5 裁判所の判断
裁判所は、Yの債務不履行を認めたうえで、損害額については一部のみを認め、「YはXに454万円を支払え」との判決を下した。
(1) Yの債務不履行について
ア
YはXに対し、本件媒介契約に基づく善管注意義務として、Xにとって重要な事項について、自ら調査し又は売主から資料等の提供を受けるなどして、正確な情報を説明、告知すべき義務を負う。
イ
本件建物1階は、建築確認通知書や検査済証交付の時点では駐車場とされていたが、その後店舗に改造されたため、当該用途変更により容積率超過の状態であった。しかし、Yは本件建物1階が駐車場として建築確認を受けていることを説明せず、本件建物の図面を交付することもなかったから、Yには建ぺい率及び容積率違反の有無、建築確認申請の状況、本件建物の概況に係る、説明・告知義務を果たしたとはいえず、債務不履行責任を負う。
ウ
本件建物の賃貸借契約の状況は、不動産売買契約の締結にあたり、Xにとっては重要な事項であり、Yは、Xに対し、その正確な情報を説明、告知する義務を負うところ、Yは裏付けとなる賃貸借契約書等の客観的資料を確認しないまま、Aが作成したという家賃管理表の内容を鵜呑みにして、何らの留保を付けることなく、事実と異なる賃貸状況表を作成し、Xに説明したものであるから、本件建物の賃貸借契約の状況に係る説明、告知義務違反により債務不履行責任を負う。
(2) Xの損害額について
ア
X主張の、1階部分のテナントキャンセルによる損害については、建物1階が駐車場として建築確認を受けている旨を明らかにして入居者を募集していたならば、そもそもテナント申し込みはなかったと認められるから、Yの説明義務との因果関係は認められない。
イ
Y説明の賃料収入額と実際の賃料収入額との差額による損害については、建物の引き渡し後から本件訴訟の口頭弁論終結時までの間の143万円をもって、Yの債務不履行による損害と認めるのが相当である。
ウ
X主張の媒介手数料の損害については、本件売買契約自体の締結には至っており、本件売買契約が解除されたわけではない。よって、全額を損害と認めるのではなく、Yの本件建物の容積率違反の有無の説明・告知義務違反の内容、程度等に鑑み、支払済媒介手数料の半額311万円余を損害と認めるのが相当である。
(3) 以上によれば、Yの債務不履行によりXが被った損害は、
合計454万円となる。