改正民法209条1項1〜3号)、登記簿上の住所地の現地確認や市町村役場への聞き取りなどの調査を行っても隣地所有者の所在が判明しないときは、特段の手続を踏まなくても隣地を使用しても良いことになります。改正法では、後日、隣地所有者の所在が判明したときに、何の目的でいつからいつまでどのような使用をしたかを通知すれば良いということになっています(法務省法制審議会民法・不動産登記法部会の部会資料56・3頁 http://www.moj.go.jp/content/001338771.pdf 同59・3頁 http://www.moj.go.jp/content/001340117.pdf 参照)。
 また、隣地所有者と連絡が取れても、不合理な理由で使用を拒絶されることがあります。このような場合の対策として、改正法では、上記のような隣地使用の必要がある場合には、使用の目的、日時、場所及び方法を事前通知しさえすれば、承諾がなくても隣地を使用できるようになります(
改正民法209条1項・3項。ただし、隣地所有者が被る損害について償金を支払うことが必要です(改正民法209条4項

改正民法

 (隣地の使用)

 第209条 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。

 一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕

 二 境界標の調査又は境界に関する測量

 三 第233条第3項の規定による枝の切取り

2 前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している
 者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ば
 なければならない。

3 第1項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を
 隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが
 困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。

4 第1項の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を
 請求することができる。


3 共有者の一部と連絡が付かない場合の共有不動産の売却

 相続等によって不動産が親族同士の共有となったものの、その後長年放置され、共有の親族と連絡が取れなくなり、不動産の処分ができないということは少なくありません。共有持分だけを売却するのも法的には可能ですが、それでは買い手はめったに見つかりません。宅建業者の皆様としては、このような不動産は手が付けられないと考えてこられたと思います。
 改正法では、このような不動産も売却が可能となります。「所在等不明共有者の持分の譲渡」という新しい手続が設けられたからです(改正民法262条の3)。具体的には、@連絡が付く共有者から売却媒介の依頼を受ける、A買主候補者を探して売却条件を交渉する、B他の共有者の所在が不明であることを示す証拠を添付して「所在等不明共有者の持分の譲渡」の許可の申立てを裁判所に対して行う、C裁判所の許可が得られた後に決済を行う(契約締結は停止条件付きであれば許可前でも可能)、D決済の際に他の共有者の持分の価格に相当する金額(例えば売買代金が1000万円であり、連絡が付かない他の共有者の持分が1/2であれば、1000万円×1/2=500万円)を法務局に供託する、という手続をとることで売却できます。共有者に売却の承諾を得る代わりに、裁判所の許可を取るというものです。
 なお、相続開始(元々の所有者の死亡)から10年以内の場合、まずは遺産分割の手続で対応すべきため、遺産分割前に「所在等不明共有者の持分の譲渡」の手続を使うことはできません。まず遺産分割審判をもらって通常の共有に切り替える必要があります。

改正民法

 (所在等不明共有者の持分の譲渡)

第262条の3 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることが
 できず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その
 共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の
 共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として
 所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることが
 できる。
2 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合
(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過
 していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。
3 第1項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に
 譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を
 所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
4 前三項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に
 属する場合について準用する。



4 電気引込線・ガス管・給水管の設置

 隣地を通らないと電気・ガス・水道の引込みができないということは少なくありません。しかし、現行法では、引込みのため他人の土地を使用して良いかどうかについて明文の規定がなく、解決のための法解釈も確立していません(例外として下水道は下水道法11条という規定があります。)。
 改正法では、他人の土地に給水管を設置するなど、他人の土地を使用しなければ電気、ガス、水道水の供給を受けることができない場合、その土地の所有者に対してあらかじめ通知を行えば、承諾を得なくとも他人の土地に給水管等の設置をすることができるようになります(改正民法213条の2第1項・3項)。ただし、その土地の所有者に対する損害が最も少なくなる工事方法を採用することが必要であり(同条2項)、また、その損害に対する償金を支払わなければなりません(同条4項、改正民法209条4項)。
 なお、現行法でも、改正法に比べて制約は大きいものの解決の方法はあります。法務省が平成30年1月に発表した「所有者不明私道への対応ガイドライン」を御覧ください。


改正民法

 (継続的給付を受けるための設備の設置権等)

第213条の2 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用
 しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下この項及び
 次条第1項において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を
 受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する
 ことができる。
2 前項の場合には、設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人が所有する設備
 (次項において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければなら
 ない。
3 第1項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、
 あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している
 者に通知しなければならない。
4 第1項の規定による権利を有する者は、同項の規定により他の土地に設備を設置し、又は
 他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を
 使用することができる。この場合においては、第209条第1項ただし書及び第2項から
 第4項までの規定を準用する。
5 第1項の規定により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(前項において準用
 する第209条第4項に規定する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。
 ただし、1年ごとにその償金を支払うことができる。
6 第1項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために
 生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
7 第1項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、
 その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。


5 買戻特約登記がある不動産の売買

 対象物件の登記簿に買戻特約が付いているが、元々の売主が廃業していて連絡が付かないため買戻特約登記が抹消できず、それが原因で対象物件の売却が困難という場合があります。現行法では、買戻特約登記の抹消登記請求訴訟を起こし、売主の特別代理人を選任してもらって訴訟を進行させ、判決により買戻特約登記を抹消する方法などがあります。しかし、このような方法は費用面・時間面でもかなりの負担が掛かります。
 改正法では、売買契約の日から10年間が経過していれば、売主の承諾を得なくても、現在の所有者が単独で買戻特約登記の抹消登記の申請が可能となります(改正不動産登記法69条の2)。

改正不動産登記法

 (買戻しの特約に関する登記の抹消)

第69条の2 買戻しの特約に関する登記がされている場合において、契約の日から10年を
 経過したときは、第60条の規定にかかわらず、登記権利者は、単独で当該登記の抹消を申請
 することができる。

6 まとめ

 以上のとおり、改正法は、所有者不明土地に関する問題の解決方法を新たに創設したものです。宅建業者の皆様にとって、これまで取り扱えなかった不動産の売却が可能になる場面もありますので、本稿をきっかけとして、改正法を更に調べていただければ幸いです。
 なお、改正不動産登記法では、相続登記の義務化(相続を知った日から3年以内)や所有者の住所変更登記の義務化(住所変更から2年以内)などの改正もなされています。また、新たに制定された「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」では、一定の要件の下で相続により取得した土地の所有権を放棄する(正確には国庫に帰属させる)ことが可能になります。本稿では、宅建業者の皆様にとってプラスになる事項を中心に改正法を紹介しましたが、それ以外の改正点にも御注意ください。

以上

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン令和3年7月号執筆分