『令和3年路線価について』


不動産鑑定士 横井 敬史



1 はじめに

 国税庁は、令和3年7月1日に、令和3年分の路線価を発表しました。
 この路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額のことであり、路線価が定められている地域において、相続、遺贈又は贈与により取得した財産に係る相続税及び贈与税の財産を評価する場合に適用します。国土交通省が毎年3 月に発表する公示地価をベースに、売買実例や不動産鑑定士の意見を踏まえて算出されており、路線価は公示地価の約8 割の水準となっています。この路線価の各地区詳細等は、国税庁ホームペジで直近 7 年分を閲覧することができます。路線価図には1 平方メートルあたりの単価が千円単位で表示されていますので、たとえば図中に「200」とあればその単価が20万円ということになります。
 (国税庁の路線価閲覧ページ:http://www.rosenka.nta.go.jp/

 公的機関が公表する地価には、この路線価の他にも、国土交通省による地価公示、都道府県による地価調査、市区町村による固定資産税評価額があり、その内容や役割はやや異なりながらも、例えば路線価の算定に当たっては地価公示価格を主要な指標とする等、それぞれが密接な関わりを持っています。(【表1】参照)。


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 なお、地価公示、地価調査、固定資産税評価額は、敷地そのものについての価格を算出しますが、路線価は一定の距離をもった路線(道路)に対して価格が決められます。つまり、その路線に面する宅地の価格はすべて同じという考えかたで、個々の敷地における価格はその規模や形状などに応じて補正をします。都市部の市街地では、ほぼすべての路線に対して価格が付けられるため、その基礎となる調査地点(標準宅地)の数は全国で約32万地点に及びます。


2 全国の地価動向

 全国約32万地点の標準宅地の評価額の対前年変動率は、全国平均でマイナス0.5%となり、6年ぶりに前年を下回りました。新型コロナウィルス感染拡大の影響で観光地や繁華街などを中心に多くの地域で弱含みとなりました。
 都道府県別では39都府県が下落し、東京や大阪、愛知などの13都府県がマイナスに転じました。下落率が最も大きかったのは静岡の1.6%で、1.4%の岐阜や愛媛などが続いています。一方、北海道と宮城、福岡など7道県は上昇したものの、上昇幅は最大1.8%に留まっています。
 なお、全国の最高路線価は1986年から36年連続で東京・銀座中央通りにある文具店「鳩居堂」前の銀座中央通りで4,272万円/u でしたが、前年比7.0%減、9年ぶりにマイナスに転じています。
 また、都道府県庁所在地の最高路線価をみると、都道府県庁所在地の最高路線価も、22都市でマイナスになりました。最も大きく下がったのは奈良市の12.5%で、神戸市9.7%、大阪市8.5%、盛岡市8.0%と続いています。奈良、神戸、大阪ともインバウンドの恩恵を大きく受けていた地域であり、新型コロナ前まで激増していたインバウンドが蒸発したことにより観光客が大幅に減少、観光客を目当てとしていた飲食店やドラッグストアなどが撤退し、空き店舗が増えるなどして結果的に地価の下落へと繋がっています。なお、上昇率が最も高かった仙台市でも3.8%で、昨年の那覇市(40.8%)、大阪市(35.0%)と比べ上昇率は小幅となりました。(【表2】参照)。


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3 大阪府内の地価動向

 府内の平均は前年比0.9%減で8年ぶりに下落に転じました。新型コロナウィルス感染拡大に伴い、インバウンド(訪日外国人観光客)の減少が長期化したことや、度重なる飲食店への営業時間短縮要請が続いたことなどが大きく影響していると見られています。税務署ごとの最高路線価でみても、府内31地点中、上昇したのは2地点にとどまり、昨年の28地点から大幅な減少となっています。
 大阪の最高路線価は北区角田町の「阪急うめだ本店前」の1,976万円/uであり、1984年から38年連続でトップではあったものの、対前年比はマイナス8.5%となりました。また、ミナミでも中央区心斎橋筋2丁目の「心斎橋筋」は下落率が全国ワーストの26.4%となるなど、大阪市都市部を中心に下落が目立っています。
 一方、高槻市、豊中市などの北摂地域においては、主にファミリー向けの新築マンションの取引が好調であり、路線価は上昇傾向にあります。コロナ禍での「テレワーク」が進み、大阪・京都への交通利便性に加え、住環境や居住の快適性などを尊重する動きが出始め、ファミリータイプのマンションへの需要が高まったと見られます。(【表3】参照)

 なお、今後の地価の推移によっては、昨年分と同様に、路線価等を減額補正(下方修正)する措置を導入する可能性もあるとみられています。


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4 今後の動向

 国土交通省が四半期ごとに調査発表している、主要都市の高度利用地地価動向報告「地価LOOKレポート」によると、最新の調査(第54 回令和3 年第1 四半期の動向)では、令和3年第1四半期(令和3年1/1〜令和3年4/1)の主要都市の高度利用地等100地区における地価動向は、下落が27地区(前回38)、横ばいが45地区(前回47)、上昇が28地区(前回15)となり、前期と比較すると、下落地区数及び横ばい地区数が減少、上昇地区数が増加しており、地価の回復傾向が伺えています。
 住宅地では、マンションの販売状況が堅調な中、事業者の素地取得の動きが回復している地区が増加しており、商業地では、法人投資家等による取引の動きが戻り、横ばい・上昇に転じた地区が見られています。また、新型コロナウィルス感染症の影響により、店舗等の収益性が低下し下落が継続している地区があるものの、下落地区数は減少しています。大阪においても、今年4 月下旬に道頓堀のランドマークでもある「住友商事心斎橋ビル」をドイツの不動産投資会社が取得し話題となったように、海外の投資マネーの動きも出始めているようです。
 今のところ、新型コロナウィルスが不動産に与えた影響としては、主に商業地とオフィス需要に限定され、住宅地については一部郊外で人気が高まった地域があるものの全体的には大きな影響はありません。
 大阪においては、2025年開催の大阪万博や2028年開業予定の大阪IR(統合型リゾート施設)による経済波及効果が期待されてはいますが、8 月に緊急事態宣言が再発令される等、コロナウィルス感染収束の見通しは立たず先行きは未だ不透明であり、今後については海外を含め、感染状況・経済状況に注視が必要と思われます。

 (参考資料)
   国税庁HP
   大阪国税局HP
   国土交通省「地価LOOKレポート」

以上

(一財)大阪府宅地建物取引士センターメールマガジン令和3年8月号執筆分